第27話 時の重さ
砂漠に朽ち果てた道。見覚えのある光景だ。
「ここは、こっちに最初に来た所辺りだよ」
キョロキョロしていると、東の魔王が僕の知りたいことを答えてくれた。
「どうして、アリマススが」
あの恨みに満ちた瞳が頭から離れない。あの憎しみの籠った声が耳にこびり付いている。
「全く。ジョウ、君の話では彼女は仲間なのではなかったのかい? あれは、どう見ても敵に向ける感情だったわよ」
東の魔王は、腕に刺さった矢を引き抜きく。
「大丈夫?」
「こんなものは、唾つけておけば治るわ」
血が溢れ出したが、東の魔王は平然とした顔で反対の手で傷口を押さえた。
「僕にもサッパリ分からない。別れる時は寂しそうだったけど、最後は笑顔で見送ってくれたし」
ほんのり温かい胸元に手を当てる。
「それに、このお守りも持たせてくれたのだよ」
ペンダントをシャツの中から引っ張り出すと、東の魔王に見せた。
「ほう。エルフのお守りか。それを彼女から貰ったとするならば、相当な親愛の情があった筈なのだけど」
「確かに、信頼し合ったいい仲間だったのに。そう思っていたのは、僕だけだったというのか」
冷静に考え始めると、とても悲しくなってしまう。油断すると涙が零れてしまいそうだ。
「いや、きっと君が去ってから、何かが起きたのでしょう。それを君の仕業ということにされてしまった、という所かしら」
「それなら、何とかアリマススと話し合えれば、分かって貰えるかも」
誤解ならば、早く解いておきたい。
「それは、きっと難しいと思うわよ。君の顔を見るなりに、問答無用で襲い掛かって来たのを忘れたの。あれは相当強い恨みを持っている筈だわ」
「でも、早く対処しないと。時間を掛ける程、大事になる」
こういうことは、初動が大切なのだ。時間の経過と共に、分かり合えるまでに必要な時間も増えてしまうのだから。
「それに関しては、もう手遅れと言わざるを得ないわ。だって、350年経過してしまっているのよ」
「あっ」
そうだ、アリマススがあの時のままの姿だったから忘れていたが、今は僕が前にいたウゾルクから350年後のウゾルクなのである。即ち、誤解を350年もの間放置し続けた結果が、今のアリマススの態度だということだ。一朝一夕で解けるような誤解ではなくなってしまっていることだろう。
「一先ず、私の領地に向かいましょう。色々と情報を入手しないと、今後の方策も立てられないわ」
「そうだね。じゃあ、宜しく」
僕は東の魔王の手を握る。
「えっ!」
「えっ?」
東の魔王が驚いたように僕の手を振り解くと、スススッと僕から距離を取った。
「な、何するのよ! いきなり!」
「あれっ? 転移するんじゃないの?」
東の魔王は顔を真っ赤にして喚いている。僕は訳が分からずに、疑問を口にした。
「うへぇっ! な、なんだ。そういうことなら早く言ってよね! 転移はしないわ。私の転移は知っている場所にしか行けないの。何がどう変わっているか分からない場所へは危ないわ。着いたら壁の中とか、嫌でしょ」
「その場合、壁に埋もれるだけなのか、瞬間的に圧死するのかは、気になるけど。死ぬ危険を犯してまで、確かめたいとは思わないな」
僕は別に、知識欲の権化ではない。命あっての物種である。
「それが賢明ね。さて、こんな何もない所でゆっくりしているのは危険だから、早速移動しましょう」
僕らは、アクトリンドまで戻ると、東へと伸びている道の残骸を辿って歩いて行く。
暫く歩いて行くと、結界の境界を越える。
「何度経験しても、慣れないな」
突然、目の前の景色が変わるのだ。変な気持ちにならない方がおかしいと思う。
やはり、道はボロボロになってしまっているが、周りが木々に囲まれているので林の小道といった感じで違和感はあまり無い。
「東の魔王が治めていた地までは、どのくらい掛かるの?」
「さあ? 移動は転移ばかりだったしね。確か、最初にアクトリンドへ行った時は、馬車で1日位だったかな? 幼くてよく覚えていないわ」
それを聞いて、どっと不安が押し寄せて来たのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます