新たな冒険

第22話 新たなる一歩

 なんとか東の魔王も、僕に対する怒りを収めてくれた。というよりも、初めから東の魔王自身、それが八つ当たりに近いものだと認識していたようだ。ただ、怒りの持って行き場として、良く知らない僕が適任だったのだろう。


「じゃあ、行くから。私に掴まって」

「えっ、行くって。看護師さんに見られてもいいのですか?」

 看護師さんが西の魔王からどこまで聞いているのかわからない以上、魔法を目撃させるのはまずいのではないだろうか。

「大丈夫だよ」

 東の魔王が看護師さんの方へと視線を向ける。釣られて見ると、看護師さんは床に突っ伏して気を失っていた。


「さあ、行くよ」

 東の魔王が僕の右手を掴んだ直後、目の前の景色が大きく歪む。自分が動いているのか周りが動いているのかよくわからなくなる。ぐにゃぐにゃと蠢く視界に気持ち悪くなるが、吐く程ではない。

『パキン!』

 何か堅い物同士がぶつかったような音が響いた。

「くっ、邪魔が入った。いい、絶対に離すんじゃないわよ」

 強く握られたので、僕も右手に力を入れてしっかりと東の魔王の左手を握り返す。


 東の魔王を中心にして高速で回転でもしているのだろうか、僕の体は逆方向へと引っ張られる。片手じゃ心許なくなったので、左手で東の魔王の手首あたりを掴む。体は既に横倒し状態で、振り回されている。握る手に力を入れて、振り解かれないようにするのが精一杯だ。


 ひどい耳鳴りと頭痛に手の力が緩みそうになった。東の魔王がぎゅっと握ってくれたことで、なんとか最後の力を振り絞り離さずに済んだ。

『ドン』

「うぐぅ」

 音と共に体が叩き付けられる。しかし、それで止まらずに回転しながら体のあちらこちらを打ち付けつつ転がっていった。


 暫く慣性で転がっていたが、やがて勢いも落ちていき、遂には止まる。そこかしこが痛くて、暫くは蹲ったまま動けない。それでも、骨折などの大怪我はしてないようだ。

「おい、生きているか?」

 近付いてきた東の魔王は右手を差し出してきた。

「あ、はは。なんとか、ね」

 僕はその手を掴むと、支えにして起き上がる。その過程で東の魔王の左手が目に入ってしまった。


「東の魔王。その左手。ごめんなさい」

「気にしないで。こんなもの、そのうち消えるわ」

 東の魔王の左手首には、握っていた僕の手の痕が痣として赤く残ってしまっている。

「あの状況で離さなかったことは、褒めてあげる。もし離していたら、貴方は次元の狭間で一生彷徨うことになっていたわ」

 恐ろしい言葉が、現実のものにならなくて一安心だ。


「それで、ここはどこなのでしょうか」

 周りは砂漠で、アクトリンドへと向かって行った時に通った場所と似ている。だけど、あの時みたいに綺麗な真鉱石の道は無い。道っぽいものはあるにはあるが、今にも朽ち果てそうな石畳でぼろぼろだから、でこぼこしてしまっている。

「ウゾルクには違いない筈、ではあるが……」

 周りを見渡した東の魔王にも見覚えのない場所らしい。


「一先ず、道沿いに進んでみるか」

 東の魔王が先に立って歩き出す。石畳は強く踏むと崩れてしまうが、でこぼこしてるからどうしても力が入ってしまう。結果、僕達の進んだ後には、見るも無残な石畳の残骸が残った。

 生き物の気配は全くしない。危険な生物がいても困るのだが、全くいないのも不気味である。


 どのくらい進んだだろうか、突如纏わりつくような感覚を全身で感じた。

「うっ、この感じ、前にどこかで」

 似たようなものを経験した気がする。

「そんな、こんなことが? 一体、なにが起きたというの」

 突然目の前に廃墟が出現した。東の魔王は、酷く狼狽えてしまっている。


 ああ、そうだ。この感覚も同じだ。前にアクトリンドへ来た時と。そして、廃墟と化しているが、この街並みは確かにアクトリンドのものなのであった。

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