第23話 真実は如何に
ほんの数ヶ月、ウゾルクを離れていたのはそれだけの時間だった筈だ。それなのに、この世界で一番の都市であったアクトリンドはものの見事に荒廃してしまっている。人の気配も何もない。
「ねえ、東の魔王。この状況は、アクトリンドが何らかの理由で廃墟と化してしまったのか、ウゾルクの人々に何かが起こったのか、どちらだと思う?」
思い付くのはこれくらいだ。出来れば後者ではあって欲しくはない。
「前者だと思うわ。いえ、思いたいだけね。そもそも、ここは本当にウゾルクなのかしら」
「というと?」
東の魔王は辺りを見回しながら、所々で首を傾げたりしている。
「確かに、アクトリンドによく似ているというのは否定しないわ。ただ、ちょっとした違いがそこかしこにあるの。アクトリンドに似せて造られた都市ということもあり得るわよ」
確かに言われてみると、あんな朽ちた石像はなかった。朽ち果ててないと考えても、あの場所に石像なんかが建っていた記憶はない。
「転移の魔法を使った時に、何か弾かれるような感覚があったの。それで、少し制御が出来なくなって」
「それで、あの惨劇が」
東の魔王の左手首の痣に視線がいってしまう。
「まあ、一先ず街を回ってみましょう。ここがアクトリンドなのかそうでないのか、決定的な何かが見付かるかもしれないし。それに、ひょっとしたら、誰かに会える可能性もゼロではない筈よ」
僕の視線に気付いた東の魔王は、腕組みをして隠してしまった。その上で、今後の方針を示す。
「そうですね。では、行きましょうか」
立ち尽くしていても、何も変わらない。であれば、行動を起こすのが良い。
「そうね。でも、人の気配はないとはいえ、警戒だけは怠らないように。では、貴方は西回りで」
「えっ?」
勝手に一緒に見て回るものだと思ってしまっていたが、東の魔王は、東へと歩みを進めて行く。まあ、分担した方が効率的であることは間違いない。
物音ひとつしないゴーストタウン化したアクトリンドを、一人でキョロキョロしながら進んでいく。
「この通りでビルトゥスがスリに遭って凹んでたっけ」
思い出の中のアクトリンドは色鮮やかで、悲しい記憶さえも色付いていた。
「ここの広場では、アリマススが痴漢を殴り倒したけど、殴ったのは無関係の人で痴漢には逃げられてしまったんだよな。その後、みんなで殴ってしまった人に平謝りしたんだった」
ぼろぼろの廃墟でもそこかしこに面影があり、思い出が刺激される。
「あれ? こんな所に石像なんかあったっけ」
広場の中央部に台座と朽ち果てた石像が鎮座していた。だが、これは記憶に無いものだ。この広場の中心には噴水とベンチがあるだけだった筈。
東の魔王の言っていたように、アクトリンドに似せて造られた別の街という線も否定しきれない。
しかし、その答えはすぐに知ることになる。
西回りに半周した所で、逆回りの東の魔王を見つけた。彼女の方が早かったようで、そこに立っている石碑のようなものと睨めっこをしているではないか。
「どうしたの? 何かわかった?」
冗談半分で声を掛けたのだが。
「ええ。凡そは、ね」
どれどれ、何て書いてあるのかな。東の魔王と肩を並べて石碑への視線を向けた。
『賢者歴276年に起こった西の魔王の反乱で甚大な被害を受けたアクトリンド。麗しの都は、異世界の住人である大犯罪人ジョウの呪いによって人の住めぬ地と化した。聖女様のお力で、解呪されはしたが離れた人は戻ることはなく、過去の悲劇を未来永劫伝える為に、当『滅亡の都保存館』の手によって賢者歴276年当時のままに保存されたものである』
「西の魔王の反乱? 僕が大犯罪人? そもそも呪いって?」
そこに刻まれている言葉には僕の名前もあるのに、知らない出来事ばかりである。
「事の真偽はわからないけど。ただ一つ確かなことは、ここはアクトリンドで私が転移前にいた年の状態のまま保存されているということだわ」
「そんな、それって僕が最初にウゾルクへ来た時のことだよね」
何もかもがおかしなことばかりだった。
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