第19話 冒険の終わり
一瞬、イリュージョンでも見たのかと思った。
だが、違う。
「まさか、空間魔法?」
僕の思いは声に出ていたようで、少女がこちらを一瞥した。
「空間魔法? 面白い表現をするわね。あれ? でもここには魔法はないのじゃなかったかしら」
なぜだか、厳しい視線を向けられてしまう。
「こっちの世界でも、創作物に魔法はよく出てくるのです」
「ふうん。そうなのね……とでも言うと思ったの。貴方のその物言いだと、私がこことは違う世界の住人だと知っているということよね」
少女は腕を組んで、不敵に笑って見せる。恐らく、勝ち誇っているのだろうが、その幼い容姿から精一杯大人ぶっているようにしか見えない。ちょっと、微笑ましくもある。
「僕はこの間まで、ウゾルクにいたんだ」
「ああ、貴方が例の『地図』くんね。西の魔王がいないのは予定外だけど、これで予定通り帰れるのね」
僕が素直に話すと、少女はすぐに理解したようで、嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべた。
「ちょっと待って。ということは、貴方が、貴方が、例の異世界からの訪問者ってことじゃないの!」
だが次の瞬間、少女は急に殺気立った。怒りに震えながら、一歩、また一歩と近付いてくる。これはヤバいと本能的に感じるが、拘束衣に包まれているのでどうすることも出来ない。
「貴方のせいで、どれだけの味方が殺されたか。獣人等めに、我が城を汚されもしてしまった。その罪は、万死に値する」
少女が手を振り上げる。その指先からは、少女に似つかわしくない獣じみた爪が生えていた。
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大賢者はその可憐な容姿に似つかわしくない歪な笑顔を、一瞬で引っ込める。
「約束通りに、転移の宝玉を取り返してきましたよ。これで、僕を元の世界へ帰してくれるんですよね」
「ええ。それで、西の魔王は討伐してくれたのですか」
そういえば、そんなことを言われていたかもしれない。
「ええっと、その。やり込めてはきましたよ」
口で論破しただけだけど……嘘は言っていない。
「そうですか。やはり、私が見込んだだけのことはありますね」
まあ、事実を歪曲して捉えたのは大賢者だからな。僕は悪くない、筈だ。
「そうだ。大賢者、様。お借りしていた武器をお返ししますね」
全く使うことは無かったのだけど。まあ、分銅鎖なんて特に使い所が限られるしね。
「それは、差し上げます。お土産にどうぞ」
「えっ、大丈夫なのですか? こんな貴重な物を他の世界へと持ち込んで」
この武器は普段は小ぶりなUSBメモリ程の大きさなのに、念じると所有者に見合った武器へと形を変える優れものなのだ。
「ええ、問題ありません。魔法の武器ですから、魔力が無い所では発動いたしませんわ」
成程、発動しなければただの金属片。思い出の品としては丁度良い。有難く頂くことにする。
「ジョウ様。本当に戻られるのですね」
ビルトゥスが寂しそうな目で僕を見つめている。僕もしっかりと見つめ返す。
「そんなに長い間ではなかったけど、楽しかった。ありがとう」
「こちらこそですよ。僕、いえ私は、このビルトゥスの名に恥じない男になります」
がっちりと握手を交わす。
「ジョウ様には感謝しかねえな。お前さんのことは集落に戻ってからも、英雄譚として伝え続けてやるからな」
ノルクッディは強がっているものの、涙目である。
「大袈裟にはしないで下さいね」
熱いハグを交わす。
「アリマススも、お世話になったね。ありがとう」
「ふん、しらないわ。勝手に、どこにでも戻っちゃえばいいのよ」
アリマススは顔を背ける。寂しさがその全身から漏れ出していた。
「では、そろそろ良いですか」
大賢者が宝玉を掲げて呪文を唱え始める。
「貴方は危なっかしいから、これを持って行きなさい」
アリマススがペンダントを僕の首に掛けた。
「温かい! これは?」
「エルフの、お守り、みたいなものよ」
熱を発し続ける特殊な鉱石から作られた物らしい。アリマススは、微笑むとすぐに距離を取る。一緒にいると巻き込まれてしまうのだろう。
「それじゃあ、さようなら。皆のことは忘れないよ」
何とか笑顔をつくって手を振る。皆も、寂しさを含んではいるが、最後に笑顔をみせてくれた。
こうして、僕の4ヶ月近いウゾルクの冒険は、幕を閉じるのであった。
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