第18話 解決
さて、この状況をどうしたものか。西野先生がいなくなった今、僕はこの拘束衣を外すことすら出来そうにないのだ。
それにしても、この拘束衣ジャラジャラとうるさい。普通、拘束衣といったら革のベルトで固定する物を思い浮かべるのではないか。だがこれは、鎖が巻かれて固定されていて、南京錠でロックされているのだ。
拘束衣を着せられた時点で、自分では脱げないのだから、わざわざ鍵をする必要は無いと思う。だが、鎖の固定も兼ねて、南京錠が必要なのだから仕方がない。
まあ、その辺は西野先生が異世界からやってきたことに所以するのだろう。
「ねえ、看護師さん。その機会のスイッチを入れてくれるかな」
その声を聞いて初めて、僕と看護師さん以外の人がここにいることに気が付く。動く範囲で声のした方へ顔を動かして、存在を確かめようとする。無理な体制に脇腹が攣りそうになるが、その甲斐あって少女の姿を確認できた。
少女は少し離れた所で、僕と同じように拘束衣を着せられて寝かされている。
「あの時の」
診察室の扉から見えた少女だった。
「西の魔王は、どうやら召喚されたようだね。私もこのままでは困る」
少女がギロリと看護師を睨み付けると、看護師は慌てて機械類を立ち上げ始める。
『キーン』と耳に響く音がしたと思ったら、何やら体にプレッシャーを感じた。四方八方から軽く押されている感じと言ったら伝わるかな。
『パチパチ』と静電気が弾けるような音もそこかしこから聞こえる。髪も膨らんでいるみたいなので、実際に静電気もしくはそれに準じる物が発生しているのだろう。
「うん。ちょっと歪だけど、これ位なら問題ないね」
一瞬、少女の姿が歪んで見えた。次の瞬間、少女はベッドの横に立っていたのだ。ベッドにはいましがたまで少女を拘束していた拘束衣がそのままの姿で残っている。抜け殻となってだが。
「はあっ?」
思わず間の抜けた声を上げてしまった。
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「はあっ!」
思わず上げてしまった声は、自分でも驚くほどに低く冷たい。
「いや、ですけどね。ニホンの決まり事が細かすぎるのですよ。何かしていると、やら資格や手続きや申請をしなきゃだめだと、うるさいのですから」
ほとほと困ったと言わんばかりの西の魔王をみて、ウゾルクの事情を考えてみる。確かに、日本では医療行為を行うには医師免許が必要だ。免許が相応の技術有していることを保証してくれる。
だが、ウゾルクでは医療行為に相当するのは治癒魔法や治療薬などになる。
魔法に関しては使えるか使えないかの1・0なので、免許なんて発想にもならないだろう。
治療薬は薬師が作った物を商人が売りさばく。なので、消費者の手には商人から渡ることになる。信用が大切な商人の目利きが間に入り、粗悪品は淘汰されていくので、こちらも認可等はなくても問題が起こることは少ない。
「確かにそうかもしれませんね。あれ? 洗脳って魔法で行ったのですよね。魔力の無い日本でどうやって?」
当初は体内の残留魔力でなんとかなるかも知れないが、そんなものすぐに尽きてしまうだろう。
「それは、疑似魔力と呼べるべきものを作り出すことに成功したからですよ」
無いのなら、作ってしまえ、疑似魔力。とでもいうところか。
「そうだ! 東の魔王が」
「やはり、東の魔王がやったのですね」
西の魔王が口にしたことで、僕の推論が間違っていないと証明される。
「転移させられたのですよね」
「転移? ああ、させられた? される寸前? まあ、そうですかね」
やはり、そうだった。
「東の魔王は、北の魔王の後押しで獣人族によって倒されましたから、安心して下い」
「倒された? あれ? 時間軸?」
何か考え込んでいるみたいだが、放っておこう。
「フィリミ。では、いいですね」
「はい、どうぞ」
こうして、僕は転移の宝玉を返して貰った。
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