第16話 再会と噛み合わない会話
西野先生は僕の言葉に困惑して、考え込んでしまう。
「どういうことです。その呼称を知っているのはわかりますが、私を見知っているというのはおかしい」
ぶつぶつと独り言をつぶやいている西野先生とは、微妙に齟齬がある気がする。
「おかしくありませんよ。ウゾルクで会っているじゃないですか。確かに僕もすぐには思い出せなかったけれど、僕の助言でフィリミがあなたを召喚出来たのですから」
異世界に渡ると記憶の齟齬が生じるのかもしれない、と思ったが。
「あっ、済みません。あの時とは逆になっていることを失念していました」
そう、時間軸のずれを忘れていた。今目の前にいる西野先生は、この先でウゾルクに帰って僕と出会うことになるのだ。その辺りを掻い摘んで説明する。
「譲くん。その話は嘘ではありませんね」
西野先生がじっと目を見つめてくる。ずっと見つめられ続けると、相手が同性だとしても照れ臭い。だが、本能的に逸らしてはいけないと感じた。
「はい」
だから、僕もしっかりと西野先生の目を見て答える。
「私の記憶がおかしい? いや、もしかすると」
西野先生は考え込んでしまう。その時に、目の前がぐにゃりと歪んだ。この感覚をしっている。召喚の時の歪みである。
「なんだ、これは。召喚? 呼ばれているのか」
西野先生の周りの歪みがどんどんと酷くなっていく。それに西野先生も同調している。
「西野先生。とりあえず、僕の拘束衣を解いて下さい」
拘束衣の鍵は、さっき看護師さんが西野先生へ手渡しているのを見た。
「ああ、そうだな」
西野先生にも状況が伝わったようで、僕の方へ近付いて……近付こうとして、その場で足踏みをしているだけだ。
決して、ふざけているわけではない。西野先生は確かに歩いている。一定の空間の中をループしながら。恐らく、召喚はもう始まっているのだろう。
目の前が真っ暗になる。西野先生がいた辺りだけが輝いていた。光と共に西野先生の姿が消えていくと同時に不協和音が鳴り響く。
目と耳がおかしくなってしまう。
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目も耳も一瞬麻痺したように機能しなくなる。
ほどなくして、視力が戻ると目の前には白衣を着た男が立っていた。
「パパ!」
フィリミが本当に嬉しそうに抱き付く。その姿を見て、召喚が成功したことを知る。
「譲くん、あれ」
白衣の男、もとい西の魔王が僕の方へ歩み寄ってきた。
「なぜ、僕の名を」
思わず、一歩後退る。フィリミが友好的だったからといって、西の魔王も友好的とは限らない。それに、ウゾルク最強の称号を持っているのだ。純粋に恐ろしくもある。
「どうした? 私だよ。西野先生だ」
「なあ、フィリミ。間違って召喚したんじゃないか」
ウゾルクに先生という呼称は存在しない。しかも、僕のことを知っているようだから、もしかすると僕と同じ世界から召喚された別人ではなかろうか。
西の魔王を召喚しようとして、西野先生を召喚した? って、ダジャレかーい!
「いえ、この魔力は、紛れもなくパパです。ただ、若干、老けたような」
僕が脳内で一人突っ込みをしてるとは知らずに、フィリミが西野先生を西の魔王で間違いないと力説してくれている。
「会いたかったぞ、我が愛息子。それにしても、5年も経ったのにちっとも成長してないではないか」
「何を仰っているのです? パパが召喚、いえ、転移させられたのは、3ヶ月前じゃないですか」
西の魔王は僕との会話の齟齬が気になってはいたようだが、久しぶりの子供との再会を喜ぶことを優先した。しかし、親子の抱擁中の会話がどうにも噛み合っていない。
整理しよう。西の魔王が飛ばされたのが3ヶ月前。西の魔王は5年を過ごしていた。更に、僕のことを知っている。
西の魔王が5年後から召喚された? いや、それだと僕を一目見てすぐ分かるのがおかしい。
「異世界に渡る時に、時間軸がずれる」
そういうことだろう。
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