第15話 真実を知る
僕は拘束衣を着せられて、ストレッチャーに乗せられている。あの時見た少女のように。
「どこへ行くのですか」
診察室に向かうのかと思ったのだが、方向が違うように感じる。それになんだか、どんどんと周りが雑多になっていくではないか。どうやら、バックヤードに入ったようだ。
「心配はありません。治療の為の部屋に向かっていますから」
奥の奥まで来ると、そこにはエレベーターがあった。なぜ2階もないこの病院にと思ったが、階数ボタンを見て納得する。1とBだったからだ。
「地下ですか」
「ええ、治療の特性上、遮音性が求められますから。街から外れているとはいえ、登山客やら近くのキャンプ場やらで人通りはそれなりにありますからね」
看護師さんの物言いでは、なにか人に聞かれてはまずい音が出ると言っているように聞こえる。治療にマンドゴラでも使うのだろうか。
「あれ?」
胸元がほんのりと温かくなった。ペンダントから発しているだろう温もりは、どんどんと強くなっていく。地下室の重々しい扉が開くと、ウゾルクにいた頃のような温かさになった。
その地下室だが、なんだか怪しげな装置が並んでいる。一際目に着くのは、それらに貼ってあるステッカーだ。黄色い三角にビックリマーク、下にはご丁寧に高電圧注意と書いてある。電気ショックでもするつもりだろうか。
「やあ、譲くん。待っていましたよ」
不敵な笑みを浮かべて地下室の中央に立っているその姿は、まるで死神のようだ。いや、魔王とでも言うべきか。
西野先生改め、西野魔王だな。
「んっ?」
西野魔王、ニシノマオウ。
「西の魔王!」
そうだ、先入観で見誤っていた。よくよく見てみれば西野先生は西の魔王に瓜二つじゃないか。
成程、そういうことか。
~~~
そういうことかと納得する。
謎は全て解けた! 口にしてみたかったが、恥ずかしさが勝って出来ない。
「西の魔王は東の魔王と対立していなかったか?」
「ええ、まあ。パパは大概の魔王とは敵対関係ですから」
やっぱり、思った通りである。
「犯人は、東の魔王だ! 力で敵わない西の魔王が邪魔で、どこかの異世界へと転移させた」
「ですが、それが分かったところで」
自信満々の僕に、言っても良いものかと遠慮がちにしょたが口を挟む。
「そうでもない。でも、その前に、僕はジョウ。君の名前を聞いても良いかな」
いい加減、しょた呼びはどうかと思って。とは言っても、脳内でのことだが。
「えっと、私はスオフェ=フィリミ、だよ」
「いいかい、フィリミ。僕が誰か厄介な人を数多ある別世界に飛ばすとしたら、間違いなく出来るだけ遠くへと飛ばす。それが、犯人の心理だ。騙されたと思って遠くから調べてみるといい」
恐らく、闇雲に探すよりかは、早く見つかるだろう。
別に、僕は急いでいるわけではないし、大賢者もいつまでにと時間を区切ってはいなかった。だから、数ヶ月位なら待つつもりなのだ。
もし、この作戦が駄目だったとしても、次を考えれば良い。それで西の魔王を呼び戻して、転移の宝玉を返して貰えばいいのだから。
「何が起きた!」
フィリミが何やらぶつぶつと唱えると、宝玉が呼応するように淡く光り出した。だが、次の瞬間、皆の叫び声があがったのだ。
目が潰れると思うような光が、一瞬で僕らを駆け抜けた。続いて、耳をつんざくような激しい不協和音と共に、空間に歪みが生じていく。世界がこのまま崩壊してしまうのではないかと、不安になってしまう。
空間の歪みが、どんどんと大きくなっていった。世界の終わりか。
「出で給え!」
フィリミが叫ぶ。そこで初めて、この超常現象が召喚によるものであることに思い至った。
東の魔王の軍勢が隙を突かれて、獣人の軍勢に敗戦したとは聞いていたが。何も知らずに、上空でこのような現象が起これば隙も出来るだろう。その為に、上空に召喚したのだな。ちゃんと理由があったなんて。
あの性悪大賢者め。あの時のことを、怒るに怒れなくなってしまったではないか。
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