第14話 残酷な事実

 看護師さんに連れられてきた病室は、一見すると普通の部屋だった。


 ベッドに鎖でも付いているのではないかと疑っていたが、そんなこともない。寧ろ、電動リクライニング機能も付いている上級なものだ。奥には洗面室と浴室もある。


「テレビは、カード式ですか」

 病院のテレビと言えば有名な話なので、ルームツアーを終えた後に看護師さんに聞いてみた。

「いえ。普通に使って頂けますよ」

 どうやら、この病院はカード式ではなく1日毎の定額制らしい。入院の手続き時に申請するのだが、既に貴美子叔母さんがやってくれていたとのことだ。


「あの」

「何でしょうか」

 看護師さんは入り口付近の椅子に腰掛けている。

「えっと、案内はもう済みましたよね」

「そうですね」

 あまつさえ、雑誌を広げ始めたではないか。


「いつまで、いらっしゃるのでしょうか」

 ここはもう勇気を出して聞きたいことをド直球で聞くしかない。

「ああ、お気になさらずに」

 それは無理な相談だ。だが、僕が次の言葉を口にする前に、看護師さんが恐ろしいことを言う。

「拘束衣を非着用の時間帯は、常におりますから」

 監視付きらしい。それによく見たら、窓にもお洒落なデザインで一見するとそれとはわからないが、鉄格子が嵌っている。


 こんなの、聞いていないのだが。


~~~


 聞いてた話と違う。


 西の魔王はしょただった。

「いや、違うか。西の魔王代理くん。大賢者から盗んだ転移の宝玉を返してはくれないか」

「いやだ。これでパパを連れ戻す」

 どうやら、最強と恐れられた西の魔王は、誰かの手によってどこかの世界へと召喚されてしまったらしい。


「ママは元々体が丈夫じゃなかったんだ。パパがいなくなってからは床に臥せってしまった」

 うん、なんだこの状況は。

「ねえ、ジョウ様。なんだか、これでは私達が悪役みたいではないですか」

 確かに、アリマススの言う通りだ。両親を案じるを囲む武装した4人組。彼ら、いや、僕らは宝玉を寄こせと詰め寄っている。

 うん、どう見ても悪役だね。


「で、でも。その宝玉がないと、ジョウ様が元の世界に戻れないのですよね」

 ビルトゥスの言うことも尤もなのだが。

「だけど、彼からその宝玉を取り上げると、西の魔王は戻ってこれない。あれ、でもどこにいるかもわからない人を召喚出来るのか?」

 僕の疑問に、しょた西の魔王代理が唇を噛む。

「いつか、必ず。もう、50の世界は探し終えたんだ」

 どうやら、宝玉の力を使って異世界と魔力で通じ、西の魔王の魔力の痕跡を探っているらしい。


「異世界ってどのくらいあるの?」

 数によっては、西の魔王を探し終えるまで待っても良いと思った。

「おおよそ1000ほどだと言われています」

 まだ、残り950もあるのなら、流石に待つのは無理だろう。


「そういえば、召喚の術って異世界では一般的なのか? 僕のいた世界では召喚は疎か魔法さえ無いからね」

「私が見てきた限りでは、低級度の魔法のある世界が半分くらい。残りは魔力すらない世界だった。召喚術なんてとても無理だろうね」

 あくまで全体の5%にすぎないサンプル数だから、過度な信頼は出来ない。だけど、50分の0だったものが1000分の500とかになる程に偏っている可能性の方が低いだろう。

「それだと、全体で考えても召喚術がある世界は精々、10とか20くらいか。それが絞れれば」

「それは難しいですね。魔力を繋げてみるまで、その世界がどんなものなのかは一切わかりませんから」

 やはり、そう上手くはいかないようだ。


「おかしい」

「ええっ、おかしいと言われましても」

 思わず漏れてしまった言葉に、しょた魔王代理はむっと頬を膨らませる。

「いや違う。よく考えてくれ。召喚するとして、わざわざ連れ戻される恐れのある世界からするか?」

「あっ」

 もわかったようだ。

「西の魔王は転移させられた」

 これが真実だろう。

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