第13話 与えられたもの
言われた通りに突き当りを右へ行くと、青と赤の見慣れた人型のマークが掲げられている。当然、青い方へと入っていく。
壁際に並んでいる便器には見向きもせずに個室を使用する。波に攫われたあの日以来、立って小便をすることに苦手意識が出来てしまったのだ。
『……げて』
ズボンとパンツを下ろして便座に腰掛けた時に、ノイズ混じりの音が聞こえた。一拍遅れてそれが声だと気付いた為に、はっきりと聞き取れずに聞き流してしまう。
ノイズが混じっていたので最初は館内放送かと思い、然程気にしなかった。だが、用を足した後でトイレ中を探してみたが、スピーカーの類が全く見当たらない。何かがおかしいと思い始める。
ノイズだけならばそこまで気にしなかったかもしれないが、スピーカーも無い状況でノイズ混じりの声が聞こえたことは引っ掛かるのだ。
ただ、ここで考えていても解決する訳じゃないので、一先ず看護師の所へ戻ることにする。受付まであと少しの所へ差し掛かった所で足を止めてしまう。
『……逃げて』
若干ノイズは混じっていたが、先程よりも鮮明に声が聞こえた。周りを見ても人影は無いし、声は看護師のものでは無い。
普通ならば気味が悪い筈なのだが、何故かその声に従った方が良いと本能が訴えている。
反転して入り口を目指そうとした瞬間、腕が掴まれた。
「どこに行くの? そっちは入り口よ。病室は向こうだからね」
びっくりして振り向くと、そこにはにこやかな看護師さんの姿が。
「疲れているのかな」
さっきまであった、例の言葉に従わなければという気持ちが、一気に霧散する。
そのまま看護師さんに引かれて、素直に病室まで行ってしまった。
~~~
神聖に見えた大賢者に、素直に口を衝いて出てしまう。
「女神……」
「女神様など、比べるに値しないほど、貴女は美しい」
ところが、ノルクッディが僕の言葉に被せてきた。それも、彼に似つかわしくない口説き文句を。
「嗚呼、貴女に対する興味が尽きない。貴女のことをもっと教えてくれませんか。是非とも、お名前を」
跪いて願いを乞う。そんな気障な行動を、あのノルクッディがしている。衝撃を受けているのは僕だけではない筈だ。
「あっ、えっ、ふぇえぇ」
大賢者も慌てふためいているところを見るに、与えた『好奇心』の副次的な効果で、意としたことではないのだろう。後退っていく大賢者にノルクッディがにじり寄る。
「大賢者様。私の伴侶となっては頂けないだろうか」
終いには、跪いてプロポーズする始末である。
「こら、ノル。困らせてどうする。お前はもう『好奇心』を与えられたではないか。そんなに幾つも望みを言うのは失礼じゃないか」
実際に個人が複数の望みを叶えて貰えるかどうかは知らないが、そんなにポンポンと望みを叶えていては大賢者の価値も落ちてしまうだろう。
「これは、失礼致しました。なにぶん初めての感情を持て余しまして、暴走してしまったようです」
ノルクッディは跪いたまま、謝罪の言葉を口にする。
「わ、わかりました。そういうことでしたら、仕方がありませんわね。謝罪を受け入れます」
大賢者はこういうことを言われ慣れていないのだろうか、取り繕ってはいるが目は泳いでいた。
「さ、さて、西の魔王討伐にあたって、こちらをお持ち下さい」
明らかに話を変えようとしているが、いつまでも話を脱線していても仕方がない。
「これは?」
大賢者が持って来たトレーには、4つの金属片が乗っていた。全部まとめて持っても手の平にすっぽりと収まってしまうようなサイズ感だ。
「こちらは所持者に最適な形へと変化する魔法の武器ですわ」
ただの金属片にしか見えなかったが、ビルトゥスが手にしたそれは剣へと姿を変える。ノルクッディのは槌へと、アリマススのも弓へと変わっていく。質量保存の法則もガン無視だ。
「なぜに?」
僕の物は分銅鎖へと姿を変えていた。
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