第9話 明らかになる事実
西野先生は僕の診察において使用する薬の話を始めた。
「催眠導入剤?」
聞き慣れない単語に反応してしまう。なんとかアミンとか、なんとかラミンとか詳しく薬効成分を話されても、さっぱりわからない。
「催眠状態にするにはね、リラックスしてもらうことが大切なのですよ。本来であれば、時間を掛けて行うので1回の施術あたりで数日の入院が必要になってしまいますし、回数も重ねないと効果は小さいです」
「それを、薬によって短縮するということですか」
西野先生の話を聞いた俊哉さんが質問を返す。西野先生はそれに頷いて肯定した。
「それって、危険ではないのですか」
貴美子叔母さんは不安そうだ。それは、そうだろう。1回あたりの時間も、トータルの回数も減らせる薬なんてものは、それだけ薬効が強い筈だ。薬には往々にして副作用が付き纏う。一般的には薬が強ければ、副作用も強くなるといわれている。
「確かに、使用量を間違えると、取り返しのつかない事態になることもあるのは事実です」
勘弁してほしい。そんな薬を投与されて大丈夫なのか。とっても不安だ。
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北の魔王を怒らせるという不安からは解放された。だが、理由がわからないというのは、気持ちを不安にさせる。
「本当に、僕が貴方に何かされたというのですか。そもそも初対面ですよね」
「ああ、確かに初対面だ」
それならば、尚のことわからない。はたして、会ったこともない人に対して、罪を犯せるものなのだろうか。
一つ頭に浮かんだのは『おれ、おれだけど……』の詐欺くらいだが、僕は生まれてこのかた詐欺に遭ったことはない。
待てよ、一時期SNSに僕の悪口が拡散したことがあったな。それか? あっ、でもあれはクラスの女子との関係を勘違いした他所のクラスの男子の仕業だったと判明していたか。
やはり、どう考えても心当たりが無い。
「実は、貴様をウゾルクへと望んだのは、何を隠そう我なのだから」
これ以上待っても無駄だと北の魔王は思ったのだろう、考え込む僕を他所に答えを口にした。
「ありがとう」
「へっ?」
突然のお礼に、北の魔王が変な声を出す。他の皆も怪訝な顔をしている。気持ちもわからないではないが、今の僕は感謝で満たされていた。
なにせ、ずっとわからなかった、異世界転移か異世界召喚かという疑問に終止符が打たれたのだから。もやもやが晴れてスッキリとしている。
ただ、すぐに怒りが湧いてきた。
「どうして」
口調が強くなってしまう。だが、言わないと気が済まない。
「怒るのも当然であろう。だが、致し方なかったのだ。許せとは……」
「どうして、あんな上空に出現させたのですかぁ!」
あれは、本当に怖かったし焦った。死ぬかと思ったのだから、文句を言う権利はあると思う。
「へぁ? そ、そこであるか? 怒るポイントが違うのではないか」
「理由はどうあれ、僕は溺れかけていました。そのタイミングで呼んで貰ったから、今も生きています。その事には感謝していますよ」
そういう意味では、北の魔王は僕の命の恩人なのだ。
「もしかして、貴方の望みで、その大賢者様が僕を召喚したということですか」
「ああ。ただ、貴様個人を望んだのではなく、東の魔王打倒を望んだのだ」
北の魔王は東の魔王に苦しめられている獣人族を解放したかったらしい。だが、北の魔王と東の魔王ではほぼ互角の力だそうで、普通にやり合うと双方に多大な被害が出てしまう。そこまでしても、獣人を確実に解放できる保証はないとくれば、大賢者様を頼る気持ちも理解出来る。
「じゃあ、あんな所に出現させたのも、大賢者様、いや、大賢者のせいじゃないか」
あんなに不当な扱いを受けたのだから、敬称なんてつけてやるもんか。
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