第8話 罪の所在
西野先生は胸を張って話を続ける。
「私は様々な心理療法を学んでいるから、患者さんに合った治療が必ず見つかりますのでお父さんお母さんも安心して下さい」
その言葉で、なんともいえない空気が漂う。
「叔母さんとその旦那さんです」
その空気を払拭する為に三人の関係をはっきりとさる。一瞬西野先生の眉がぴくりと動いたように見えた。
「親御さんはどうされたのでしょうか」
センシティブなことを聞くからか、西野先生は真面目な顔でしっかりと視線を俊哉さんに向けている。
「あの、妻が譲、あっ、この子の父親の妹でして」
いきなり真剣な表情を向けられた俊哉さんはあたふたしてしまい、ちょっとずれた答えを返してしまう。その様子を見ていられなかったのか、貴美子叔母さんが割って入る。
「この子の両親は、一年程前に亡くなっています。それ以降は、この子の叔母である私と旦那が引き取って面倒をみています。保護者という意味であるならば、私達です」
「そうですか。分かりました。それでは、治療に入る前に確認ですが、今、譲くんは不眠に苦しめられていて、その切っ掛けは三か月ほど前に波にさらわれて行方不明になったことだろうと。そうして、その間のことは虚構と現実が混濁していると」
西野先生は納得した様子で、話を進める。僕の状態について第三者から客観的に聞くのは変な感じだ。話の詳しさから、受付の時にヒアリングシートのような物も記入していたのかもしれない。
「そうだ。譲くん、君が行っていた世界は何て名前だったかな」
「どうせ、信じてないのでしょう。ウゾルクですが何か」
ぞんざいに答えると、西野先生が一瞬ニヤリと笑ったように見えた。だが、もう一度見ても笑みは浮かべているが、それはにこやかで爽やかなものである。
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感情が見えない笑顔に背中がわざりとした。
「『異世界の住人』とその仲間達よ。良くぞ参った」
北の魔王は、友好的に僕らを彼の城へと招き入れてくれる。ただ、その瞳は僕らが使えるかどうか値踏みをしているかのようにも見えてしまう。
「僕達はこれからどうしたら良いのでしょうか」
獣人族の長、ナコ=ヒュオトレに北の魔王に逢ってそう問え、と言われていた。
「首都アクトリンドの大賢者を訪ねるがよい。彼奴のお願いを聞けば、何でも望みを叶えてくれる。どんなものでもだ」
「ゆ、勇気、でも、貰えるのですか」
僕より2歩ほど下がった位置から、ビルトゥスが不安気に問いかける。
「そんなもの、余裕であろう」
北の魔王の答えに、ビルトゥスの瞳が輝いた。
「じゃあ、じゃあ、魔法を使えるようになれる?」
期待に満ちた視線をアリマススが北の魔王へと向ける。
「容易いであろう」
それを聞いて、アリマススが今にも飛び跳ねそうな勢いだ。
「それを僕らに教えて、貴方にどんなメリットがあるのですか」
あまりにも良くしてくれることで、逆に不安になってしまう。真意があるなら聞かせて欲しい。
「損得勘定でのことではない。罪滅ぼしなのだ」
「罪? ですか」
僕は北の魔王から何かされたことはない、筈だ。
ビルトゥスやノルクッディ、アリマススも向けた視線の意味がわかったらしく、それぞれ首を横に振っている。どうやら、誰も北の魔王から被害を受けたことはないらしい。
「悪いけど、人違いではないですか。僕らは貴方に何かされたことはありませんよ。だからと言って、今の情報の対価を払えと言われても困りますが」
そのまま話を流すことも出来るが、嘘を吐くようで嫌だ。だから、正直に話すことにした。どうか、北の魔王が怒り出しませんように。
「なんと、其方は馬鹿なのか? でなければ、底抜けのお人好しだ」
北の魔王は、怒るどころか困惑している。その言い分だと、まるで僕が何かされたのに気付いていないみたいではないか。
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