第3話 現実の重み
過去の記憶を呼び起こした、真っ白に目が慣れていくと、次第に周りが見えるようになる。目の前には父の妹である
「貴美子叔母さん?」
ウゾルクへの扉にいると思っていたが、ただ単に急に灯りを点けられて目が眩んだのを勘違いしただけらしい。そこから、あの時の記憶を追体験したのだと理解する。
「譲。また怖い夢を見たのね。大丈夫よ。叔母さんの家は海から離れているわ」
貴美子叔母さんは僕の背中を優しくさすってくれる。まるで幼子をあやして落ち着かせるように。
『気持ち悪い』
そう感じながらも、身を任せたままにする。ここでは余所者であるから、良い子にしてなくてはいけない。
ただでさえ、ここ数か月の間、僕は行方不明となっていた。警察に捜索願も出され、大事なってしまい散々迷惑をかけたのだから。
『……私……どれだけ兄さんから……迷惑をかけられた……。あなたも知っている……』
『ああ……その分……譲から……』
戻って来て間もない頃だった。夜中に喉の渇きで目が覚めて台所へ向かう途中に、リビングの前で聞いてしまう。貴美子叔母さんとその旦那さんである
どうやら、親子二代に渡って貴美子叔母さんに迷惑を掛け通しらしい。俊哉さんの言い分にはちょっと傷付いたが、あながち間違ったことを言っているわけじゃない。他人を育てるというのは大変なことなのだろう。そこに多少の打算があったからってなんだっていうのだ。
僕はこれから、どんなに搾取されようとも気付かないふりをするつもりだ。それを恩返しと思えば耐えられる、だろう。
保護者がいる、住む場所がある、日に三度の食事に困らない、それどころか最低限の付き合いを維持できるお小遣いも貰える。彼らの所にいれば内心はどうあれ、それは保障されるのだから。
~~~
地面に降り立って僕の環境的安全性は保障された。だが、身体的安全性は未知数だ。内心の恐怖を表に出さないように努める。よくわからない状況で弱みを見せるのは得策ではないから。しかし、沢山の大人が詰め寄ってくる光景に、後退りしてしまったのは責めないで欲しい。僕はただの中二の少年なのだから。
筋骨隆々の男達に取り囲まれた時は、生きた心地がしなかった。
「北の魔王様の言った通りだ」
誰かが声を上げる。意味はわからないが、言葉が理解出来ることに少しだけ可能性を見い出せる。希望は心を強くするのだ。周りを見渡す余裕も出来た。
「ケモ耳」
叫びそうになるのを、必死に我慢する。周りの男達の頭には獣の耳が生えているじゃないか。興奮するってもんだ。
異世界転移、もしくは異世界召喚なのは間違いないだろう。ケモ耳で目の保養をしていたいが、現状把握をしないとただ死を待つだけということになり兼ねない。
それは嫌だ。その為にも、まずは情報を仕入れなくてはいけない。但し、言葉が通じるからといって、必ずしも話が通じるとは限らないので一応警戒はする。
とは言うものの、僕はただの中学生だ。武術の嗜みもない。現状圧倒的弱者であるといえる。
「あの、今って、どういう状態なのでしょうか」
「祖父の仇に一矢報いて気分が良いので、ワシが直々に説明してやろう。『異世界の住人』殿」
立っているだけで震えそうになる膝に、必死に喝を入れながら声を絞り出すと、身の丈2メートルはあろう大男が前に出てきた。彼の頭からは薄茶色と黒の縞柄の耳が生えている。体も縞模様なので、おそらく虎の獣人だろう。まあ、この世界に虎がいるかは定かではないが。
ナコ=ヒュオトレと名乗った彼の説明によると、獣人族は前族長を殺して彼らを支配していた東の魔王に対してクーデターを起こしている最中らしい。ただ、もう決着は付きかけているということだが。
「北の魔王がワシらに予言をくれた。今日この日に異世界より勝利をもたらす者がやってくると」
どうやら、それが僕らしい。
確かに、上空にピカピカ光る人が突如現れば、気が散ってしまうだろう。それを、予め知っていた者達の軍勢が一気に攻勢をかけて、知らなかった者達の軍勢を蹴散らしたそうだ。
そう言うことなら、僕が勝利の立役者というのも強ち間違いではない。敵対の意思がなさそうで、ほっとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます