第1章 その重苦しい世界
今と過去と
第2話 ウゾルクの思い出入門
真っ白な空間。
そこは『ウゾルクの扉』と呼ばれる場所で、僕の大冒険の始まりの場所でもあった。
「また、ここへ戻って来てしまったのか」
あの日の出来事がフラッシュバックしてくる。
~~~
『扉に侵入者ですって! 北の魔王の仕業ね』
どこからか声が響いてくる。
揺蕩うような白だけの空間に続いて、魔王ときたものだ。これは、どうにも中二病心を擽られるではないか。そんな僕の思いを加速させたいのだろうか、右手側に光の扉が姿を現した。
「これを抜けたら、もしかして異世界? なんちゃって」
そんな展開はフィクションの中だけでしか起こり得ない。海で溺れた前提を考えれば、死後の世界というのが妥当だろう。
扉が音もなく開いた。中は真っ暗だ。
「僕の日ごろの行いは、地獄行きと判断されたのか」
真面目に生きてきた。いたずら程度の悪いことは、してないとはいえない。それでも、悪人がするようなことは、してこなかった自負はある。それなのに地獄とは、判断を下した者は相当に潔癖なのだろうか。理不尽にも程があると言いたい。
「あれれ」
文句を思い浮かべていたら、何故だか体が横に移動していた。
「うわぁっ」
先程まではスススゥーといった感じにゆっくりと移動していたのに、今はズイズイと体が引っ張られるように速度を増しながら、謎の扉の方へと移動しているではないか。勿論、僕の意思に反してだ。
そのまま抗うことも出来ずに、扉に吸い込まれてしまう。
次の瞬間、僕は空の上にいた。
地面は遥か彼方、蠢く黒い点が人だと気付くのに、一体どれだけの距離を落下し続けたのだろうか。
パラシュートもない。このままでは、地面に叩き付けられてしまう。そういえば、テレビでフォーメーションスカイダイビングの番組を見た時に、速度調整のこともやっていた気がする。頭を下に体を一直線にして速度を上げて仲間に追い付くというのと、体をカエルのように広げて抵抗を大きくしてスピードを殺しながフォーメーションにつくとかだったような。
今は後者だ。
「おお、確かに、速度が、落ちた」
口を開いた瞬間に風圧で口周りの皮膚がもっていかれる。慌てて口を閉じようとするが一苦労だ。
『それで?』
心の中で突っ込んでしまう。
確かに、落下速度は多少遅くなった。だからといって、落下自体が止まるわけじゃない。無力な自分への絶望感と迫り来る地面への焦燥感。やはり、地獄だ。
「死ぬぅ!」
死にたくないと強く願った。途端に、僕の体が光に包まれる。速度はどんどんと落ちて行き、最終的には水の中を沈んでいくぐらいの速度までゆっくりになった。
もう人の姿がはっきりと判別出来るほどに、地面も近い。
「ううっ、は、恥ずかしい」
なまじ光っているものだから、注目を集めてしまう。皆の視線が、痛い。
だが、唐突にその視線の一つが消えた。何せ、その者の首が飛んだのだから、そうなるだろう。
下は地獄絵図だ。軍勢と軍勢がぶつかり合っている。集団戦闘の真っ最中に、片方の軍勢は僕に気を取られていた。それは、隙を生んだ。
彼らが手にしている剣はなまくらではない。当然に斬れる。血は飛び散り、腕や頭も飛んでいく。一瞬でもよそ見をすれば、待っているのは死だけである。
そこへ、ゆっくりとはいえ近付いて行くのだ。最早、死刑宣告である。処刑へのカウントダウン。
恐々と目を開く。どうやら飛び交っているものはそれだけではなかった。赤や青や緑に黄色、様々な色の光もあった。
「綺麗だな」
そんな感想を持ったのは一瞬だ。
それらの光は、体の一部を燃やしたり、溶かしたり、爆散させたり、黒焦げにしたりしていたのだから。これ、何ていうスプラッター?
「「「うおぉぉぉ!」」」
物凄い雄叫びが上がる。どうやら勝鬨のようだ。僕が地面に着く前に、戦闘は終結してくれた。とはいっても、なにも安心できない。下にいるのは、つい今しがたまで、人をまるで物のように破壊していたような人々なのであるから。
何とかならないものかと、必死に空気を掻いてみる。アニメなどではこれで空を飛べたりするもんだろ。
だが、抵抗虚しく、ついに僕は両の足で地面を踏みしめてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます