最終章
月と太陽。
私は、月。
誰かがいないと輝くことができない。
一人で輝けるところやものがない。
影になる部分が多くて、
満月になれず、三日月のまま。
ずっと未完成。
どんなに完璧さを求めても未完成。
満月にはずっとなれないと
思い込んでいた。
大人になるまでずっと
そうだと思っていた。
でも、人は後天的な力で
太陽にもなれるし、月にもなれる。
太陽のような存在の人間にも裏のような生活、影のような生活はあるし、
月のように誰かに照らしてもらわないと光り輝くことができない人にも、実際は影になっていても
太陽ほどではないが、
星のようにキラキラと輝けるものも
存在する。
怖気付いて、
壁の影から覗く必要はない。
ありのままの姿でいいんだと
彼と過ごして気づいた。
ーーー
2人の子どもたちが大きくなって習い事をしたいという年になってきた。
「よし、わかった。陸斗は何をしたいんだ?」
「俺は、バスケがやりたい。みんなでわいわい楽しんでするスポーツが好きなんだ。」
「そっかぁー、陸斗はバスケな。んじゃ、悠灯は何がしたいんだ?」
「あたしは、剣道がしたい。クラスメイトの瑞季ちゃんがやり始めたんだって、私も一緒にやりたくなったの。お父さん、私も習い事していいの?」
「ほーー、悠灯は剣道…そうなんだ。てっきり、俺は悠灯より陸斗が剣道やりたいかと思ってたよ。そういうもんだね。」
スポーツ少年団のパンフレットを見て、さとしは申し込み用紙に名前と住所を記入した。
さとしは小学生から高校生まで、ずっと剣道をやり続けてきた。
紗栄はスポーツより文化系の部活動だった。
「いいの? 2人同時に習い事させて…送迎の時間ある?」
「ああ、大丈夫だよ。バスケは家から近いところのスポーツセンターで歩いていけるし、さほど荷物は多くないだろ? 剣道は荷物多いし稽古会場遠いから車で送っていかなきゃないけどさ、何とかなるよ。紗栄は自分のことだけ考えな。明日も仕事だろ?東京の。俺が何とかするんだから…。」
何気ない習い事の申し込みやPTAなど、学校に関わることはすべてさとしがやることになっていた。
自然とそう言う流れになっていた。
バスケの申し込みをしてふと思い出すことがあった。
(やっぱり、陸斗は俺じゃなくてあいつの子…。)
「紗栄。」
「ん?なんかあった?」
「いや、何でもない。血液型書くところあるんだけど、2人のって検査したの?」
「あー。それね、ずっと気になってたんだよね。今、病院では、生まれた時に血液型検査しないんだって、大きくなってから変わることがあるから、多分小学生にもなってるし、そろそろ検査してもいいかもね。」
コーヒーを飲んで答える紗栄。
「あ。それ、んじゃ、小児科に俺連れてくわ。ママ友さんにも聞いたことあるけど、アレルギー検査も同時にやっておくといいって言ってたわ。」
「あ、うん。んじゃ、よろしくね。いつもごめんね、お父さんばかりになってて…。ありがとう。」
「いいんだよ。俺は在宅で仕事してるわけだし、子どもたちも誰もいないところ帰ってくるより、俺がいた方がいいだろう? 自宅警備員も担っているので任せなさい。」
「どっちでもいいよー。」
陸斗はサラッと流す。
「私はお母さんがいい。」
「2人とも寂しいこと言うなよぉ~。」
さとしはがっくりと肩を落とす。陸斗はヘッドホンを、してゲームに夢中。悠灯は録画してた映画に夢中になっていた。
「さとし、大丈夫だよ。恥ずかしいもんだって、そばにいる人ほど言えないもんなんだから。自信持って。」
「そうかなあ。そうだと良いけど…。」
「毎日、さとしの作ったご飯やお弁当は残さず食べるし、用意してくれたものには喜んでくれるでしょう。それは子どもたちからの愛だよ。」
頭をかいて、照れるさとし。
嬉しそうだった。
ーーー
小児科のクリニックに陸斗10歳と悠灯7歳の2人を連れて行き、血液型検査とアレルギー検査をした。
さとしは緊張していた。
わかってたことだったけども
現実を突きつけられることに
戸惑いを隠せない。
今日は、クリニックで結果を渡される日だった。医師からは
「アレルギーは、食べ物に関しては特に何も出てないけど、花粉症はあるかもしれないね。スギとハウスダストに2人とも少しだけ反応あるね。血液型は、それぞれこんな感じ。今、使うところ全然ないからね、輸血って言っても滅多にないから参考までに渡しておくね。以上です。」
そう言い終えると、3人はそそくさと診察室を後にした。
さとしはペラペラと検査結果の用紙をマジマジと見ていた。
「お父さん、そんな真剣に見てどうしたの?」
「いや、初めて血液型検査するからさ、2人の性格そうだったかなあと思って…血液型占いって知ってる?」
さとしはごまかすように話題を作る。2人は食いつくように、さとしが血液型占いと検索し、その内容を2人で見ていた。
(陸斗はB型、悠灯はO型か…やっぱ、想像してた通りだった…。ってことは俺がB型ってことにすればいいのか。輸血なんてする機会ホントないけどな…。)
待合室にいた子どもたち2人にスマホを預けて、さとしは両腕を頭につけて、考えた。
(もう、あれから10年も経ってるんだ。今更、言えない。身なりも俺にそっくりだし、黙っておけば気がつかないだろう。)
ぼーと考えると、陸斗が話しかける。
「父さんって自己中だよね。B型じゃない?母さんはO型っぽいな。」
「そお?んじゃ、陸斗と同じってことだよな。だから、いつも喧嘩するんだな俺と。悠灯はO型だもんな。仲良しね。」
(本当は俺もO型だけどな。)
「えー、お父さん、B型?やだー。嫌われ者じゃん。」
「な? 血液型で好き嫌いを判断しちゃいけないよ?悠灯。あくまで目安。占いだから。お父さん嫌いにならないで!」
そんな他愛もない話で3人は盛り上がっていた。
真実を言わずに隠し通して、平和なこともあるだろう。
戸籍上は、陸斗も悠灯も大越家の家族で兄妹。見た目も親子として、見られるくらい似ている。
親子は見た目で判断しなくても育った環境で親になれることもある。
自然に過ごせるそれだけで家族といえる場合もあるんだと身に染みて感じる。
これが大越さとしとしての影の部分。
昔から太陽のように育ってきた。
小さい頃から周りのみんなから注目を浴びて浴びて、浴びすぎて大人になって裏切って、落ちぶれたけども、月である紗栄が太陽になりかわり、さとしを家事、育児という月として輝くよう、今の仕事を続けている。
紗栄は、表舞台で働くのは嫌がっていたが、案外、こなすと溶け込むようで、何とかなっていた。
サポートとして、坂本社長が頑張ってこなしてきたからだ。
さとしのCM打ち切りの莫大な違約金を少しでも無くそうと努力している。
それ以上の稼ぎをこなすことができて、日々充実した毎日を過ごしていた。
それからというもの、大越家は、家族4人は苦楽を共に時を過ごしていた。
背の低いベージュのタンスの上には、
紗栄とさとしが高校生の時にふざけている学校で撮った写真、
紗栄がモデルでさとしがマネージャーだった時の写真、
ウェディングドレスを着た
結婚式の写真、
洸と一緒に3人スコフィッシュフォールドのお店の前で撮った写真、ここには映ってないがカメラマンは谷口遼平だった。
さとしがモデルやCM、テレビで活躍した時の宣材写真、
陸斗が生まれた写真、
悠灯が生まれた時に陸斗と紗栄とさとしで撮った写真
コメンテーターやレポーターなどテレビ出演している紗栄の写真
在宅ワークでパソコンと睨めっこするさとしの写真には、壁にいたずら描きしている陸斗と悠灯の姿があった。
どれもこれも、
走馬灯のように瞼の裏に
映し出されてくる大切な思い出だった。
お昼を過ぎる頃、ベランダに出て、空を見上げた。
東の方角に上弦の月がうっすら青空に白く浮かんでいる。
太陽は南中の位置に煌々と輝いていた。
眩しすぎて直視することはできない。
月と太陽は昼間に共存している。
夜になると、真っ暗な空に黄色く輝く上弦の月が現れる。
遠くから太陽の力を借りて光り輝いている。
人間も同じで、自分の力で輝くことも出来れば、誰かの力を借りて輝くこともできる。
力を借りることを恐れてはいけない。
1人の力でやることも恐れてはいけない。
どちらも、同じ一つのことを目的に輝き続けている。
いつでも、月と太陽を見ている人を照らし続けている。
どちらも人のため、
相手のために存在している。
寄り添う誰かがいるだけで
幸せになれる。
森羅万象、
世に存在するものに
無駄なものはない。
年老いた紗栄とさとし2人は、独立した子どもたちのアルバムを見ながら、ベランダで仲良くお酒片手に乾杯して、花瓶にはススキを、白玉団子をピラミッドにし、お月見を楽しんでいた。
この瞬間が永遠に続きますように
と願って
〈完〉
月と太陽 もちっぱち @mochippachi
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