第29話
イレリアに案内されながら俺たちは任命式の会場に向けて歩いている。
大通りにはいつもは見ない出店も多くあり、行きかう人を呼び止める活気のある声が飛び交っていた。
「想像以上に賑やかですね。」
「うむ。今回も賑わっているな!」
そして俺達はそのまま大通りを抜け目的の会場向けて歩いていく。
会場に近づくにつれてさらに人の数も増えてきているようだった。
「おっ見えてきたな。会場はあの中央庁前の広場だよ。」
その広場には大きな祭壇のようなものが設置されており、その周りはかなり厳重に警備されていた。
集まった人々は祭壇から離れた場所で並び、今か今かとその時を待っているようだった。
俺達はそこから少し離れた場所で足を止める。
「丁度良いタイミングだったね。そろそろ始まりそうだよ。」
「それは良かったです。にしてもすごい人の数ですね。」
「うむ。この街に住む人々にとっては重要な式典だからね。」
その場でしばらく待っていると後ろから声がかかる。
「お待たせ致しました。ノイン様。」
「ドライが出店の先々で立ち止まっちゃって大変だったよー……。」
「……モグモグ。……お祭り。……おいしい。」
振り返ると、少しだけ疲れた様子のアインスとドライ、そして両手に食べ物を抱えたドライが居た。
店を出る前にアイちゃんが彼女達に連絡をしていたので、後を追ってここまで来たようだ。
「皆来たんだね。休んでてくれても良かったのに。」
「いえ!ノイン様の素敵なお姿を見ないわけには参りません!」
「その姿もかっこいいー!」
「モグモグ…………おいしい。……かっこいい。」
「やはり妹達は見る目がありますね。」
「うむうむ。」
姉妹達の反応にアイちゃんとそして何故かイレリアも、腕を組み自信ありげに頷いていた。
「でも最初に見たのは私だからな!残念だったなアインス氏!ハハハハ!」
「……ちっ。……あら。イレリア……貴方もいたのですね。」
「あー変なイレリアだー!」
「……変なイレリア。」
「こらー美人小娘達!いい加減イレリアと呼びたまえ!」
イレリアと姉妹達が仲良く会話をしている。
姉妹達は冒険者業で時々商業組合にも顔をだしているので、俺が思っている以上にイレリアとは交流があるようだ。
「ちょっ!なっ!ぎゃー!顔をつかむのはやめなさい!!イタタタタ!」
「その記憶を消して差し上げます。」
「ちょっ!アインス氏!も、もげる!もげる!」
……うんうん。仲が良さそうで良かった。
やはり友人というのは大切だからな!
しばらくそのじゃれ合いを眺めていると突如、広場にファンファーレが鳴り響いた。
それを合図に徐々に広場の騒がしさがなくなり、見物にきていた人々は姿勢を正し始めた。
「うう……ヒリヒリする……。おや?始まりそうだね。もう少し近くに行くかい?」
「いや私達はここで大丈夫ですよ。」
「そうかい?当然だけど式典中は静かにしていてくれたまえよ。」
「ええ。それはもちろん。」
俺はアイちゃんに目線で合図を送る。
アイちゃんは頷くと光学迷彩で隠されたドローンに命令を送り映像を記録し始めた。
完全な静寂が広場を支配した頃、祭壇の前に煌びやかな鎧を身に着けた人物が姿を現す。
「これより任命式を執り行う!皆の者静粛に!」
その者はきびきびとした動作で祭壇に向けて一礼すると去っていく。
そして次に白い法衣のようなものを身に着けた、40代くらい男性が警備の者達に囲まれながら現れた。
小声でイレリアが話しかけてくる。
「あの人物が今代のリーダー代行だよ。」
「若いのに凄いですね。」
「ああ。この街では能力さえあればそんなこと関係ないのさ。もちろんこの街の理念を理解する人格者である必要はあるがね。」
その間も式典は厳かに進んでいく。
法衣を纏った男性は祭壇の中央にある円形の装置のような物の前まで進むと、膝を折り胸に手を当て頭を垂れる。
俺はその祭壇の装置をみて既視感を覚えた。
(一目見た時から気になっていたが、あれは移動式のワープゲートでは……?)
アイちゃんの方に目線を送ると、俺の疑問に答えるように無言で頷いた。
(やはりそうか……。間違いなくこの街のリーダーと呼ばれる人物はESOと何か関係があるな。なんとかして接触してみたいものだが……。)
そう考えていると祭壇の装置が蒼く光り出し、中から人が出てきた。
その人物は外套を纏い顔にはシンプルな白い仮面をつけており、その表情を伺い知ることは出来なかった。
「オクタムの光……だな。」
「そのようです。」
珍しくアイちゃんが考え込んでいるようだった。
その人物は法衣の男にゆっくり近づくと頭に銀色の王冠のようなものをのせる。
そしてそのまま振り返りゲートを通り姿を消した。
すると法衣の男は立ち上がりその様子を見守っていた民衆の方へ向き直る。
そして辺りをゆっくりと見渡すと静かに口を開いた。
「この度リーダー代行に任命されたエドワードです。引き続きこの誉ある役職に任命され非常に喜ばしく思うと同時に、重責も感じております。しかし、この街ラビリスティアの理念である、様々な種族が手を取り合い、皆が笑顔で過ごせる街をつくっていけるように誠心誠意つとめて参ります。」
エドワードの宣言を受けて広場に拍手と歓声が鳴り響く。
その歓声にはこの者なら自分たちを導いてくれるといった確かな信頼があった。
エドワードはその歓声を静かに頷きながら応えていた。
そして言葉を続ける。
「私個人の力ではこの街を作り上げた偉大なリーダーには遠く及びません。しかしこの街の皆の力を合わせれば、良き未来が続くと確信しています。共にラビリスティアを守り発展させていきましょう!」
広場に先ほどよりも大きな歓声が鳴り響く。
エドワードは手を掲げ笑顔で観衆に応えると祭壇を降り、警備の衛兵たちを伴いながら去っていった。
エドワードが見えなくなると観衆は次第に散り散りに帰っていく。
俺はその場に残りしばらくエドワードが去っていった方を眺めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらく経つと式典を見に来ていた観衆達がいなくなり、広場は数名の衛兵たちを残し後は俺達だけとなっていた。
式典中に見えたワープ装置にオクタムの蒼い光。あれは間違いなくこの街のリーダーと呼ばれる人物とESOが関係あることを示している。
今すぐ会って話してみたいがイレリアの話によると、リーダーが公に姿を現すのはこの式典のみだという。俺なんかが面会希望を出しても無駄になるだろう。
どうにか面会する手段がないか考えているとイレリアが話しかけてきた。
「ノイン氏の目にはリーダー代行殿はどのようにうつったかな?」
「そうですね。……非常に好感の持てる人物でしたね。それにカリスマ性もある気がしました。」
「うんうん。やはりそうか。彼はこの5年街を見事にまとめ上げていたからね。今回も彼に決まって良かったよ。」
ここでふと俺は疑問に思ったことがあった。
「任命は住民の投票等で決まるのですか?」
「いや。任命はリーダーの独断で決定される。こう言うと独裁のように聞こえるかもしれないが、過去を遡ってもみてもリーダーが任命する人物は今まで素晴らしい者達ばかりだったらしい。ラビリスティアにとってはそれが一番なのさ。それに民衆もそれを望んでいる。」
変わった方式ではあるがこの街にとってはそれが最良なのだろう。
とりあえずリーダーと呼ばれる人物は見ることが出来た、映像も記録してあるしそろそろ俺達も戻ろう。
すると後方から声がかかった。
「イレリアさん。ここにいらしたんですね。」
振り返ると商業組合の受付嬢であるリンがそこにいた。
「げぇ!リ、リン!!」
「まったく……組合長が探していましたよ。」
「ああ!そうだった!そうだったな!すまないノイン氏。急ぎの用を思い出したのでこれで失礼するよ!また会おう!」
イレリアはそう言うと焦った様子で走って去っていった。
まさか仕事さぼって来てたのか……?まったく……リンさんはイレリアの保護者みたいだな……。
あっという間に消えていったイレリアを見送っていると、リンさんが俺の方を向き声をかけてきた。
「ノインさん?ですよね?いつもとお姿が違うのでびっくりしちゃいました。」
「こんにちはリンさん。見学するのにいつもの装備だと不味いとイレリアに言われちゃいまして。」
「ふふふ。そうだったんですね。その服もとてもお似合いですよ。」
「ははは。ありがとうございます。」
相変わらず人当たりが良くてかわいい人だな、なんて考えているとリンさんは急に真剣な表情になった。
「ところでノインさん今お時間大丈夫ですか?」
おいおいおいまさかこれは……何かのお誘い!?
ふっ……ついに来てしまったか……俺の時代が……。
「は、はい。特にこの後の予定はないですよ。」
「よかったです。実は会っていただきたい方がいまして……。」
…………知ってたよ。うん。完全に見切ってました。
後ろでアイちゃんが「やれやれ……やはりポンコツですねマスターは。」とか言っているのは気のせいだろう。
「問題ないですよ?もしかして便利屋への依頼ですか?」
「いえ……とりあえず会っていただきたいのです……すみませんはっきりとしたことが言えなくて。」
リンさんが頭を下げてきた。
うーん。なんだか良くわからないがリンさんは良い人だし問題ないだろう。
「わかりました。仲間も連れていきますが問題ないですよね?」
「有難うございます。はい。皆様も是非一緒に。」
「了解です。では案内をお願いします。」
「はい。では私に付いて来てください。」
そう言うとリンさんは中央庁へ俺達を案内し始めた。
中央庁はこの街の行政を取り仕切る中心機関で、入り口近くの窓口では住民登録などが行える役場ような場所にもなっていた。
中に入るとリンさんは迷わずに真っすぐと俺達を奥に案内する。
リンさんに案内され進んでいるときに中央庁の職員などとはすれ違わなかったが、俺達を観察するような視線と気配を複数感じた。
リンさんも無言で俺達の前を歩いており、なんとなく不穏な空気が漂っている。
皆も当然それは感じ取っているようで警戒レベルを上げているようだった。
そしてしばらく進むと堅牢そうな豪華な扉が見えてきた。
「すみません。少しここでお待ちください。」
そういうとリンさんは俺達を残して扉の中へと入っていく。
程なくして扉の向こう側から声がかかった。
「お待たせしました。どうぞお入りください。」
俺達はゆっくりと扉を開き中へと入っていく。
入った先の部屋には複数の人物がおり、俺はそれを見て驚いた。
その中には先ほど広場で見たリーダー代行のエドワード。
……そして、エドワードに王冠を被せたリーダーと呼ばれている人物がいたのだ。
リーダーは大きなテーブルをはさんで俺達の反対側に座っている。
その横にエドワードと耳の長い綺麗な女性が控えていた。
リンさんが言っていた会ってほしい人物とはこの人たちであろうが、これはいったいどういう状況だ?しかも部屋の中には目に見えている以外の者の気配も感じる。
ここはしばらく静観してみるしかないか……。
俺が意識を切り替えた所で扉の近くにいたリンさんが声をあげる。
「皆様をお連れしました。」
その言葉に奥で座っている仮面をつけた人物が頷き口を開く。
「ようこそ便利屋の皆さん。いや……星の旅人とでも言った方がよろしいでしょうか?」
こいつ……俺達の正体が解っているな……。やはり……。
中性的な声色で告げられた内容に俺は警戒レベルをさらに上げた。
「おや?警戒させてしまいましたか?すみません。人と話すのは久しぶりなもので。」
「いや……気にしないで下さい。こちらもある程度予想していた事ですから。」
俺は暗にこちらもお前たちの存在についてはある程度わかっていると返した。
警戒はすべきだが俺達は呼ばれてここに来たのだ。
何か目的があるのだろう。
それにこちらも会いたいと思っていた所だ、とりあえず今は話を聞いてみるべきだ。
「そうですか。では早速なのですが、今日は便利屋である貴方に依頼をお願いしたくてリンに呼んでもらいました。」
てっきり俺達のことを色々と聞かれるのかと思ったが、便利屋への依頼とはな……。
怪しいが聞いてみるしかないな。
「なるほど。それはどんな依頼ですか?」
「はい。それはとある遺物を探してもらいたいのです。」
遺物……?もしかしてマリナさんが持ち込んだやつか?
そういえば遺物は中央庁が回収してるって言ってたな……。
ん……?まっずい!これって持ってちゃまずいやつだった?
……仕方ない。ここで隠しても良いことは無いだろう。正直に話すか……。
「……その遺物とはこれですか?」
そう言い俺はテーブルの上にマリナさんから預かった遺物を差し出した。
「それは……いいえそれではありません。」
違った!よかった!
俺は密かに胸を撫でおろし話の続きを聞く。
「その遺物は現在も遺跡ダンジョン最下層の隠し部屋にあります。」
「隠し部屋……ですか。」
「はい。しかも最近その遺跡ダンジョンに異常が起きていまして。冒険者組合にも何度か依頼したのですが達成困難という報告が上がってきました。」
それで俺達に……というわけか。
この話ぶりから考えるに俺達の実力はある程度知っているのだろう。
「その異常というのは?」
「最下層の魔物が異常に強くなっているらしいのです。それこそ魔樹海にいるような魔物と同等以上に。」
なるほどな……3等級冒険者のアイク達ですら手こずるような強さか。確かに冒険者達には厳しいのかもな。
「それに、恐らく隠し部屋はあなた方にしか見つけられません。」
「…………なるほど。」
恐らくESOに関係した力を使わないと無理という事か……。
ここで依頼を受けてこの人物とはつながりを作っておきたいが、この依頼を受けたことで今後俺達はどうなる?本当に受けてもいいのか?
しかも厄介なことに相手は俺達の正体がわかっているようだ。
ここは慎重に判断しなければならない……。
しかしここで悩んでいる俺の背中を押すようにアイちゃんが話しかけてきた。
「マスター。この依頼受けましょう。」
「しかし……。」
「マスターの考えている事はわかります。ですが何も問題ありません。」
「わかった……。」
そうだ俺には頼れる仲間がいるんだ。
今まで不干渉だった相手が今回わざわざ俺たちを頼ってきている。
この依頼は相手にとっても重要なことなのだろう。
そうして俺は覚悟を決めた。
「わかりました。その依頼お受けします。ただし……。」
「ただし、なんですか?」
「報酬として全てを話してください。貴方の事全てを。」
「…………。」
その発言はその場にいる者を凍り付かせたようだった。
誰も身動きできず室内に静寂が訪れる。
部屋に隠れている者達は俺に向けて殺気のようなものを発しているようだったが、俺はそれを軽くいなし発言を続けた。
「それが今回の依頼の条件です。どうしますか?」
「…………。」
仮面の人物は沈黙したまま何かを考えているようだった。
しかしその沈黙を破るように、仮面の人物の隣に控えていた耳の長い女性が怒りをあらわにしながら口を開いた。
「貴様!黙って聞いていれば!リーダーに向かって無礼であろうが!」
「申し訳ありません。こちらも商売でして。仕事に見合った対価は頂かなければなならないのです。」
「その要求が無礼だと言っている!」
「そうですか……。では気が変わったらまたお招きください。」
俺はそう言うと、背を向け扉に向かい歩き出した。
その様子に女性はさらに怒り、背を向けた俺に向かっていきなり魔術を飛ばしてきた。
「貴様ああああ!【ウィンドランス】!!」
俺は少しだけ振り向くと、その魔術をつかみ取るようにして消失させる。
その現象に女性は驚き目を見開いていた。
そして俺はスキル制限を全て解除しその女性に向き直った。
俺の体からはオクタム粒子の蒼い煌めきが漏れ出ている。
「いきなり魔術とは穏やかじゃありませんね。」
「な……!き、貴様は……!その色のオーラ……。」
この女性はオクタム粒子を見たことがあるみたいだな。
隣の仮面の人物の側近みたいだし当然と言えば当然か。
俺としては普通に帰って後からまた交渉しようと思っていただけなのだが、あんなに怒るとは……。
とにかく今日はここを立ち去ろう。でないと姉妹達が暴走してしまいそうだ……。
少しアインス達をに目をやると、今にもここにいる全員を皆殺しにしてしまいそうな雰囲気を発していたのだ。
「はぁ……。ではこれで失礼しますね。」
しかし俺が扉に手をかけた所で後ろから声がかかった。
「待ってください。その条件を飲みます。」
そして仮面の人物は立ちあがり俺の方へと歩いてきた。
「ただし。必ず成功させて下さい。」
その声色には懇願するような強い思いが籠っていた。
表情はわからないが、助けてくれと叫ぶような悲鳴にも思えた。
この人物にとって件の遺物とはそれほどまでに必要なものなのだろう。
俺は向き直り、真っすぐその人物を見つめながら口を開く。
「畏まりました。その依頼、便利屋マキナがお受けします。」
こうして俺達はダンジョンへ潜り遺物探しをすることとなったのだった。
未開惑星の便利屋マキナへようこそ おこて @Mamilia
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