第17話

 ――どうして、ススリさんは魔法の本の事を知っているの?


「本来なら、王城の書庫で見つけられるはずだったのに! 書庫を探してもなかった……だから、絶対に物語が始まる――ここの何処かに本はあるはずなのに、どうして見つからないの?」


 物語り? まさか、ススリさんは私と同じ転生者?

 そうか、そう考えたほうが辻褄が合う。私はいじめる気が無くて近付かなかったけど……あの子は私に教科書が破かれた。私に突き落とされて階段落ちた。などの、乙女ゲームであったイベントを自ら起こしていた。


 悪役令嬢が嫌で……あの子と、王子に興味なさすぎて、その考えに至らなかった……


 


「どうして、ここにも無いのよ!」


 魔法の本が見つからなくて、ご立腹のススリさん。

 その本を探してもないよ――ススリさんが探している魔法の本はどうしてかわからないけど。私の元家――公爵家の屋敷の書庫で私が見つけて、私が魔女になったから。


「大魔女シシリが私に意地悪しているのね。魔法の本を隠さず私に渡しなさいよ! あんたが持つより、私が持った方がいいの!」


 ススリさんはしまいに、魔女さんの事まで悪く言いはじめた。

 

「今、あの人間の子……私達を救った大魔女シシリ様の悪口を言ったな」


「えぇ、私の心の友、シシリの悪く言ったわ!」


「言った!」

「言いましたね」

「ひどい!」


 ボアさんとレオン様のオーラ、とでもいうのかな?

 緑色と、金色のオーラがゆらりと揺れた。それを見た、スズ君とトッポ君は止めに入る。


「ボア様! レオン様は落ち着くっす」

「そうです、2人がここで暴れれば……マージア様の体に相当の負担がかかります」


 その言葉に押し黙る2人。


「わかっているわ。この家を壊さず、あの子達を追い出せばいいのよね」


「そうっすけど……」

「ここは抑えて、様子を見たほうがいいと思います」


「だけど、シシリの悪口は許せない! シシリは私たちを笑顔にしてくれたの!」


 見た目がほんわかなボアさんは、大切な魔女さんの悪口にキレている。


 彼女はイラついて、床をダンと蹴り。

 

「おかしい! 乙女ゲームの第2弾は、私が王城の書庫で魔法の本を見つけて、この家から物語りが始まるのに。そして私が問題を解決して、モフモフたちと仲良くなるのよ!」


(えぇ第2弾? 嘘、あのゲームに第2弾があったの!)


 家の中を隈なく探したススリさんは終いに、魔法の本が見つからないのは、私のせいだと言い出した。


「あの子ね、マージアが悪役令嬢をやらなかったせいで、何処かでフラグを落としたのよ! アイツ、全く悪役令嬢やらなかったわ」


 彼女の言う通り、私は悪役令嬢をやらなかったけど……乙女ゲームの通り婚約破棄された。ススリさんは好きなビビール王子と、幸せになればそれでいいんじゃないの?


 散々、家の中を探しても見つからないと喚き、ススリさんは魔法使いマッケン様、騎士アッサン様に「これ以上は暗くなります」「また時間を作って来ましょう」と、2人引きずられるようにして帰っていった。


「やっと帰った……きっと、あの子また来るわよ」


 ボアさんが遠くなって行く馬車を見ながら、そう呟いた。私もそう思う――ススリさんは諦めず、魔法の本を探しにもう一度この場所に来るだろう。


 みんなと一緒にため息をついた。


 次、彼女が来てもいいよう、何か対策するしかない。


 でも、あなたは婚約者いる攻略対象たちを次々と奪い、王子も手に入れたくせに……それ以上何を手に入れたいと言うの――傲慢すぎる。


 ここは絶対に渡さない。

 始まったばかりの、この生活は渡さないわ!


 マージアは心の中でそう決めた。


 

 

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悪役令嬢から魔女になりました にのまえ @pochi777

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