憂鬱の絵画

やざき わかば

憂鬱の絵画

ある画廊に、古い絵画が展示されていた。

長い間、何人も所有者が変わり、今はここに落ち着いている。


人から人へ、町から町へ、国から国へ点々とし、そこにいる人々の眼を楽しませ続けた。芸術とはそういうものだし、絵自身もそれには納得している。文句などあるはずはない。


むしろ、もっといろんな土地のいろんな人に、自分という絵を観てもらいたいと思っている。


ずっと昔に、ある絵描きによって生み出され、早い段階で売りに出された。

結構な金持ちに結構な値段で買われたようで、絵はその金持ちの家の、程よく目立つところに飾られた。


そこから数十年が経ったころか、没落した元金持ちの資金源として、また別の金持ちに売られた。

絵を買う金持ちは、善い人や悪い人、男や女、芸術好きや見栄っ張りなどタイプも様々だった。


あるときなど、金持ちの家に押し入った泥棒に盗まれ、売り飛ばされたこともある。

そこからまた数十年が経ち、絵が発見されたときは新聞紙上を賑わせた。

そこまで有名だったのかと、絵は、そのときばかりは少し誇らしい気分になったようだ。


さて、画廊に身なりの良い紳士が入ってきた。その紳士は絵を観るや、購入を決めたようだ。

画商によって丁寧に梱包され、紳士によって丁寧に家まで運ばれた。

絵は紳士の家の、程よく目立つところに飾られた。


そして絵を眺めて、彼はほう、とため息をつくのだった。


自分の運命に、なんの不満も無い絵だが、実はたったひとつだけ疑問に思っていることがある。

絵描きの手を離れてから、何百年もこの疑問を持ち続けてきた。


なぜ私の所有者たちは全て、私を逆さまに飾り続けるのだろう。と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

憂鬱の絵画 やざき わかば @wakaba_fight

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ