3-13. ゲームエンド

【前回の訂正】ハクビが伝えたヤマの手は「6とJのツーペア」ではなく「7とJのツーペア」でした。(修正済みです)



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「さあ、君の最後の時だ」


 デルフィニスはゆうゆうと宣言し、カードをオープンした。

 パタパタと表になっていくカードたち。

 その表情に敗北への恐れも緊張感も無い。

 当然だ。デルフィニスはイカサマによってヤマの手を覗き見ているのだから。

 ヤマの手はツーペア。役としては最低限といって言い代物。

 そのことを当然に理解しているこの男は、そっとナイフのように微笑んで、告げた。


「スリーカード」


 あらわになる3枚のエースの図柄。文句なく最強のスリーカード。

 その三連星をヤマはじっと見下ろす。ヒルダの息を呑む声が、静まり返ったギャラリーたちの間に響いた。


「どうしたんだい、君の手を見せてくれよ」


 ヤマは頷き、カードを一枚ずつ表にしていく。

 7が2枚とJが2枚。ツーペア。スリーカードには及ばないツーペア。ハクビがデルフィニスに伝えた通りのツーペアだ。

 ギャラリーに同様と失望が広がる。彼らも大半はデルフィニスが負けるのではと期待して見に来たのだろうが、また犠牲者が増えただけだと肩を落とした。


「ヤマ、君の負けだね」


 デルフィニスがずいっと顔を近づけ、舐めるようにヤマを見上げる。

 しかしヤマはあくまで冷静に、じっとその瞳を見つめ返した。


「見違えるようなポーカーフェイスじゃないか。ははっ、だがそれもいつまで続くか見ものだね? これから君はじっくりといたぶって――」


 が、ふとその視線が一点に留まる。

 ヤマの手元、そこにはまだ裏側のオープンされていないカードが残されている。


「……おい、なんだよそのカードは」


 ヤマの手は現状ツーペアだが、最後の1枚が7かJならフルハウスとなる。

 瞬時にそれに思い至ったデルフィニスがギョッとしてハクビを睨みつけた。


(どういうことだ? こいつは本当にツーペアなんだろうな!?)


(た、たしかにそやつは7とJのツーペア! 最後の1枚は8じゃった! 嘘ではない!)


(8だって……?)


 デルフィニスの表情が急速に青ざめていく。ヤマはずっと無表情のまま、それを見つめている。

 ハクビとデルフィニスの目配せを理解出来ないギャラリーやヒルダからすれば、まったく不可解な状況だった。

 スリーカードの方が突然に慌てふためき、ツーペアの敗者が無言で構えているのだから。

 しかしその理由も、デルフィニスが取り去った最後の一枚を取り落としたことで、明らかになった。


「ダイヤの7……フルハウス……僕の……負け……?」


 シンと静まり返る会場。しかし徐々に、さざなみのように動揺が広がっていく。

 ヤマの手はツーペアではない。フルハウスだ。スリーカードを制するフルハウス。

 呆然と最後の一枚、7のカードを見つめるデルフィニスに、ヤマは静かに告げる。


「悪いな。俺の勝ちだ」


 食い下がったのはデルフィニスではなく、ハクビだった。

 耳を逆立てて彼女はヤマに掴みかからん勢いで迫る。


「なぜじゃ! お、お主の手は確かにツーペア! 最後の1枚は8だったはず! な、なぜ! イカサマか!? すり替えたんじゃな!?」


「ハクビ……わかっちゃいたが、やっぱりお前が俺の手を通してたんだな」


「そ、それはっ……仕方ないじゃろ!? 金がいるんじゃ! 金が! 儂の種族同胞は大半が奴隷扱いなんじゃ! 皆を解放するには金がいる! 文句があるかぇ!?」


「……ないよ。文句なんかない。最後にはお前のおかげで勝てたんだからな」


「わ、儂の……? な、なにをっ」


「簡単なトリックなんだ。本当に簡単なんだよ。7のカードと8のカードは良く似ている。マークが一つあるかないかの違いだけだ」


 実際にフルハウスのカードを使ってヤマはそれを示す。

 7のカードも8のカードも、下半分を隠せばそう変わらないように見える。


「俺はカードの一部を隠したり、時折ひっくり返したりするだけで良かった。それだけでお前はカードを誤認してくれたんだ」


「そ、そんな子供騙しに引っかかるわけなかろうが!」


「ああ、子供騙しだ。もしお前やデルフィニスが本当の意味で俺を、俺の嘘を暴こうと見ていたら、きっとすぐに見破っていたよ」


 愕然としたまま椅子に崩れ落ちているデルフィニスを、ヤマは同情とも哀れみともつかない瞳で見つめる。


「デルフィニス、最後の最後にお前は俺を見ていなかった。ハクビのサインと、ヒルダを傷つけることしか考えちゃいなかった。だから俺のトリックに騙されたんだ」


 そうして勝負はついた。ヤマは勝ち、デルフィニスは敗した。

 ヒルダがまだ現実を受け入れられてない曖昧な笑顔で、ヤマの手を握りしめる。相当に緊張していたのか、すっかり汗ばんでいる。


「わ、私もツーペアだと思ってたから……い、生きた心地がしなかった! でも、勝ったのね!? デルフィニスに勝ったのね!」


「ああ。後はこいつに約束を守らせるだけだ」


 その言葉でようやく敗北を受け入れたのか、デルフィニスはガクリと頭をたれてうなだれた。

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騙され騎士の逆転譚 嘘を真にする能力で騙される程に成り上がる くらげもてま @hakuagawasirasu

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