AI片手に、飯を食う ~よわよわクリエイターのAI時代生存戦略~

鳴海なのか

はじめに

AI襲来。やべぇ、怖ぇ、生き残りてぇ!


 だらけな1年。


 それが、2022年の個人的な印象である。



 ――高性能な画像を生成できる『Stable Diffusion』。

 ――超精度の文字起こしが可能な『Whisper』。

 ――チャット形式の文章生成サービス『ChatGPT』。


 ハイクオリティなAIツールが次から次へと公開されて注目を集め、手軽なAIアプリが立て続けにバズり、各所で“AI”という言葉を見かける機会がやたらと増えた。




 もちろんそれ以前だってAIは着実に進化していたはずだ。あまり詳しくない私だってファミコンの『ドラゴンクエストⅣ』はじめオートAI戦闘のゲームでたくさん遊んできたし、スマホで使える『Siri』だって音声認識AIの一種である。


 だけど実感がわかなかった。

 あくまで「AIは専門家のもの」って認識だったから。


 例え「ディープラーニングで革新が起きて~~」的なニュースを目にしても、研究者でも開発者でもない私にとっては「へーそーなんだ(棒読み)」ぐらいで終わり。あくまで“遠い世界の出来事”でしかなかった。そのはず、だった。



 マイペースでお気楽だった安寧の日々は一変。

 をかけたが幕を開けたのである。




 * * *




 そもそも、今の私の主な仕事は「映像や音声作品の制作」だ。


 名前がクレジットされない作品が大半で、名刺になる代表作も無い。だが“ものづくりの対価”で飯を食えている以上「クリエイターの端くれ」とは名乗れるだろう。


 もちろん安定と無縁な業種だし、これまでも紆余曲折は結構あった。

 だけど、ここ数年は継続して案件を頂けてた。仕事では真面目に依頼物の作品作って。合間に趣味のゲーム考察記事や小説書いたり映像作ったり、好きなアニメ観たりゲームしたりと息抜きして……


 ……ようやく掴めたささやかな平穏。

 贅沢しなけりゃ食えてたし、それで十分満足してた。




 そんな2022年8月のこと。


 納期に合わせるべく半徹で頑張った映像編集作業も一区切り。

 書き出しレンダリングで手持ち無沙汰になった私は、いつものように眠気覚ましのコーヒー片手に休憩しつつ、スマホで情報収集しはじめた。


 トレンドも常識も法律もどんどん変わりゆく。前はOKだった表現がNGになったり、一般単語がネットミームとして違う意味を持ち始めたり。「“何気ない一言”で炎上ッ!損害賠償ッッ!」ってのも珍しくない現在、納品段階でトラブルの芽を最大限に摘むためにも、まずは私自身がある程度は知らなきゃいけない。勉強必須。


 技術アプデが爆速で進み、気軽に共有・公開される時代。日常的にアンテナを張れば目からウロコな表現スキルを知れる。すごい最新ツールでも試すだけなら“ちょっといいランチなお値段”で割といける。こういうの知っとくと肝心の仕事にも合間の趣味作品作りにも役立つし、知識欲も好奇心も満たしまくれて楽しい。ひゃっほい!


 気楽にTwitterのタイムラインを眺めていたところ。

 私の目にとまったのは――





 ――最新AIが生成した“”。





 うっそやろ?

 このクオリティの絵を一瞬で作れるん??


 すごッ!すごすぎてすごくてすごすぎるぞッ!「ど〇でもドアと新幹線」ぐらいの勢いで“私の知ってるAI技術”とは別格の別次元すぎるゥッ!!!ついに「ドラえ〇ん」完成したん??だったら私も欲しいんだがッ……いや、でも、こういう最新技術ってやっぱお値段が超絶高額だったり、使用制限がどちゃくそ厳しかったり、そもそも一般公開されてなくて選ばれし者しか使えなかったりするよなぁ……


 は?


 これ作った『Midjourney』は無料で誰でも使える??

 さらに月額数千円で「グレードアップ版」を使ってOK???

 まじ意味わからん!ってか画像でコレなら、映像も音声もすぐ来るじゃん……


 ……待てよ?

 仮にこういうAIツールが一般に普及したとしよう。

 このクオリティで誰でも簡単に絵や映像とか作れるなら、私、いらなくね……?





 …………。





 ………………。





 ちょッ?!


 ?!





 あまりの衝撃に興奮して混乱した後、気づいたのは“残酷な可能性”。

 だが私はしょせんAI素人。「本当にAIはそんなに進化してるのか」「そもそもAIに何ができるか」とかも知らないのに、現段階で判断するのは早とちりかも……?




 ……となると、可能性として考えられるのは5つ。



【未来①】AIの性能はまだ実用レベルじゃない

クリエイターの仕事が脅かされずに済む。でもこの可能性は無いよなぁ……やっぱ『Midjourney』の生成物がクオリティ高すぎなんだよ!ちょっと前のAI生成画像(数年前から密かに広がった『Waifu Labs』とか)と比べても成長度が凄いし、一般に求められる品質の作品を十分生み出せる気がするんだよね。


【未来②】AIは実用可(60~100点/100点)だが、禁止されて一般人は使えない

クリエイターの仕事は現状維持になるかもしれない。でも有り得ない。既に一般公開された以上、完全禁止は無理だって……仮に法律で禁止されても水面下に潜るだけ。「資金や頭脳を持つ人」がこっそりバレないように使って、「素直に禁止令を守った人」が恩恵を受けれなくなって……うわ!このルート、たぶんクリエイター失職率が爆増する最悪シナリオだわ!今までの歴史でもそういう例っていっぱいあるし……


【未来③】AIは実用可(100点/100点)で、一般人も自由に使える

クリエイターは大半仕事がなくなる。別格は「ファンやクライアントを持つクリエイターやチーム」だね。環境が変わっても「この作品にお金払いたい!」って思ってもらえるなら、何も問題ないもの……ただしそれ以外のクリエイターは淘汰されそう。AIツールが一般普及すれば“お金を払う側”も減るから、残れる人はひと握りかな……まぁ過去のスマホやPCの普及速度から見ても「国民全員クリエイター時代」まで最低5年か10年はかかるから、それまで細々稼ぐのは難しくないかも?


【未来④】AIは実用レベル(60点/100点)で、一般人も自由に使える

クリエイター需要は減るだろうけど③ほどじゃない。③の層に加えて「AIの生成物を60点→100点に修正できるクリエイター」「ディレクションできるクリエイター」も生き残れるはず。このあたりって意外とできる人が足りてないんよな……でもそもそも「60点でいいや!」ってクライアントが大半なら③と同じ結果になりかねない。まぁ今は目が肥えた消費者が多いから、“100点の需要”は割とあると思うけど……


【未来⑤】その他

不確定要素だらけだし、「①~④以外の可能性もある」ってことは頭に入れたい!




 果たして、どの未来が訪れるのだろう?

 ②~④のいずれか、つまり「AIと人々が共存する未来」だとは思う。

 だが私が断定できるはずも無い。こちとらAI専門家でも経済専門家でもない以上、どんなに考えたって所詮は“井の中の蛙”に過ぎないわけで……


 ……だけど、これだけは分かる。


 生き残りたいなら、なんない。

 今回のAI襲来はヤバいッ!ヤバすぎるッ!

 私の直感が雄叫び上げて暴れてる。ここで動かなきゃ絶対確実に後悔する。



 ならば「クリエイターとして生き残るためにやるべきこと」は自然と見える。


【計画①】情報収集する

一般公開されてる以上、AIはさらに進化しまくるだろう。最新技術の動向を知ると色んな可能性を予測しやすくなる。あと過去の例から考えて、こういう新技術って物議を醸しまくるだろうから、世論も押さえときたいよなぁ。いくら法律でOKでも「倫理的にNG!」なら気軽に使いづらいし……セーフラインも見極めないと。


【計画②】AIツールの実力を詳しく知る

そもそも「具体的にAIツールでどこまで凄い作品を作れるか?」を正確に知らないと話にならないよね……まずは自分でも“一般にセーフ”って言われる範囲で試行錯誤して、AIツールの実力を理解する必要がある。


【計画③】(もしセーフっぽいなら)実際の作品作りに活用し、共存の道を探る

ただ漠然とツールを触るより、実際に作品を作りつつ試したいところ。スキルって実践形式のほうが身に付くし。でも倫理的なセーフラインが見えてこないと、実際に動くの怖いよなぁ……先に①や②を進めて、③は様子を見つつ、が無難かも?




 ――どうにか食っていきたい、よわよわクリエイターの私。

 ――市場のパイを根こそぎ奪いかねない、超高性能なAI。


 考えてもみてほしい。

 “戦闘力5の一般人”が“戦闘民族サ〇ヤ人”に勝てるか?無理だろ。

 しかもこのバトルは案件の奪い合い。何もしなけりゃ淘汰されて負けるだけ。


 もちろん、人によって正解は違うだろう。


 そして私の場合は、地道に修行して戦闘力を増やしたり、実戦経験を積みまくったりするのが近道な気がする。具体的には『人々とAIが共存する未来が訪れるなら?』を想定して勉強&検証すること……「一時的な共闘タッグバトル」とでもいったとこかな。共闘すれば“仲間”のことを把握できるはず。「今後も協力し続けるか、それともすっぱり諦めるか」を決めるのは、それからだって遅くない。


 何たって私のゴールは「生き残る」こと。

 AIに勝ちたいわけじゃない、負けなければ成功だ。

 上の【計画①~③】の方向で少なくとも未来がどう転んでも、私として最速で最善の対応ができると思うんだ……たぶん!



 このエッセイは、AIを巡る過酷なサバイバルへと身を投じた「よわよわクリエイターな私」が生き残りをかけて奮闘する汗と涙と苦労の日々を描いた、ちょっとためになる(かもしれない)実話である。

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AI片手に、飯を食う ~よわよわクリエイターのAI時代生存戦略~ 鳴海なのか @nano73

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