最終回 力の魔神

「頑張って宮本さん。立って下さい」


理学療法士・馬場有子さんが応援してくれている。

応援は嬉しいのだが馬場有子さんはエロい、困る。


そんな、すんごいナイスバディで

そんな事を言われたら

歩行の為ではない

三本目の足にばっかり血液が集中してしまい

勃ってしまったせいで

立てません。

どう見ても看護婦モノのAVパッケージだ。

もう反則でしょ


デカイ乳だなぁ


理学療法士の制服越しでも

すごい破壊力ですよ。


「転ぶ振りしておっぱい掴んでみるか」


「声に出てますよ宮本さん」


「しまった」


「うふふ、掴める様にまず立ちましょう」


「うおおおおおおお」


俺、宮本たけしは現在リハビリ中だ。

新作ゲームの一般テストの事故

その被害者だ。


テストは失敗。

ゲームは行われなかった。

意識とゲームのリンクが失敗し

ゲームはロードされなかった。

ほぼ全てのテストプレイヤーは

即時に現実に帰還した。


ただ俺は意識が戻らず

データの送受信は行われているが

知らないコンピュター言語によるもので

モニターすることも出来ず

強制切断が、そのまま植物人間コースに

なる事を恐れ、送受信が終わるまで

生命維持装置を付けて安置されていたのだ。


意識を取り戻した俺は半狂乱になって暴れた。

腕の骨折はその時だそうだ。


なんと俺は一ヵ月も意識不明状態だった。

恐らく加速時間では無く

現実と同じ時間だったようだ。

一ヵ月も寝たきりだった俺は

すっかりやせ細り

骨も脆くなっていたのだ。


薬で静かにさせられ

そのまま総合病院に搬送

次に意識を取り戻した時には太郎が居た。


太郎いわく、当時の俺は

悪魔光線とかデビルアイとか

意味不明な事を連呼していたそうだ。

自分でもどうかしていたと

今ではそう思う。


ゲームでの記憶は夢と同じ様に

すぐにかき消えていった。

意識を取り戻した際に

行われた調書などがあるので

何を言ったのか記録されているが

内容はもう閲覧させてもらえない。

企業秘密だ。


勤めていた工場は

無断欠勤が一週間を超えたトコロで解雇になっていた。


が、太郎の会社が責任をもって

就職を面倒見てくれる事になった

その交換条件が先の

事故の口外を禁ずるとの一件だ。

マスコミにはもちろん

裁判所とかにも行かない

公にはそんな事故は起こっていない

と、言う風にしてくれって事だ。


別に訴える気は無い

そうまでして戻りたい職場でも無いし

皮肉にも大学時代に就職で落とされた

会社が好条件で迎えてくれるのだから

ラッキーと言ってもいい。


ただなんの仕事をさせられるのかは

不明だ。

つか社会復帰が先だ

こんな状態で

何ができるかって聞かれても

えへへだ


もう、ほとんどゲームの記憶は無い。

ただ向こうで俺は太郎とも会っていたハズだが

太郎はIN出来なかったそうだ。

小梅に関してはテストに招待すらしていないそうだ。

それを聞いた時のショックだけは覚えている。


俺は向こうで誰と会っていたんだ。


まぁ夢と思うしかない。

太郎の話でも同じような結論だ。

俺の意識の中の人物が登場していたのだろう。


ただ涙だけは出てくる。

現実では寝てただけだが

俺は向こうでは必死だった。

それを思い出せないのが悲しいのか

向こうで遭った酷い目を心が覚えていて

泣いているのか

向こうでの頑張りが全て無駄だった事が空しいのか

分からない事も悲しい。


「有子、宮本さんに甘すぎ」


横から口を出してきたのは

馬場さんの同期の七井さんだ。


何故だか分からないが

俺は七井さんが気に食わない

つい、意地悪になってしまう。

今日も俺は憎まれ口を叩く


「なんだ七井か、リハビリの邪魔だ。どけよ」


「なっ?!」


ただ、七井さんのこの怒った顔は和む。

なんなんだろうね


「腕はまだ無理させないで下さいね」


更に横から俺の主治医である外科医の

・・・名前なんだっけな

いい年してツインテールとか

医療舐めてませんか

ただ、なんかこの人

やたら患者である俺に親身っていうか

熱心ていうか、こっちとしては

ちょっと引くんだよね


「先生、全然力が入りません」


俺は主治医にそう言った。


「いいえ、入院当初に比べれば奇跡的な

回復力です。直ぐに力は戻ってきます」


「力を取り戻す・・・か」


「宮本さんなら出来ます。」


俺は力を振り絞り立ち上がる。

生まれたての子ヤギみたいに

ガクガクしながらも

両脇のバーを頼りに一歩

また一歩と進む。


「もう少しですわ。頑張って」


窓から差し込む日差しが

馬場有子さんの髪を透かす

少し赤みが掛かっている

染めているのか以前聞いたが地毛だそうだ。

ちなみに両親は真っ黒で

どっちにも似てないとの事

まぁあるよねそう言う事


「あの馬場さんってどら焼きとか好きですか」


「あ、ダメですよ宮本さん。病院では

そういうの受け取れません。病院としては

病院としてはですよ」


これは個人的に持ってこいって事だな

退院したら持ってこよう。


「でも、なぜそんな事を」


そう馬場さんに聞かれ

自分でも不思議だ。


「さぁ・・・なんとなく喜ぶかなって」


数週間に渡るリハビリで

おぼつかない足取りながらも

俺は何とか自立歩行できるようにまで

回復していた。




その日

何故なのかは分からないが

何かに誘われるように

屋上に行った。


こういうトコロの屋上は

自殺防止の為施錠されているものだが

その日に限ってなのか

それともいつも通りなのか

鍵は掛かっていなかった。


歌が聞こえる。


知っている歌だ。


子供の頃、大好きだった

ヒーローの歌。


歌っているのは女性だ。


透き通るようなノイズの少ない声質で

高音時には、まだ余裕だとばかりに張りを伸ばす

低音時にも震えのリズムが聞こえない

とても上手だ。


あまりの歌声につい聞きほれてしまう。


その女性は屋上の柵に

腕を組む様に乗せて歌っている。

手にはプラスチックのじょうろを持っている。


屋上の植木鉢に水でも上げていたのだろう。


俺はゆっくりと近づき、隣に並ぶ。

俺の水色のリハビリ服とは

色違いのピンク色の女性版を着ている。

名札には「吉岡 光」と書いてある。


吉岡 光

太郎から聞いて知っている。

ゲームのシナリオを担当した

なんでも人気のラノベ作家だそうだ。


女だったのか・・・・。


彼女も俺と同じ数少ない被害者という事か

同じ様にリハビリ中だ。


夕焼けの太陽の光が

吉岡さんの顔の産毛を黄金の輝きで美しく縁取る。


吉岡さんは歌うのを止めると

俺に話しかけてきた。


「ねぇ」


首を回すのでは無く傾げる感じで俺の方を向く。

前髪がおでこを撫でる。


「この歌は・・・結局、何の歌な・・・んじゃ」


季節は初夏

今年は猛暑が予想される。

強き者だけが活動を許される

試練の季節だ。


それは、もうそこまで来ていた。


こんな体だが

不思議と力はみなぎっている


まるで力の魔神にでもなったかのようだ。


「こいつか・・・こいつはな・・・。」


どこかの空を


超音速機が大気を切り裂いて飛んでいる。


人の力など比較にならない


強力なジェットエンジン


その力強いその音が


俺の返事を邪魔した。


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デビルバロン 1 @tetra1031

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