第75話 最終決戦・火の天使そして終了
「ゲカイちゃん!!」
「アモン様!!」
呆気に取られるミカ。
その隙にゲカイちゃんは俺に絡みついた
鎖に素早くタッチした。
ただの鎖になった。
俺は一瞬で鎖を纏めると
思いっ切りミカの顔面に投げる。
「どこからへぶぅ!!」
弾かれる様に転がるミカ。
「アモン様。遅くなりました
申し訳ございません。」
「いや、丁度良かったよ」
麗しい仕草でカーテシーをするゲカイ。
ん
着ているのが例のドレスだぞ。
「報告いたします。偽女神は無事保護してあります。」
あの状況下で実行したってのか
俺の命令だからか
「うん、良くやった。流石だな」
ここはこう言った方がイイ気がした。
「ハイ」
嬉しそうに返事をするゲカイ。
「ちょっとビックリしたけど状況は然して変わって無いよ」
起き上がるミカは強がる。
「力の差は歴然だからね」
確かにミカは力が溢れる程みなぎっている。
俺の残量よりはるかに多いな。
「そのドレス・・・どうしたんだ
バリエアのはダメになったハズだけど」
「ベレンで作り直しました。
寸法その他も先刻承知の二人でしたから」
このドレスをそこまで理解している二人?
「おい、無視すんなって・・・・何??」
急に大量の恐怖が俺に流れ込んで来た。
ミカも周囲の人々の変化に気が付いたのだ。
「大量の悪魔が空を舞う幻覚を展開、
更にそれを疑う事を禁止しました」
作戦の説明をしてくれるゲカイ。
それはそれで疑問が残る。
「あの大火をどうやって凌いだんだ」
俺でも一瞬しか耐えられない。
転移が無ければ消えていた。
「簡単ですアモン様。あの二人は
デスデバレイズに戻らずにベレンで
チェーン店に潜り込んでいました」
「はぁ?」
「余程、洋服屋が気に入ったようで
審判の日まで、楽しもうとしたみたいです
叱っておきました」
「・・・・良くやった。流石だな」
もうこれしか言えないわ。
俺より有能な人が多すぎる気がする。
「だから無視すんなって」
ミカは大声を上げると
周囲に大き目の光の輪が展開される。
輪の中から天使型だが
肉体の造形美がかなり適当だ
白い肌、顔には口しかない。
キモいの呼び出すんだな。
「ゲカイ隠れろ」
俺の言葉と同時に自身の認識を解除し
ゲカイはフェードアウトした。
「見えなくても居る!この周囲を
破壊しつくせ天使どもよ。かかれ!!」
理解が早いな
厄介だ。
庇おうにも俺にももう見えない。
召喚された天使達は適当に鳴らした
パイプオルガンのような声を上げ飛び掛かって来た。
いや来ようとしたが
来れなかった。
「だからタイミングを合わせるためにも
残しておいてくれとお願いしたのだ!」
凶悪極まりない切れ味が
軌跡上の全てを切り裂いて
持ち主の馬鹿げた跳躍力で
飛び上がった天使を連続で斬っていく。
走りにくかったんだろう裸足だ。
ヒールを脱いだんだな。
ドレスのスカートも横が切られて
セクシー・・・
いや、すげぇ筋肉美だな。
「いいのか勇者?天使相手だぞ」
「知らない。とにかく敵よ」
怒ると
なぁーんでもぶった斬ってしまう
怖ぁいやつ
「勇者??何で??つかすげぇ
何あの切れ味!!」
色々驚いているミカ。
「あいつの持ってる剣はお宅のトコの
ハルバイストさんが拵えたんだぞ」
知らないのか。
「えー僕が頼んでも作ってくれなかったのに」
「流石はラスボス。お前みんなに嫌われているんだな」
涙目になってキッと俺を睨むミカ
あ
ちょっと可愛い
「さて、俺達もやるか」
大分エネルギーも貯まった事だし
俺はミカの返事を聞かずに
奴の股間を最大出力で蹴り上げた。
うん、ベアーマンと違って爆発しなかった。
ミカは物凄い速度で打ち上げられる。
俺も翼を展開して飛ぶ。
空中で12枚の翼を広げ停止するミカ
宇宙線可視化でそのタイミングを
計っていた俺は停止位置で急展開して
そのまま回し蹴りで
今度はベレン郊外まで行ってもらう。
街に死傷者は出したくない。
悪魔光線を数発発射するが
全て命中する寸前で方向が変わった。
ミカは体を炎化させていた。
続けて撃ち込むが同じ結果だった。
避けるという事は
命中するとよろしくないと言う事だ。
牽制にもなる、適度に打ち込むか。
ミカも光線を撃ちこんできた。
俺の荷電粒子砲タイプの悪魔光線と違い
純粋な光の収束による熱線だ。
衝撃波の出ないタイプだが
直撃に耐えられる物質は無い。
全て貫通・切断されるレーザーだ。
しばらく削り合いの時間が経過する。
お互いいくつか命中させたが。
どちらも核を破壊できない。
全力だ。
向こうはどうだが知らないが俺は全開戦闘だ。
持ちうるありとあらゆる技を出した。
光線をかいくぐり音速で体当たり
慣性を無視した軌道で紫と赤い光は
何度も物理的にも精神的にも折衝を繰り返した。
その度に川の水が干上がり
地面が捲り上がり
あった丘が消えたり
また逆で無かった場所に丘が出来た。
バカげている
デタラメな強さだ。
たまらず俺は笑った。
ほんの1mmのズレで
ほんの0.1秒の遅れで
命取りな切羽詰まった状況だというのに
俺は楽しくて仕方が無かった。
ミカも同じなのか
奴も良い笑顔だ。
・・・似ているのかも知れないな。
史上最も物騒なダンスだっただろう
しかし
どんなお楽しみタイムも終わりの時間が来る。
拮抗状態かと思われたが俺の方が力が付きて来た。
命中した部分に配置していた魔核の欠片は機能を失った。
その分、衰えていく。
やがて俺は地上に降りる。
ミカも地上に降りて
俺に向かって歩いて来る。
炎化ではない通常の姿だった。
「はぁはぁ何だよもうヘバったのかよ」
フラフラになりながらミカは強がる。
お前・・・
とは言え、こちらには
ミカの核を破壊する手段が無い事は変わらない。
良い勝負は出来るが
アモンの力では勝てない。
やはり決定打が無い。
「ここならさっきの女の子もいないだろ」
そう言ってミカは頭上に手をかざす。
「え?」
俺の頭上に光の輪が現れ鎖が降ってくる。
俺は再び拘束された。
「なんだよコレ何本あるの」
参ったなぁ
右手だけでも動かしたい。
「はぁはぁ・・・。」
天使って呼吸するのか?
座り込んで息が整うのをミカは待っている。
「うーん、ここからどうしようレイバーンの
持ち出しには力が足りないし」
ミカも悩んでいる。
核を破壊出来ないのは向こうも同じなのだ。
全てを焼き尽くすレイバーンは
ヴィータによって天界に帰ってしまった。
決め手がないのだ。
「そうだ。滅しなくてもいいじゃん」
やっと気が付いたか。
気が付いてくれたか。
その手段があるでしょ
「・・滅しないなら、どうしたら?」
駄目だコイツ。
バレそうで嫌なのだが誘ってみるか。
「はは、呪いでも掛けてみるか」
バカー
俺のバカー
ダイレクト過ぎた
警戒されるわ
「それだ!!」
歓喜の表情になるミカ
素直なバカな子で助かった。
「大天使の刻印でしもべ化しよう」
ここで俺も痛恨のミスに気が付く
右手だけでも自由にせねば
「あのーミカさん」
「何?」
「最後のお願い。右手だけ開放してくれない」
「やだ」
ですよねー終わった。
ミカはトランス状態になると
右手をかざす
やがて赤いオーラで神聖文字の刻印が浮かびあがる。
アレを刻印されたらお終いだ。
ミカが俺に迫る。
その時、甲高い声が響く。
「いやっほおおおおおぅ!」
何を髪につけているのかツンツン尖った短髪。
黒皮に鋲を撃ったジャケットを翻し
変なバイザーを付けた若者が躍り出る。
靴は片っぽしか履いていない。
つか他の履けばチャッキー君。
「右手っすか!!」
「右手っすよ!!」
気合で攻撃力が上昇するチャッキー専用装備
ナックル【来雷拳】が俺の右手を拘束している鎖を砕く
「痛ぇ、サンキュー!!」
ミカの右手に俺の右手を叩き込む。
聖刻から女神の力を出せるだけ出した。
アモンでは勝てない。
大天使より上位の力、女神の力で
大天使の刻印はそのままミカに刻まれていく
刻は呪いだ
そしてそれは上位の力で返せる。
呪い返しだ。
トランス状態から復帰するミカは
現状を把握して驚愕する。
「え?何で??」
「で、それどんな呪いなの」
「ああのねこれはあああああ」
教えてもらえなかった。
突如、ミカの背後に裂け目が現れ
その光の中にミカは吸い込まれていった。
裂け目が閉じると。
それまでの出来事が嘘だったかのような
静かな夜になった。
「アモンさん?!腕が」
俺の腕は完全に砕け散っていた。
まぁそらそうだ人間状態だってあれ程の神力じゃ破壊される
ましてや悪魔状態で使えば身体が持つワケ無い。
終わりは直にやって来るだろう。
聖刻は全身に及んでいるのだ。
崩壊は止まらないだろう。
「良いんだ。どうせコレで終わりなんだから」
足掻くのは止めよう。
ベネットに敗北した時と同じだ。
後は砂になるだけだ。
「アモンさん・・・俺の靴知りませんか」
「・・・・ガバガバが持ってる」
そう言ったらガバガバが来た。
「魔勇者殿ー!」
すげえな
あの距離をまた走ってきたのか
「ってチャッキー君!?」
土煙を上げ減速して俺達の元で止まるガバガバ。
「すいません。俺の靴は・・・」
「ゴメン。捨てた」
「「えええええええええええええ」」
遺品捨てるとか勇気あるな
抱きしめて泣いてたクセに
捨てちゃうの
流石は勇者。
泣きながらチャッキーに抱き着くガバガバ。
「いや、そんなイイっよ。泣かないで
どうせもう買い替えようと思ってたし」
買ってもらえ
ベレンの方角から黄金に輝く飛翔体が
やって来た。
ミカの退場で効力を失い
自由を取り戻す事が出来たのだろう。
ヴィータだ。
「倒したら来てくれるのでは無かったか」
「行きたかったがご覧の有様だ」
今の俺は頭部と胸部それと左腕だけの状態だった。
「そう思って来てやった」
俺は宇宙線の制御では無い力で
浮かび上がり、ヴィータの左腕に
抱きかかえられた。
ヴィータはそのまま転移を発動させる。
普段ならきっと凄い痛いのだろうが
今の俺には痛覚は無い。
転移した先はバリエア上空だった。
ヴィータは右手に持った
例のじょうろから水を振りかける。
「審判も途中放棄した今。どれだけ効果があるか不安じゃがの」
見ればヴィータも半透明になっている。
時間切れって事なのか
神や魔王は常駐出来ない。
降臨から審判の日までの奇跡だ。
「東の地にもしてやりたいが
我にも、もうそれだけの力は
残っておらん」
静かな口調だが口惜しさが溢れている。
俺の胸部内に残されたババァルの魔核。
もう機能していないはずの魔核が
起動した気がした。
周囲の時の歯車が空転を始める。
視界は白一色になり
すぐに歯車は噛み合わさった。
俺達は全てが灰の砂漠になった
デスデバレイズの上空にいた。
俺は左手で何とか水を作って
じょうろに補給した。
何か気の利いたセリフを言いたかったが
音になってくれたのはヒューヒューという
呼吸音だけだ。
「うん、ありがとう」
ヴィータは優しく微笑むと
灰の砂漠にじょうろから水を降り注ぐ
こんな事で許されるハズは無いだろう。
もしヴィータが罰を受けるなら
俺にも同じことをして欲しい。
泣けるのならきっと泣いた。
何かヴィータが言っているが
もう聞こえない、聖刻も焼き切れた。
どんな時でも俺と繋がっていたものが
もう無い。
やがて全ての感覚は失われた。
俺は死んだのだ。
そして暗闇に浮かび上がる3Dの文字
GAME is OVER
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