部屋にあった真白な手
モリビト人形劇団
第1話
それは友人が経験した話だった。
週末、部活もバイトもしてないそいつは週明けに行われる小テストに向けて勉強をしていた。
見慣れた問題集と白紙のノートを開いてぼんやりと、勉強といえるんだかどうなんだかわからない状態でいたら、いきなり自室のドアをノックする音がした。
そいつは、自分の弟が宿題を教えてもらいに来たのかなーぐらいにおもって、その扉を開けようとドアノブに手をかけた。
そしたら声がした、小さな、女の子みたいなか細い声が。
あけて、って。
そいつの家には母親しかいないし、弟もそいつ自身も女友達なんていない。
まあ、たとえ弟の友達が遊びに来てたとしてもそいつに用があってくる子なんていないだろうけど。
まったく聞き覚えのない声だったから、そいつ、すぐにドアノブから手を放した。
得体のしれないものが扉の向こうにいたら、誰だって開けるの怖いよな。
だけどさ、今度はドアの向こうじゃなくてカーテンの閉め切った窓の外から声がした。
「あけて、おそと、あおいろ、こわいの」
ずっとうわごとのように、ずっとずっと少女の声で繰り返されてさ、ビビったそいつはカーテンを勢いよく開けた。
二階だから、外にいるわけないし、何ならスピーカーを使った誰かのいたずらだって思ったんだろう。
もちろん、そこには誰もいない。雲一つない快晴の空が広がっているだけ。スピーカーすらない。
それでも、声は止まらない。むしろ室内でぐわんぐわんと反響しだした。
右から、左から、上に下。
四方八方からガンガンとノイズ交じりの少女の声が聞こえてそいつは思わずその場にうずくまった。
そしたら開けてって声のほかにも、何か言ってるのがはっきりと頭に響いた。
「きづいてるんでしょ、いれて、おへやにいれて」
そんなことをずーっと、耳鳴り交じりに言われ続けてそいつは限界を迎えて叫んだ。
「いやだ!!」
そしたら声も、きーんってなり続けた耳鳴りもノイズも、全部ぴたりとやんだ。
そいつはほっとしたんだって、その時だけ。
全部終わったと思って一安心して、そいつが再び机に向かおうとしたら、右足が動かなかった。
何度力を入れようとしても動かないから、おかしいなと思って右足に視線を向けたら、そこには白い子供の手ががっしりとつかんでた。
ぎちぎち、次第に強くなってく力にそいつは腰を抜かして、死をも覚悟したようでぎゅっと目を瞑った。
だけど、そいつはまだ生きてる。
別の友人が、そいつの家に遊びに来て、そいつの部屋に入ったから。
「カスム⁉顔真っ青だよ!?」
「え、エニシぃ……」
真っ青なモスグリーンみたいな顔色のままそいつは遊びに来た友人に情けない声で泣きついた。
遊びに行った友人の話だと、白い手なんてものは一切なくてそこにはいつも通りゲームが山積みに置かれた、何の変哲もないそいつの部屋だった、らしい。
……ちょっと、足元に違和感あるな、なんかいるのか?
部屋にあった真白な手 モリビト人形劇団 @MRBT1122
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