フルーツタルト
駅のホームはスーツを着たサラリーマンや観光客でごたついている。携帯を片手に人混みを交わしながら足速に改札口へと進む。
(洪太、いないだろうな)
分かってはいるものの、4時間の大遅刻に罪悪感が歩く足を早めている。
握っていた携帯電話が振動し、大和は画面も確認せず通話ボタンを押した。洪太からの電話だ。
「もしも~し、あ、もう着いた?」
「マジでごめん!寝坊しちゃいました、ほんとにごめん」
「大丈夫、家に戻ってるから、また準備してそっち行く。15分くらい待っててね~」
柔らかくのんびりとした声色が大和の罪悪感を薄める。
怒ってる雰囲気はなく、穏やかな落ち着いた返答に
少し安堵して、歩くペースを緩める。
待ち合わせの筑紫口改札を抜けると、駅のロータリーから
少し冷たい風が頬をかすめる。はっきりと秋を感じる。
大和は、のんびりと駅の様子を観察しながら、改札口向かい側にある大きな掲示板の前で時間をつぶす。
(洪太と会ったらまず謝ろう、そのあとは何か食べにでも行こうか)
初めて会う人にも緊張することなく、基本的に何でも楽しめる楽観的な性格は自分でも嫌いじゃない。
ここには待ち合わせをしているであろう人たちが何人もいる。
大きく掲示された広告、改札を出ると1番に目に入る風景。
わかりやすくて目立つ場所。
洪太からの着信が入る。
「もうついたよ~、大和くんどこにいる?」
「筑紫口改札のデカい広告の前にいるよ」
通話口から聞こえる声と同時に斜め前から人混みに混じり携帯で通話をしながら周辺を見回している青年が近付いてくる。
「あ!洪太くん?」
「大和くん?」
「あの、4時間も遅刻してごめん!」
柄物のパーカーに黒のスニーカー、
人を選ぶであろう服装を着こなしたオシャレな青年。
やや長めの黒髪で、少し下がった二重の瞳が大和の顔を見て優しく微笑む。
「大丈夫、それより美味しそうなフルーツタルト見つけたんだけど、食べに行かない?」
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