第5話 春男の想い

「ごめんなさい・・・」

俯きながらの呟く夏子さんを僕は見ていた。


夕日が彼女の肩越しに眩しくて。

震える小さな肩がボンヤリしか見えなかった。


あの日。

僕がコンビニから戻ったのと入れ違いに。


彼女は背を向けて。

去っていきました。


引きとめることもできずに。

僕が部屋に戻ると。


机の引き出しが少し、開いていた。


慌てたのか。

彼女のハンカチがお茶の染みを作って残っていた。


推測すると。

彼女はお茶をこぼしてハンカチで拭いて。


そして。

僕の日記を読んだのかもしれない。


ああ・・・。

僕は自分の失態を悔いた。


彼女が盗み見るなんて。

とうてい、想像もつかないけど。


偶然。

見てしまったんだ。


グジグジと未練たらしく。

綴った日記を。


だけど。

後半は彼女、夏子さんのことばかりなのに。


そこは。

読んでくれなかったみたい。


だから。

追いかけ、追いついた公園で。


必死に。

説明したんだ。


全身全霊を込めて。


でも。

彼女はうつむいたまま。


結局。

振られるのかな?


ええいっ・・・。

僕は開き直った。


これでダメなら。

もう、恋はしない。


だから。

叫んだんだ。


「ばかやろうっ!」

「えっ・・・?」


キョトンとした彼女に向かって。

もう一度、叫んだ。


「ばかやろうっ!」


彼女の顔がみるみる赤くなる。

怒っているのかな?


でも。

言わなきゃ。


「僕の・・・俺の日記を勝手に読んだな?」


図星だったのか。

彼女の目が泳いでいる。


「許せないっ・・・だけど」

「えっ・・・?」


「何で、後半も読まなかったんだ?」

「えっ・・・?」


「後半は夏っちゃん・・・君のことばかり」

「えっ・・・?」


「お前のことしか、書いてねぇよっ・・・」

「えっ・・・?」


同じリアクションを続ける彼女を。

僕・・・俺は。


ギュッと、した。


「えっ・・・?」

また、同じリアクション。


だから。

僕・・・俺は。


同じく。

ギュッと、した。


夕日が沈んでも。


そのまま。

ギュッと、していた。

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