第6話

石山:ゾンビ映画にありそうなシーン 完結編

0: 

0: 

式町:ありがとう、渥美さん。おやすみ。

0:銃声

石山:急げ、走るぞ!

式町:はいっ!!


石山:ここは危険だ。ゾンビもそうだが、人間も狂っている!

式町:人間も?

石山:あぁ。あの久賀とかいった軍人も人間がゾンビになることを望んでいるように見えた。

式町:ゾンビになることを望む、ですか。

石山:笑ったんだ。「これは合法的な殺人」だってな。だから(遮られて)

式町:(遮って)危ないっ!

0:前方のゾンビを式町が射撃

石山:す、すまない。今は逃げるのに集中しないといけないな。

式町:お話もいいですが、常にアンテナを張ってください。私たちは生き延びると仲間に誓ったのですから。無駄死になんて、していられませんよ。

石山:式町。そうだな。もう少しの辛抱だ!

式町:はいっ!! 

石山:よし。どけどけどけ!!

0:前方のゾンビを射撃

式町:石山さん! 何か聞こえます! 近いです!

石山:何か聞こえる?

式町:耳を澄ましてください。微かに、聞き慣れた音が。

0:耳を澄ましながら

石山:これは。あの時の。

式町:ヘリコプターでしょうか!

石山:だとしたら、「湯藤さん」の可能性がある! 走れ! 駅前は広場になっていたはずだ! ヘリの発着もできるだろう!! 行こう!!

式町:分かりました! 


0:ヘリコプターにて

湯藤:ん? あれは。なんだ、女子高生かー。って、あれ? 石山さんじゃない!? 式町さんも?! 丁度いいじゃーん。掴まってー、揺れるよー。

津田:え、式町? 式町って。うわっとと。


湯藤:おいおい、なんて数のゾンビを引き連れているんだよ。避難所のゾンビか? チッ、仕方ないか。後ろの君!

津田:は、はい! な、な、何ですか?

湯藤:今から、生存者を二名、救出する! 扉を開けて、ロープを垂らして、お前が救助しろ!!

津田:な、何を言ってるんですか?! ぼ、僕は中学生ですよ! そんなことできるわけが。それに。

湯藤:なんだ。ミリタリー好きだって言うから、そういうのもできるのかと。所詮は横好きってことか。

津田:人命救助なんて、僕には。そ、操縦ならシミュレーションもしたことがあるし、できるかもしれませんが。

湯藤:本当か!! じゃあ、代われ! 僕が救助に回る。お前がここをしろ。ほら!

津田:え、ええ! ちょ。

湯藤:急げ!! 人命を救うんだ!

津田:(少し考えて)ああああ!! 分かりましたよ! 墜落しても知りませんからね!! (小声)な、なんでこんなことに。

湯藤:ふんっ。上等だ。操縦桿を離すなよ!!

津田:高度、下げます!! 何かに掴まってください!

湯藤:オーライ!! 電線には気をつけろよ! 絡まったら死ぬぞ!?

0:扉を開けて

湯藤:石山さーーん! 式町さーーん! こっちだーッ!! おーーい!

石山:湯藤さん、やっぱり湯藤さんだった! ロープを降ろしてください! 早くしないと私たちまで!!

湯藤:分かった! 操縦は大丈夫か?! 今からロープを降ろすぞ!

津田:大丈夫です! 大丈夫ですから、僕が大丈夫なうちに早くしてくださいよ、湯藤さん!!

湯藤:よし! ロープに掴まれ! 絶対に離すなよ!

石山:先に上れ、式町。私が下から支える。

式町:分かりました。無理はしないでください。私も自分の力で自分の身体くらい保ちますから。

石山:分かった。善処しよう。ほら、急げ。

湯藤:掴まったな。引き上げるぞ!!

石山:はい! お願いします!

津田:引き上げ中だと思いますが、すみません!! 機体、上昇させます! お二人は下を見ないで!!

湯藤:いい判断だ! ロープが揺れないように、慎重に上昇しろ! オーライ!! 

津田:はい!! 行きます!! うおおおおお!!

式町:大丈夫ですか、石山さん。

石山:ああ。大丈夫だ。また湯藤さんの世話になるなんてな。頭が上がらないな。

式町:そうですね。二度も命を救われましたね。苦手な人でしたけど。

石山:全くだ。うっ、し、下を見てしまった。


0:機内にて

湯藤:手を貸せ! 大丈夫か!?

式町:石山さん! 手を!

石山:悪いな、式町! 湯藤さんもありがとうございます! 何度も何度も(遮られて)

湯藤:(遮って)あーーー、ごちゃごちゃ喋るのは後だ。舌噛むだろ。引くぞ、せーの! っと。

0:少しの間

石山:ありがとうございます。助かりました。何とお礼を言えば。

湯藤:礼には及ばないよ。これが軍人の仕事だからね。可愛い子には目がないから、僕って。

式町:あれ? ゆ、湯藤さんですよね?

湯藤:ん? そうだけどん

式町:あ、あの、そ、操縦は? これ、湯藤さんのヘリコプターですよね? 自動操縦ですか?

石山:お、おい。そんな恐ろしいこと聞くなよ。代わりになる人間がいたに決まってるだろ。

湯藤:大丈夫。腕利きの「中学生」に任せてある。

津田:大丈夫じゃないですよ!! 機体の安定を維持するので手一杯なんですから!! 湯藤さん!! は、早く!!

式町:え、その声。


湯藤:あー、分かった分かった。戻るから! はいはい、代わって。慎重に退いて。

津田:は、離しますよ?

湯藤:いいよー? もう、僕持ってるから、後はその席から退いてくれれば。

0:津田が操縦桿から手を離す

津田:ふぅ。怖かったぁ。

石山:まさか、中学生が操縦するヘリコプターが私たちを救っただなんて。もう、マンガの世界だな。いや、ゾンビ映画か?

式町:津田君?

津田:湯藤さん、これからどこに向かうんですか?

湯藤:ん? ロックダウンしたエリアの外だよ。そっちの方が安全だからな。

式町:津田君。

津田:そんなことをしてもいいんですか? エリアの外に検疫もなく入るなんて。違法行為なんじゃ(遮られて)

式町:(遮って)津田君!!

石山:ど、どうした、式町! 

湯藤:お? 喧嘩? 呼ばれてるんじゃないの、君?

津田:え、僕?


式町:津田君なんでしょ?

石山:知り合いか?

湯藤:あー。もしかして、君の「仲間」の子だったの?

津田:君が式町、さん? 無事だったのか。

式町:江里夏と結実は?! 無事、だよね?

湯藤:あれ? 「ゆみ」ってこの武道派なお姉さんじゃなかった?

石山:いや、確かに私も「ゆみ」だが。私のことじゃないみたいだ。

津田:ごめん。い、生き残ったのは、僕、だけ、なんだ。

0:少しの間

式町:(口元を覆って)っ。

湯藤:仕方ない。聞けば、君達は中学生だけで逃げ回っていたそうじゃないか。全滅を避けられただけでも奇跡だと思うべき、じゃない?。

石山:津田君、君が生きているだけでも救われているんだ。だから、生き残ったことを悔いないでくれ。分かるな? 謝るのはなしだ。

津田:は、はい。でも。

式町:どうなったの?

津田:え。

式町:江里夏と結実は、どうなったの? 最後まで一緒にいたんでしょ?!

石山:式町。そんなことを(遮られて)

式町:(遮って)知りたいの。どうなったの? 教えて。

湯藤:どれだけ残酷でも、知りたいってゆーの? この世界の死なんて、どれも綺麗なもんじゃないけど。

式町:当たり前です。私にはその権利があって、その使命もあると思いますから。

石山:そうだな。式町も真実を知っておく必要はある。

湯藤:甘いねー、石山さんは。知らないよ?

式町:だから、お願い。

津田:分かった。(ため息)僕は後方のチームだった。それは覚えてるよね、式町さん。

式町:うん。結実と津田君と玲と三宅君が初め、後方で私たち前方の援護をしてくれてた。

石山:ちょっと待て。結局、何人のグループだったんだ、式町たちは。

式町:七人です。男子が三人、女子が四人の。男子は三宅柊真くん、上能神弥くん、津田優也くんの三人で、女子は深瀬江里夏、佐熊結実、綿中玲、そして私の四人です。

石山:いや、言われても覚えられないが。

津田:その後、前方のチームがゾンビの群れと衝突して、応援のために三宅が後方から前方へ上がった。それも(遮られて)

式町:(遮って)覚えてる。三宅君が来てくれなかったら、私や江里夏、上能君は危なかった。上能君一人じゃ、対応は無理だっただろうから。私達もいたけど、力にはなれそうになかったし。

津田:その後、すぐだったよ。綿中さんが、僕と佐熊さんを転ばせたのはさ。

石山:転ばせた?!

湯藤:それって意図的に?


津田:分からない。けど、確実に僕たちの足を狙って(遮られて)

式町:(遮って)違う。

津田:違わないよ。僕と佐熊さんは転んだ。そしたら、その時、ヤツらは見定めたかのように佐熊を狙ったんだ。僕には目もくれずに、佐熊を。

湯藤:へぇ。(小声)女、子供から狙うっていう噂、本当だったんだ。

石山:それで、どうなったんだ? 君が生き残っていることを考えれば、何となくの想像はつくが。

津田:佐熊は喰われたくないから、大声で叫んだよ。そしたら、ヤツら、より一層、佐熊に群がって。「助けて」って言われたけど、僕は。うっ。

石山:無理に細かく思い出すな。大まかにでいい。君が苦しむ必要はない。

津田:は、はい。すみません。

式町:結実が、食べられ、た?

津田:そしたら、深瀬さんが転んでいる僕を助けに来てくれたんだ。前方のチームからね。

式町:うん。途中で深瀬さんとははぐれて。

津田:そして、僕を庇うように喰われた。僕はそのおかげで生き残ったんだ! 佐熊さんと深瀬さんは僕の命を。こんな僕を。なんでだ?!

石山:待て、津田君。

津田:(我に返って)ハッ! な、何ですか?

石山:どうして、生き残った君は「式町たちと合流できなかった」んだ?


式町:え。

湯藤:そうだよね。同じグループなら、みんなで助け合うはずだし。その深瀬さんって人のように、手を差し伸べるはずだよね。

石山:はい。なのに、今の今まで式町たちとはぐれたままというのはおかしいんです。

0:少しの間

津田:逃げられたんだ。

式町:違う! 私たちは!!

津田:いや、式町さんは悪くないよ。アイツが悪いんだ。上能が。アイツが!!

湯藤:前方チームにいたとかいう子か。

津田:アイツがチームの指揮を執っていた。僕ら後方チームはみんな上能に嫌われていたから、捨て駒として使われた。後方チーム、囮としてね。

石山:嫌われていた?

津田:深瀬さんが前にいたのはアイツが好意を寄せていたからだし、式町さん、君が前にいられたのは深瀬さんに告白して捨てられた後でも、君に乗り換えることができるから、だったんだよ?

式町:え。

津田:アイツは初めから、そうやってチームを分けたんだ。僕はチーム分けが決まった時にそう分かったよ。

湯藤:へー。なんて、人間らしいんだろう。こんな非常事態でも自分の好き嫌いを尊重する、なんて。

石山:人間らしい、ですか。湯藤さんらしい感想ですね。ただの人でなしですよ。

湯藤:そう? 人間なんて、好き嫌いで生きてるだけ、そう思うけどね、僕は。僕もそうだし。

式町:じゃあ、三宅君はどうなるの?

津田:え?

式町:三宅君は途中で前へ、自分で駆け上がって来た。嫌われていると彼が気付いていたかは分からないけど、三宅君はその壁を越えた。あなたはそれすらしないで!(遮られて)

津田:(遮って)お前も上能の肩を持つのか?

石山:違うぞ。肩を持つかどうかではないんだ。

津田:どういうことですか!!


式町:三宅君はどんな状況でも上能君を信じていた! だから、私たちと一緒に生き残って! 生き、残っ、て。あ、あれ?

石山:式町、よせ! それ以上は!!

津田:生き残った? じゃあ、「アイツらは今、何処にいるんだ」よ!!

湯藤:あーあ。(小声)また、か。

式町:生き、の。あ、あれ? みんな。

石山:式町! しっかりしろ!

式町:(我に返って)ハッ。

津田:式、町?

湯藤:(大きめ)式町さん! 君の仲間は今、軍事基地にいるんだろ? 安全な「避難所」にいるからね。大丈夫、安心してよ。

式町:うん。後から、追い駆けてくる、って。約束、したから。約束、したから、ね。

石山:そうだな。私の仲間もそこにいるんだ。

式町:そのためにも、死ねない。

津田:式町。

湯藤:ふん。(小声)慣れないこと言うもんじゃないね。(あくび)

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0:しばらくして

0: 

石山:ところで、彼はどこで回収したんですか?

湯藤:回収って。人を物みたいに言うね。

石山:え? あ、いや、それは。

湯藤:いいんじゃない?  あの子は「君たちを回収したショッピングモール」の近くで回収したんだ。

石山:あのショッピングモール、ですか。

湯藤:ああ。

石山:式町を拾った場所はもっと(遮られて)

湯藤:(遮って)そう、僕も思った。明らかに証言が食い違う。場所が違いすぎるんだよ。そこに地図があるだろう?

石山:え、あ、はい。これですね。

湯藤:彼と式町を拾った場所は少なくても二五キロは離れているんだ。

石山:そうですね。人間に走れない距離ではないですが。中学生には無理がありますね。

0:少しの間

湯藤:なるほど。「君の見解」はそうなんだな。

石山:見解?

0: 


0:ヘリ後方

津田:全部、知っておきたいって言ったよね。

式町:え。

津田:佐熊や深瀬のこと。

式町:うん。言った。

津田:それさ、後悔してる? 全部聞いて。

式町:ううん。一つも。

津田:僕は後悔してるよ。上能や三宅のことを聞いてさ。

式町:なんで? 嫌いだったんでしょ? 後悔なんてする必要あるの?

津田:案外、非情なんだね。

式町:え?

津田:あ、いや。その、謝れなかった。最後まで。素直な「友達」になれてなかったって思うんだよ、ずっと。

式町:津田君。

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0:ヘリ前方の二人は

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湯藤:彼を初めてヘリに乗せた時、「何も話さなかった」んだ。記憶喪失でもしているんじゃないかと思うくらいにね。

石山:記憶喪失、ですか。

湯藤:そりゃあね? ショッキングな同級生の最期を見たんなら、記憶に蓋をしてもおかしくはないと僕も思うよ。

石山:そうですね。私も祖父から受け継いだ竹刀を折った時には記憶を少し。今もその頃の記憶は曖昧ですから。

湯藤:(言葉に詰まって)変わらないね、君は。でも、彼の様子を見ただろう?

石山:はい。難なく話していましたね。本当に記憶喪失だったわけではなさそうで(遮られて)

湯藤:(遮って)そこだよ。僕は軍人だ。恐怖による記憶喪失、ってのに陥った仲間を何人も見てきた。でも、あれは違う気がする。

石山:それが湯藤さんの「見解」、ですか。

湯藤:そうだよ。

石山:それほど態度は豹変したんですか?

湯藤:えー?

石山:式町よりも酷かったと?

湯藤:いいや? そこまでは酷くなかったよ。君、誰のおかげで今ここにいると思ってるの?

石山:それは湯藤さんのおかげでは?

湯藤:何を寝ぼけたこと。彼が操縦桿を握ってくれたおかげだろ? 忘れるなんて、津田君に可哀想だろー?

石山:あぁ。そうでしたね。この機体は彼が。


津田:湯藤さん。また何か変な話でもしていたんですか?

湯藤:えー? 別に?

式町:「また」ってことは前にも?

津田:うん。「ゾンビが現れたから、デートに行き損ねた。可愛い女の子と行く予定だったフランス料理専門店も壊滅だし、これはゾンビとデートするしかないね。でも、デートしたら僕生きて帰って来れるかな」って。

式町:私たちが初めて会った時もそんな感じでしたよね、湯藤さん。湯藤さんって何者なんですか。

湯藤:よく一言一句間違わずに覚えてたね、津田君。さすがに怖いよ?

石山:言ったってのは認めるんですね。というか、湯藤さんも変わってないじゃないですか。少しは真面目になったかと思えば。

湯藤:えー? 僕は真面目でしょ? 任務をしっかりと遂行してるんだしさ。

式町:誰と比べてかは別とすれば、まぁ。

津田:僕たちの命を救ってくれたのは、確かに真面目だったのかもしれませんね。頭は上がらないです。

湯藤:へへーん。崇めろ、崇めろ、ガキの衆。

石山:(小声)中学生相手に、そんなことで威張れるとは。あと、言葉遣い。

湯藤:ま、久賀さんより真面目に働いてる自信はあるよ? ところで、久賀さんはどうしたの? 一緒にいたんでしょ?

式町:ッ。


津田:誰ですか、それ?

湯藤:僕の上司だよ。彼は(遮られて)

石山:(遮って)彼なら、死にました。

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湯藤:ゾンビ映画にありそうなシーン 完結編

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石山:彼なら、死にました。

0:少しの間

津田:し、死んだ? 湯藤さんの上司が?

湯藤:へー。

石山:私たちをゾンビから守ろうとしてくださったんです。おかげで私たちは生きていますので。

式町:そう、ですね。そう、です。

湯藤:あのさ、久賀さん、最後になんて言ったの?

石山:「最後まで生き残れ。ここは私が引き受ける」と。潔い姿でした。まだ、目に焼き付いています、最後のあの笑顔は。

津田:軍人としては当然じゃないですか? 自分の身を呈するなんて。いい軍人だったんですよ、きっと。

湯藤:そうだね。軍人が最期に残す言葉としては最高の言葉だよ。尊敬しちゃうなー。

式町:最期まで私たちのことを導いてくれました。

0:少しの間


湯藤:あっははは!! なんだよそれ! よっくもまぁ、そんな「嘘」がつけるよね! ね、石山さん! ククク。はははは!

石山:え。

式町:嘘じゃありません! 久賀さんは庇ってくれたんです! 本当なんです!

津田:なんで嘘だって分かるんですか、湯藤さんは! 長く一緒にいたからですか? それとも「決定的に間違っているところ」があるんですか?

式町:決定的に間違っている、ところ?

湯藤:うーん。両方かなー? 僕の知る久賀さんはそんなに正義感に溢れた人じゃないし、それに、石山さん。君が嘘をついている証拠が一つ、僕の手の中にあるんだよね、残念ながら。

石山:手の中に?

湯藤:ふふーん。えーっと、これさ。ほら、投げるよー。ちゃんと受け取ってよー?

0:湯藤は携帯を放り投げる

式町:え、あ、おっとっと。

石山:これは?

湯藤:古住。彼女との連絡履歴だよ。問題なのは古住が僕に送り付けてきた「久賀さんとのやりとり」なんだけど。そこに添付されているから、津田君と式町さんの二人で読んでみてよ。

津田:え、なんで僕が音読なんか。

式町:早く読んで。津田君からだから。

津田:なんで、やる気満々なの? 素直なの?

石山:早く読んでくれ。

津田:えー。(溜め息)分かりましたよ。

湯藤:しっかりと感情を込めてね? なりきって、なりきって。


津田:え、えー? えっと、「新しい被検体が二人、見つかった」

式町:「被検体、ですか?」

津田:「今からそちらに向かう。応援として渥美を寄越してくれ」

式町:「どうして、渥美君を?」

津田:「万が一逃げようとした時、彼なら女の一人や二人、抑えられるからだ」

式町:「分かりました。こちらから連絡しておきます」

津田:「実験の準備も任せたぞ? 次はもっと明確な成果を出すんだ」

古住:「勿論です。尽力します」

0:少しの間

石山:それで、終わりか?

津田:うん。ここで途切れてる。

式町:私たちが、「被検体」、ってこと?

湯藤:そ。ついさっき、これが古住から送られてきてね。まずいと思って引き返していたところだったんだ。すぐに見つかったけどね。

石山:ありがとうございます。

湯藤:だから。

石山:え。

湯藤:だから、久賀さんが君たちのことを身を呈して「守る」わけがないんだ。

式町:被検体の「代わりなんていくらでも」、ですか。

津田:ちょっと待って。被検体って何? ごめん。初めて聞くから。

石山:この子には、まだ話してなかったんですか、湯藤さん。もう隠し事はないんじゃなかったのですか?

湯藤:いやね、君たちが特別なんだよ! 分かってる?

式町:こんな状況で特別も何もないですよ! 情報は大事なんですよ? 誰彼構わず共有するべきです。ゾンビがいる世界が今までの世界と同じだとは思わない方が身のためです。

湯藤:(ため息)分かった、分かった。言うことが立派になったね。

津田:ありがとう、式町さん。

式町:私は最後まで見捨てないから。誰一人。絶対に。

津田:式町さん。強くなったんだね。

式町:う、気のせい、だよ。


湯藤:被検体というのは軍の所有する「生命化学研究所」が秘密裏に行なっていた実験に協力した人間。ということになってる。

津田:ことになってる? ってことは(遮られて)

石山:(遮って)建前、ということですか?

湯藤:そういうこと。実際は違うってことだね。本当は「身寄りのない人間を騙し、非人道的な実験をする」というもの、なんだ。

式町:え、ちょっと待ってください! それは初耳です! そんなことを国が率先して行なっていたんですか?!

石山:お、落ち着け、式町。話は最後まで聞こう。

式町:あ、はい。そうですね。じゃないと、またあの人の時みたいに。

津田:あの人?

湯藤:前に話したのは久賀さんでしょ? 僕じゃないんだから。僕は話すと決めたら、とことん包み隠さないよ。だから、よく聞いてほしい。

津田:湯藤さんはどこまで知ってるんですか? 湯藤さんも、その加害者なんですか?

石山:湯藤さんは多分、すべてを知ってる。実験の終始を。

津田:(大きめ)だったら(遮られて)

石山:(遮って)でも、敵じゃない。それだけは言っておく。

湯藤:へぇ。

津田:なんでですか?! このまま僕らをその生命化学研究所へ連れて行く気かもしれないんですよ? なんで信じられるんですか?! もしかしたら、僕らも非人道的な実験の餌食に。

式町:この人はそんなことしないよ。

湯藤:なんでそんなこと、言いきれるの? 確たる証拠でもあるの?

石山:当人であるあなたがそれを聞くんですか。

湯藤:まぁ、気になるからね、普通に。

石山:まず、あなたの携帯電話が今こちらにある、というのが一つ。そして、二度にわたり私たちを九死から救ったこと、それがもう一つ。

式町:この状況下。この二つは信頼に値しますね。湯藤さんが私たちを信頼して下さっている証拠ですよ。

津田:そんな簡単に人を信じる、のか。

石山:なら聞くが、君は誰に助けられたんだ?

津田:え。いや、それは。

石山:信じられたいなら、信じろ。君の中学ではそんな簡単なことも教えてくれなかったのか?

湯藤:いいね。これで僕も君たちの仲間になれたのかな。嬉しいね、ククク。

石山:リーダーは湯藤さんでしょう? 私たちはついて行くだけですから。

湯藤:責任転嫁じゃないの、それ?

石山:(間をおいて)それもそうですね。


湯藤:で、話を戻すんだけど、さっき言った「被験体」の中には名前を持つ個体もいるんだよ。それが? はい、式町さん。覚えてる?

式町:え、あ、「アポリュオン」でしたよね。意味は(遮られて)

津田:(遮って)「破壊者」、じゃない?

式町:え。どうして、それを?! 初めて聞くんじゃないの?!

津田:ゲームの中にいるんだよ。「破壊者 アポリュオン」ってのが。僕のお気に入りのモンスターだよ。

湯藤:ゲームの教養か。悪くないね。でだ、そのアポリュオンってのが、今も尚、このエリア内のどこかを徘徊してるってわけ。この騒ぎの元凶だね。

石山:やはり、まだ見つかっていないんですね。

式町:何の情報もないんですか?

湯藤:何も? 一つでも情報があれば、僕がこんなところ飛んでる理由はないんだよねー。いないかな、石山さんみたいに偶然さ。

式町:惰性で飛んでるんですもんね、湯藤さん。

湯藤:不必要なことばかり覚えてるよね、君たち。

津田:他に今、分かっていることはないんですか?

湯藤:え? あー、そうだなー。「逃げた」じゃなくて「逃がした」ってことくらいかなー? ま、僕は後から聞いたんだけど。

式町:逃がした?!

津田:それって、意図的に逃がしたってことですか?

石山:確か、あの時は。

湯藤:あの時は「逃げた」って言ってたね。研究所の杜撰な管理のせいだ、って久賀さんは。

式町:嘘、だったんですね。

湯藤:僕は久賀さんの話に乗っただけだよ。上司が隠すんなら、僕が晒すわけにはいかないから。ああ見えて、久賀さんって怖いんだよ?

式町:っ。た、確かに。

津田:意図的に逃がした、んですか?

石山:確かに。そこは重要ですよ、湯藤さん。「取り逃がした」のですか? それとも「意図的に逃がした」のですか?

湯藤:そんなに希望が欲しいのかい? クク、「意図的に」だよ。残念ながらね。


津田:どうして。

湯藤:どうして、って。意図的にウイルスを蔓延させるためなんじゃないの?

津田:だから、どうしてそんなことをするんだよ!! 平穏に暮らしていた人達を地獄に突き落とすような真似を!!

石山:お、落ち着くんだ、津田君!

0:少しの間

湯藤:あ、今更だけど、僕は関わってないからね? その「逃がした」ってのには。ほら、言ってないと怖いからさ。変な殺意とかが僕に来そうでさ。

式町:久賀さんだけ、ですか? それに関わった軍人さんは。

湯藤:んーー、まぁ、そうだね。それで、その後が問題なんだ。アポリュオンを逃がした後も、第二、第三のアポリュオンとして、君たちを放とうとしていた。って、それがさっきのメールの内容なんだけどね?

石山:だとしたら、古住という研究員も味方なのですね。

津田:内部告発ってことか。

式町:もし、久賀さんサイドの人間なんなら、わざわざ湯藤さんにあんな連絡する必要もないし。

湯藤:そ。だから、今とても安堵しているんだ。間に合ってよかった、てね。僕、いい軍人でしょ?

0:履歴を遡りながら

石山:ちょっと待ってください、湯藤さん。

湯藤:んー? どうしたの、石山さん。まだ何かある? もうヘリ操縦しながらの事情聴取みたいなの、終わりにしたいんだけど?

石山:古住さんって、さっき言ってた「デートの相手」ですか?


津田:えええ?! こ、こんな非常事態に、付き合って? っていうか、あの話、本当なだったんですか?

式町:なるほど、恋人同士だから、情報交換が早かったのですね? もしかしたら、このヘリもその恋人のところへ?

湯藤:さぁ。どうだろうね。僕は恋人だと思ってるんだけど、って、変な詮索はよしてくれない? 早く返してくれよ、僕の携帯。

石山:あ、すみません、つい。えっと、では、これはお返しします。ありがとうございました。

0:湯藤は携帯を受け取る

湯藤:はい、どうも。

津田:こんな状況でも好きな相手のことを考えてるなんて、とんでもない惚気野郎だね。上能と同じだなんて、吐き気がするよ。

式町:でもそれが活力になって生きようって思えるなら、それもアリなんじゃないかな。

津田:愛の力で生還? じゃあ、僕も恋の一つや二つ、しておくんだった。アイツに倣って。

式町:恋は一つでいいの! 二つも三つもしたって、結ばれるのは一つなんだから。

津田:へぇ、式町さんは一途なタイプなんだね。

式町:はぁ?


湯藤:ところで。

石山:はい?

湯藤:久賀さんの行方なんだけど、何か隠してるなら、本当に君たちのためにならないからさ、やめた方がいいよ? 

石山:あ、そのことなんですが、さっき言った通りで事実です。

湯藤:え、庇って死んだってこと?

式町:いえ、私たちを庇ってはいませんが、亡くなったのは確かですね。生きてはいません。

津田:え、なんで、死んだの? 

石山:その、私が撃ち殺したから、ですね。

0:長めの間

湯藤:あっははははははは!!

石山:ゆ、湯藤さん?

湯藤:それは傑作だね! 助けた相手に殺される軍人だなんて。飼い犬に手を噛まれるどころか、ボッコボコって感じだね!!

式町:う、嬉しいんですか、湯藤さん? 急に元気になって。

石山:湯藤さんは久賀さんのことを嫌っている様子だったし、嬉しいってのは、あながち間違っていないかもしれないよ、式町。

津田:自分の上司が死んで笑うなんて、どうかしてますよ。精神病院紹介しましょうか? 僕がよく通った病院に精神科がありますよ。

石山:それは湯藤さんにとっては褒め言葉、かな。

湯藤:間違いないね。

津田:なんでだよ。ん?

0:津田が窓の外を見て

津田:あ、あれは。

式町:どうしたの、窓の外なんて見て。

津田:規則的に動く車両が。もしかして。

式町:あれは救急車かな? にしては物々しいような気もするけど。

津田:救急車ならもっと白いだろ。

式町:ま、まぁそうだけど。

石山:救護班ですかね?

湯藤:そうみたいだねー。ようやく、国の軍が重い腰を上げて動き出したって感じかなー? 久賀さんが死んだからかな。クク。この話も収束が見えてきたね。

石山:そう言えば、ふと気になったんですが、「ロックダウンしていた期間」ってどのくらいなんですか?

0:少しの間

湯藤:聞きたい? (間をおいて)「君たちが平穏に生活していた頃から、この街は表面的にロックダウンしていた」だなんて怖い話。

石山:(息を飲んで)聞かなければよかったですね。

津田:これでこの騒ぎも終わるのかな。

式町:うん。これから、私たちはどうなるんですか?

湯藤:そうだなぁ。まずは検疫を受けて、人間であることを証明しないとね。

石山:「検疫」があるんですか?

湯藤:そりゃあね。あんな「化け物」をエリアの外に連れて行くわけにはいかないから。エリアの外でゾンビ騒ぎなんてごめんだし。

津田:検疫、あるんですか。(雰囲気が変わって)それじゃあ、その前にやるべきことがあるね、式町さん?

式町:え、あ、ちょ、どうしたの?

津田:別に? 「口封じ」でもしようかなって。

式町:あ、え、津田君?

0:ナイフを式町の首に当てる

津田:ほら、静かにしてよ。

式町:ひッ。

石山:式町!

湯藤:へぇ、やっぱりね。おかしいと思ったんだ。僕の見解、もしかして正しかった? 嬉しいなぁ。

津田:ねぇ、湯藤さん。このままエリアの外に出てよ。勿論、検疫はナシ。お前の独断で外に出るんだよ。いいよね?

石山:お前。なんの真似だ。

式町:どうしたの、津田君。ちょっと!

津田:やっぱり、気付いたのは軍人だけってわけか。石山さんなら気付いてくれると思ったのになァ。

石山:何?

津田:あー、「助けてください、追われてて」って言えば、気付いてもらえる?

0: 

0: 

式町:ゾンビ映画にありそうなシーン 完結編

0: 

0: 

津田:「助けてください、追われてて」って言えば、気付いてもらえる?

石山:それは。

津田:ふふ。気付いたァ?

石山:対馬が、初めて私たちにかけた言葉だ。

式町:「対馬」って。

石山:お前、対馬なのか?

津田:はーぁ? 僕があんな汚い女に見える? 石山さん、ゾンビより目、腐ってんじゃないですか? 

石山:「あんな汚い女」だと?

津田:対馬は君たちに会った時から死んでいたし、向こうは何の記憶もないよ。今更、あんな女の名前を呼んだところで(遮られて)

湯藤:(遮って)えらく人間のことを下に見ているんだね、君は。面白いじゃん。

津田:あぁ? お前。

湯藤:いいや? 人間様に喧嘩売るったぁね。

津田:あんまり舐めた口利いてると、コイツから死ぬんだからな? 分かってるの、そこんところ?

式町:ひっ?! ちょっと待って、待って待って!

湯藤:ハハ。それがどうしたんだよ! やりたいんなら、やりゃあいいだろー? ところで、君はゾンビなのかい? 人間なのかい?

石山:そんなことどうでもいい。お前を殺さない訳にいかない。式町は殺させない。

式町:石山さん。

津田:いやぁ、おっかないね。僕はゾンビだよ。それも、史上最も人を殺した、ね。

0:少しの間

0:石山の眼光がギラリと


石山:殺す。

式町:本当にゾンビなの、津田君。

津田:うん。君には申し訳ないけどね。ここに乗った時からずーーっとゾンビだよ。

式町:そ、そんな。津田君は(遮られて)

津田:(遮って)でもさ、式町さん。僕は「ただのゾンビじゃない」んだぁ?

石山:ただのゾンビじゃない、だと?

湯藤:へぇ、もしかして。そういうこと?

津田:死んだ人間の言葉を借りて言うなれば、「人間の死体を動かせる」ゾンビ。かな? 僕が動かしているんだよ。凄いだろ? 「僕は津田だよ! 君の仲間だよ、式町!」っていった風にね。ふふ。

石山:そうやって、お前は対馬をも演じたのか。

津田:え、そうだよ? ショッピングモールで、まんまとくたばった女の身体を借りたんだ。場所はショッピングモールの屋上近くの廊下だよ。君たちも一度は通ったろう?

石山:廊下?

湯藤:悪趣味だよね、男が女の身体を操るだなんて。

式町:どうして、そんなことをするの。津田君。

津田:津田はそんなことしてないよ。僕が悪いんだから。外側の子のことは責めちゃあダメだよ?

式町:(震えた声)外、側。なんで。

湯藤:古住はどうしてコイツに「モラル」っての組み込んでくれなかったんだろうな。代謝率ばっかり上げて(遮られて)

津田:(遮って)うるさいぞ、湯藤。

湯藤:やれやれ、とうとう呼び捨てか。

津田:そう言えばさ、お前もお前だよ、式町さん。

式町:え、え?

津田:どうして、僕が「逃げてくれ」って行った時、すぐに逃げなかったの? ねぇ?

式町:え、わ、私は津田君からは指示なんて何も。そ、それに、津田君は後方チームで(遮られて)

石山:(遮って)やめろ、式町! それ以上考えるな! 津田はお前を(遮られて)

津田:(遮って)違うよ? 僕は式町さんの傍にいただろう? ほら、名前はなんて言ったっけな。えーっと。

湯藤:(小声)あーあ、式町さん、壊れちゃうかな。

石山:式町!


津田:そうだ、「三宅君」とか呼んでくれたっけ、僕のこと。

式町:三宅、君? うそ。津田君が、三宅君?


津田:アハハッ! そうそう! 僕は対馬も動かしたし、三宅も動かしたんだ! 楽しかったよー? みんな人間のように僕と接してくれるんだもんなぁ。

石山:式町を離せ! お前は何が目的なんだ?!

津田:やだな、石山さん。僕はきちんと君のこと「石山」って呼んでるんだから、僕のことも名前で呼んでよ。ほら。

湯藤:うるさいぞ、釘沼。

釘沼:へぇ、僕の名前知ってるんだ、お前。ってことは、研究所の人、なんだねー? 無関係じゃなかったの?

湯藤:僕は知り合いに研究員がいるだけだよ。彼女とは違う。

式町:どういうこと? 釘沼さんが三宅君で津田君で、対馬さんで。

釘沼:え、式町さんが僕の名前を呼んでくれるなんて。嬉しいなぁ。

釘沼:でも、その名前、嫌いなんだよね。僕は「アポリュオン」。名前の通り「破壊者」ってね。

石山:お前が、この騒ぎの元凶、なのか。

釘沼:僕の望みは初めから一つだ! エリアの外に出してくれ。それだけだ。それができないって言うんなら、仕方ない。このサバイバルナイフで式町さんの喉をかっ裂く。

湯藤:ナイフなんて使わなくたって、殺せるだろう、お前なら。触手っていう武器があるそうじゃないか。妙に人間味があって嫌だよね、お前。

釘沼:僕はその力を使って人を殺すのには、もう飽きたんだよ。人間として人を殺そうとしているのは褒めてほしいね。

湯藤:人間は人間を殺そうとはしないんだよ?

釘沼:気持ち悪い偽善だね。

湯藤:褒め言葉、どーも。

石山:どうしますか、湯藤さん。エリア外に出なければ式町が。しかし、出てしまえば取り返しが。

式町:エリアの外に出てください。それからでも処置は考えようがありま(遮られ)!

釘沼:(遮って)うるさいよ、式町さん。

式町:ひっ! あ。

釘沼:このナイフが見えないの? お前は人質だって、自覚ないの? 死にたい? 死にたいの? ねぇ。

式町:そ、そんなの、別に怖くな(遮られて)

釘沼:(遮って)あー、そっか。僕が刺さないって、そう思ってるの? そっか、そっか。

式町:だって、津田君はそんなこと。

釘沼:(ため息)だから、違うって言ってるのに!! 僕はね、釘沼奏大って言うんだよ!! 分かる?!

0:プツッと式町の首を刺す

式町:あ、あ。

湯藤:釘沼!

釘沼:んー? エリアの外に出してくれる気になったの? 勿論、僕の身体は無傷で、だよ?

石山:お前が被害をこれ以上拡大させないという保証はない。だから、これ以上は無理だ。ここで最期を迎えるんだよ、お前は。

釘沼:へぇ。そしたら、君たちも助からないね。僕がお前らを道連れにして墜落してやるよ。僕は本気だよ? 本気。

湯藤:それについてだけど、彼女らは承諾済みなんだよね、実際。

釘沼:はぁ? 何言って(遮られて)

石山:(遮って)私たち三人の命より、

式町:この国の何万ある生活を優先する。


0:少しの間

湯藤:ククククク。彼女たちはただの学生じゃない。久賀の部隊に編隊された「軍人」なんだよねー。そうなる覚悟くらい、疾っくにできてるんだよねー。

釘沼:何を戯けたこと。ふふーん。エリアの外に出られないなら、仕方ないね? ほーら。ごめんね、式町さん。君が死んだら、「絶対に追い駆けるから」さ。バイバイ、式町さ。

0:釘沼の右腕を撃ち抜く

0:少しの間

0:ナイフを持つ手が落ちる

釘沼:な、あ。はぁ?

式町:私の大切な友達の真似、しないでくれる? 

釘沼:お前、僕の腕を。

式町:今だよ、友美!!

湯藤:せっかく僕に支給されたヘリなのに、中で銃撃戦だなんて、勘弁してくれよな。

石山:よくも、菅原と寺沢を喰ってくれたよ、対馬。いや、釘沼。お前は私がかっ裂いてやる。来いよ、なぁ?!

釘沼:キャハハハハハハハハハハ。馬鹿だねー? 馬鹿だよ、馬鹿だッ!! お前ら本ッ当にさー?!

湯藤:まさか。

釘沼:僕はゾンビだよ? 復活くらい、いくらでもでき、ぐ、うぐ、なんで?! 復活が、できない??


石山:復活ができない?

式町:油断はしないでください、石山さん。演技かもしれませんから。

石山:当たり前だ。油断は禁物。日本武道の基本だ。大丈夫、気は抜かないよ。

湯藤:へーぇ、「復活ができない」かぁ。当たり前だよねぇ? ククク。

釘沼:お前。

湯藤:僕は。君の弱点を知ってる。


釘沼:「弱点」だと。

湯藤:だって、お前を作ったのって、「古住藍」。僕の彼女なんだから。

式町:え、あのメールの人?

石山:釘沼を、作った? それって。

湯藤:あぁ。久賀に命令されて嫌々ね。だから、少しくらいの弱点は僕も把握してる、ってわけ。

式町:なら、どうしてもっと早くにそれを言ってくれなかったんですか?! それが分かっていれば(遮られて)

湯藤:(遮って)確証がなかった。それに、雪村さんからも抑止されていたから。言う訳にはいかなかった。

石山:雪村さんが? 

湯藤:君さ。

0:少しの間


湯藤:「分身できる」、んだろう? ウイルスを介して、いくらでも。

釘沼:ク。

湯藤:対馬とかいう女子高生の中。三宅とかいう男子中学生の中。そして、津田とかいう男子中学生、お前の中。


石山:待て。それって、もしかして。

湯藤:そうさ。どれも「本体」じゃないんだよ。

式町:釘沼の、本体じゃない?

湯藤:お前らゾンビは本体である「アポリュオン」からウイルスの力を受け継ぐ。だが、そこには致命的な弱点があるんだよね。

石山:弱点って、「体組織の損壊」だったのでは。それは解決したと以前。

湯藤:それは古い話だよ。僕が言ってるのは「感染力」の話さ。

式町:「感染力」?

釘沼:何故だ!? 復活だ! 復活しろよ、アポリュオンッ!

湯藤:無駄だ。「あのウイルス」は「本体」が生きていて初めて感染するんだ。勿論、それは再生力にも影響が出るから、って古住が自慢げに話していたよ。

釘沼:まさか、お前らが僕の、本体を。

湯藤:僕らじゃない。「ここにいない誰か」、だろうね。

石山:その誰か、って雪村さんですか?

湯藤:さぁ。僕は知らない作戦だから、何も答えられないな。

式町:「本体が死んだ」ってこと?

釘沼:そんな馬鹿な。(小声)本体は。

式町:だったら、「これ」を殺れば。

石山:あぁ。私たちの「ゾンビ映画」は終わるってわけだな。

式町:長かったですね。

湯藤:まだ、そんな風に話す余裕があるのか。僕にもそんな心の余裕がほしいよ。

石山:ふふ。(小声)それは寺沢が菅原に言ったセリフですよ、湯藤さん。

釘沼:チッ。クソが。人間なんかに。お前らなんかに。

湯藤:残念だったね、ゾンビ君! 君の力を使いこなせるのは、君だけじゃないんだ。僕ら人間を舐めるなよ! さて、僕はデートの服でも考えるかなー。

石山:湯藤さんも、十分な余裕があるじゃないですか。

式町:二人とも。

0:少しの間


釘沼:お前らは、許さない。決して、許さない。なんで、お前らはいつもいつも、いつも、いつも。

式町:(何かに気付く)ハッ! 「その目」はッ!!

釘沼:ぐ、ユルサナイッッ!!

式町:上能君の時の。

石山:しまった!

式町:湯藤さん、身体をッ!!

釘沼:死ね、湯藤。お前が一番だ。

湯藤:んぐぅ?! フフーん。ようやく、本気を出したのか、釘沼。お前の敗北は決まっているって言うのになぁ。

式町:湯藤さんッ!! 大丈夫ですか?!

湯藤:大丈夫。本体が死んだんなら、感染はしない。

石山:釘沼! クソ! 大人しく(遮られて)

釘沼:(遮って)僕は平和に暮らしたいだけだったんだ!! 静かに、みんなと!! なのに! 

湯藤:なら、どうして、今、平和にできねぇんだ、馬鹿。お前はゾンビにならなけりゃ、ただの人間にもなれるんだぞ?

釘沼:お前らが裏切ったから、僕も裏切る。何が悪いんだ!! お前らに僕の何が分かるんだ!!

0:少しの間

石山:何が平和だ。馬鹿らしい。

式町:待って、石山さん。

石山:止めるな、式町! 私たちは此処で終わらせなくちゃいけないんだ!!

式町:でも。

釘沼:お前らは特にユルサナイ。僕の餌になってもらうんだ。ねぇ? アイツらみたいにさ。歪んだ正義ってのを見せてくれよ。

0:少しの間

湯藤:(ため息)(小声)雪村。もしかしたら僕は。

0:少しの間

湯藤:何かに掴まれ、石山、式町! これは上官からの命令だ!! 急げッ!

石山:なっ!? 何を!

式町:っ?! 痛ッ!

湯藤:縦旋回ッ!! 手を離すなよ。離したら、死ぬかも知らねぇぞ!!

石山:ハイッ!!

釘沼:何を、する気だ。

湯藤:お前の負けだ。それを証明させてやるんだよ、ゾンビ野郎、釘沼になァ!!

釘沼:ぐ、身体が動かな。なんでッ!!

式町:過剰重圧! 遠心力で釘沼さんを押さえ付けてるんだ!

湯藤:よく分かったな、式町! 及第点だ!

釘沼:そんなことをしても、ただの時間稼ぎにしかならな(遮られて)

石山:(遮って)湯藤さん!! ここの扉を開けてください!! 早く!

湯藤:ダメだ! ここから落としたとしてもコイツは死なないぞ!! 傷ですら、一つも(遮られて)。

石山:(遮って)違います!! 守れる人を、守るんです!! だからッ!!

0:少しの間

湯藤:なるほどね。分かった!!

釘沼:生意気な真似を。重力がなんだ!! お前らは残らず僕が喰うんだよ!! 逃がすか。

湯藤:開けるぞ!! 吹き飛ばされるなよ!!

石山:式町。お前、パラシュートは着けてたな?

式町:うん。乗り込んだ時に湯藤さんから「万が一のためにも着けておけ」って口うるさく言われたから。

石山:よかった。私もだ。(一拍)じゃあな、式町。

0:式町を突き落とす

式町:え。


湯藤:パラシュートを開け、式町!! 早く!! 紐を引くんだ!!

釘沼:逃がすか!! 誰も逃がさない!! 僕は、逃がさない!! だって、式町! お前は僕のこと、「見捨てない」って!! 言ったよな!! 式町ッ!! 式町ッ!!

0:釘沼が触手を伸ばす

石山:させないぞ、釘沼。お前の相手は私だよ。

0:銃剣で釘沼の触手を斬断

釘沼:アあ。式、町。

石山:そこまでお前が私たちに執着する理由は全くと言って分からないが、私が、私たちがお前をここで終わらせる。苦も楽も全部、此処でな。

釘沼:変わらないな、お前らは。アイツが身を呈して守るだけはある。

湯藤:もう喋るなよ、あとは目を瞑るだけでいい。お前は負けたんだ。

釘沼:なんでだよ。なんでお前らは!!

0:触手を広げ始める釘沼

式町:絶対だからッ!! 待ってるからッ!! 負けるな、友美ーーッ!! 絶対だぞーーーッ!! 

湯藤:あんな大声出せるなら。初めての自己紹介も大きくしてほしかったもんだね。下の名前を聞きそびれたのを惜しむよ。式町、なんだったっけ。

石山:さぁ、釘沼 奏大!! 後はお前を殺すだけだ。じっくりと素早く、な。

湯藤:「焼き殺す」。お前を完全に殺すにはこれしかない。皆の苦しみを味わわせるには、じわじわと焼くのが一番だ。

釘沼:焼き殺す? こんな上空で火なんて、すぐに起こせるものか。

湯藤:起こせるんだよねー。こんな空上でも。

石山:準備はできたぞ、湯藤さん!!

釘沼:何をする気だ!!

湯藤:お前の負けだ、クソゾンビ。

石山:お前が最後の「釘沼」だ。焼け死ね。

釘沼:グッ?! あれは!! まさかおま(遮られて)


0:一方

式町:湯藤さん!! 石山さ(遮られて)

0:爆発音

式町:え、うそ。

0:地上では

救護班1:なんだ、今の爆発は?! 近かったぞ!!

救護班2:見て! パラシュートで人が! 子ども?! 子どもよ!

救護班3:C班から本部! 緊急事態発生! 市内の大型ショッピングモールに軍用ヘリコプターが追突! 火災が発生している模様!

救護班2:あのショッピングモールって確か、まだ「古住」とかっていう研究員が事後調査してるんじゃなかった?

救護班3:知らないよ。とにかく、報告はした。消防隊も来るだろう。まずは、その子をどうにかしないと。

救護班1:大丈夫かい、君。ここは危ない。早く、こっちへ。移動するよ。

式町:待ってください!! まだ、石山さんが!!

救護班2:石山さん? 同級生かな。

救護班1:分からない。ヘリコプターの操縦士かも。

式町:いえ、石山さんは(遮られて)

救護班3:(遮って)ん? あれは。なっ!? 人だ!! 人が二人、パラシュートで降下してくるぞ!!

0:少しの間

式町:(心の声)石山さん、よかった。

石山:(心の声)言ったろ。追いかけるって。

0:少しの間

救護班3:急ごう! 学生二人とヘリコプターの操縦士だろう。

救護班1:大丈夫ですか、石山さん!!

湯藤:ふん、僕は湯藤だよ。石山はあっちの女の子だ。勇敢な女の子だよ。

救護班1:え、あ、失礼しました!

救護班2:大丈夫? 首元の傷。

式町:え、あ、はい。

救護班2:どうしたの? こんなところ。

式町:サバイバルナイフが少し。

救護班2:サバイバルナイフ? あっはは。ゾンビ映画の見過ぎよ。

式町:な。あなたは(遮られ)

救護班3:(遮って)おい。人の傷をなじる暇があるなら、上官に報告でもしろ! 帰還だ! 急げ!

救護班2:あ、はい!

救護班1:へへ。また、アイツ、何か言ったのか?

救護班3:まぁな。すまないな、君は、えっと。

式町:式町です。

石山:この子、怒らせない方がいいですよ、救護班の方々。

救護班1:え、怖いの? こんなに可愛いのに?

石山:足が一本、使いものにならなくなりますから。

救護班1:ひゅーぅ。それは怖い怖い。

式町:そんなことしませんよ!! 石山さん!!

救護班1:それじゃあ、早く運びましょっか。

救護班3:そうだな。病床にはまだ空きがあるらしい。君たちの同朋も生きていればいいな。

石山:はい、そうですね。

0:少し遠くで

湯藤:僕は動けるよ!! 明日またデートに誘うんだから! それとも、君が看病デートでもしてくれるっての?!

救護班2:安静にしてください!!

湯藤:ぐはっ!!

0: 

0: 

0:研究所にて

0: 

0: 

古住:ふーーむ。湯藤君が言ってた触手の新種ってコイツのことかな。へぇー、確かに妙だね。こんな触手が自然に生えるとは思えないんだけど。それに、こっちで何かを施したわけでもないし。うーん。

0:少しの間

古住:んー。まぁ、いいか。でも、この「触手ちゃん」は誰に倒されたんだろうなー。ショッピングモールの屋上には『この触手ちゃんに倒された人間がいたようには見えなかった』けど。自爆? いや、そんなわけは。

0:少しの間

古住:にしてもいい収穫だったなー。何せ、「久賀さんの死体」まで手に入ったんだから。(ため息)まさか、敷地内でくたばってるとはね、コイツ。しかも、この傷から推測するに、人間に殺られたみたいだね。ゾンビによる致命傷ではなさそう。湯藤君がやったのかな? 銃創を調べる必要があるね。

0:少しの間

古住:んふふ。やっぱり見れば見るほど、久賀さん、無様ですね? この次は、「あなたがゾンビになる番」ですよ。そして、次は、もっと派手に世界でも巻き込んじゃいます?

0: 

0: 

石山:ゾンビ映画にありそうなシーン 完結

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