七人目『大好きなあの子』
お婆さんが通り過ぎてから落ち着いた日々が流れた。一日に通り過ぎる数もお婆さんが来る前よりは減った。でもまぁ、減ったと言ってもほんの少しだけどそればかりは仕方のないことかもしれない。わたしは相変わらず、道を見て過ごしている。最近は触ってくれる人も少なくなった。よく聞くのが『猫アレルギー』だった。それについても最近、詳しく知った。
みんな、わたしが見えていないのかと思うほど、喋りかけてくれる人が少なかった。ただぼーっと自分の役目を果たすだけ。
久しぶりに話しかけてくれた人がいた。それはまだ、中学生、高校生ぐらいの女の子だった。
「猫だ〜。可愛い。触ってもいい?」
「にゃ(お好きに)」
いつもみたいに気持ちを打ち明けるのではなく、女の子はわたしを抱きしめた。自分の頬をわたしの体で擦る。そしてすうーと匂いを嗅ぐ。
数分後、満足したのかわたしを定位置に戻した。
「猫さん・・リールドアルトリア?」
「にゃー(長いからリルでいいよ)」
「長〜。リールでいいや。」
猫語なので伝わらない。女の子はよしっと言ってからわたしに向き直る。
「リール。お話聞いて欲しいんだ。」
いつものこと。
「私・・・僕ね。」
何を思ったのかあたりを見渡してから一人称を『僕』に変えた。
「僕ね。来年、高校受験があるんだ。だから勉強頑張ってるんだけど・・僕、好きな子が出来たんだ。大好きなんだ。その子と一緒の学校にいこうと思ってて。偏差値が足りないから今からすごく頑張ってる。自分で言うのもアレだけど・・それでね・・今も、こうしている場合じゃないんだ。こうしてリールと話している場合じゃ・・・・一緒の学校に行きたい。行きたいんだ。行きたい・・・・リール・・僕生きたい!あの子と一緒の高校に行きたい。行きたいんだよ。どうして・・」
女の子が涙を流した。涙が頬から垂れるのを見てわたしは頬を舐めた。
「リール・・」
「にゃーーーーーー」
わたしは長めに鳴く。伝えたいことを伝えるために。
女の子がわたしの元に来てから一週間が経った。例の女の子は一日置いて来てくれていた。
「リール。嬉しいことがあったんだ!聞いて聞いて」
「にゃ(聞いてるよ)」
「大好きなあの子と同じクラスになった!」
いつの間にか受験生になっていた。
「にゃあ(よかったね)」
「リールのおかげだよ!ありがとう。」
「にゃあぁぁ(ふふ〜。もっと褒め称え。)」
それから三ヶ月が経った日。女の子が作り笑顔をわたしに向けながら
「これで・・よかったのかなぁ」
と寂しそうに呟いた。
「にゃ!なぁにゃ(何!今更。)」
「・・・・」
「にゃにゃ(決めたのはお前)」
怒っていると伝えるために爪を見せる。
「そうだよね。・・手伝ってくれたリールは怒るよね。」
「にゃなぁ、にゃ(そうだ!そうだ!もう行きなさい。あなたの行くべきところに)」
手であっちだと示す。
「リールには感謝してる。」
そう言って、女の子は最初の時みたいにわたしを抱っこした。そして匂いを嗅ぐ。
満足したのかわたしを元の場所に戻す・・のではなく・・後ろから近づいてくる人物に「この子ならなんでも聞いてくれるよ」と喋りかけた。後ろの人物は「本当?」と返す。
「本当。私、悩み聞いて貰ったの。」
「じゃ、私も聞いてもらう。」
顔は陰っていて見えない。でも声が確かに男だ。
男は女の子からわたしをもらい、「聞いてね」と一言言ってどこかに行ってしまった。わたしは急に離されてもんだから地面にうまく着地出来なかった。女の子だけがその場にいて、わたしがさっき指した方向を見ている。
「じゃあ、行くね。リール。僕は逝く。さっきのこの話ちゃんと聞いてあげてね。」
そう言って女の子は私を通り過ぎた。
男は全然、顔を見せない。見せたと思っても何も言わないで、ただただ時間を潰すだけ。
一年が経った。男が顔を見せに来て久々に声を発した。
「リールドアルトリア。私には大嫌いな女がいる。」
そうわたしに言う。わたしはこの時、全てを理解し、感じた。
わたしは人間にとって、いてはならないのだと。
わたしは・・全てを感じ、全てを理解した。
わたしがいたら、人が死んでいく。
死にたくないと願う人
死んだ人を追いかけてしまう人
不幸な事故で死んでしまった人
何も出来なかったと悔いてその人のために生き、寿命で死んでしまった人。
大好きな彼と大嫌いだけど大好きな彼女。
見られたくないから・・見ないことしていた。
人間は酷く儚い生き物なんだなぁ・・・
わたしは向こうには進めない。
わたしはこの道を見るために生まれた。
わたしは・・わたしは・・
わたしは死を知らない
知らないといけないのに・・わたしは・・知らないのだ・・知らないと
『お前は・・何も考えなくていい。ただ、その道を見てればいい・・人の話を聞いて、進むべき人を通せばいい。この前みたいなこと、もうしないからな。一生のお願いは一生だけだ。我には二回目以降は通じないからな。』
きっと神様。神様がわたしに言う。わたしにこの神様しかいない。
この神様に従うしかない。それがわたしの使命であり、生きがいなのだから
続かない道 綾瑪 東暢 @ayame-touno
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