プロローグにて早々に明かされる異世界ファンタジー名物「ゴブリン」や「長虫(ワーム)」と呼ばれるモンスターに関する独自の解釈が面白く、人間が本名とは別に仇名を使いたがる理由や「言葉」というものの本質を種族間の交流により紐解いていく描写が随所に散りばめられていて、テンプレート化された昨今の新鮮味に欠けたファンタジー作品とは一線を画す、真新しい世界観だと素直に驚きました。
人間社会において当たり前とされている「常識」というものを、ファンタジー世界で織り成される冒険譚を通じて問い直す。今を生きる現代人こそ読むべき、珠玉の逸品だと感服致しました。
他方で、ファンタジーを苦手とする読者の目線から、いくつか意見を述べさせて頂きたいです。
・時代設定もとい、その世界の文化レベルが分かり難い
ファンタジーものに時代設定という表現は適切でないかと思いますが、人類以外にも多数の種族が登場する作品の性質上、各種族にどのようなパワーバランスが存在し、どのような歴史的背景があり、どのような関係性が構築され、どの程度の文化レベルなのか、細かいところまで気になってしまいますね。
例えば作中にて「魔女」と呼ばれる所謂一般的な人型と思しき女性が登場しますが、これはゴブリン目線による比喩的な、あるいは便宜的な呼称としての「魔女」なのか、それとも本当に魔力を操ることができるが故の「魔女」なのか。序盤で説明されたゴブリンについての設定や彼女自身が「魔女」を自称していることなどから察するに、おそらくは後者であるかと推察しますが、この辺はより詳しい描写があると作品全体に臨場感が増すと思います。
・地の文と主人公「骨ピ」の心理描写の温度差
「喋る生き物共どもの中で最も弱い生き物すなわち人間たち」という文があり、ゴブリンという種族側から人間は見下されているような感じが伝わってくる一方で、主人公「骨ピ」は種族にかかわらず、一貫して多様性に寛容な態度を示しています。ここは主人公「骨ピ」の非凡さを表すため、敢えてそのような矛盾が演出されているのだという解釈もできるため、個人的には素晴らしいと感じましたが、見る人によっては違和感の種となりうるかもしれません。解釈が間違っていれば申し訳ないです。
「ファンタジーが苦手だって? じゃあ見なきゃ良いじゃん!」と言われてしまいそうですが、そんな僕ですら興味を引かれ、思わず手に取ってしまった良作だったということを伝えたいのです。短編として既に完成度がとても高く、これ以上は求めすぎであることは重々承知の上、もし今後、長編化の構想などございましたら是非とも参考程度にと思い、一読者としての意見を添えておこうと考えた次第です。
ありきたりな王道ファンタジーに飽きを感じている方などは、是非一度読んでみることをお勧めしたい作品だと思いました……! それと同時に、僕自身、忘れた頃にもう一度読み返したいと思える作品に出会えたこと、嬉しく思います。傑作をどうもありがとうございました!