空を飛んだ動物たち 🌞

上月くるを

空を飛んだ動物たち 🌞





 そのころ、わたし、生後三か月ぐらいだったのよ、超小型の馬、そう、ポニー。

 かあさんからちょっと離れたところで、ひとりであそんでいたの、山の牧場の。


 そしたら、東からピューと風が吹いて来て、西からもヒューと風が吹いて来て。

 なぜか、わたしのタテガミのうえで、押し合いっこを始めたの、両方の風がね。


 でも、ピとヒでは、どう見たって、ピのほうが強いでしょう、東の風が勝ってね。

 あっという間にわたし、空へ吹き上げられていたの、なにしろ、ちびっこだから。


「あれ~っ!!」と叫んだつもりだったけど、かあさんには聞こえなかったみたい。

 文字どおりの天馬だね? ううん、サラブレッドでないと天馬にはなれないのよ。


 

 

       🐎




 でね、それだけじゃなかったの、東の風っちゃあヤンチャで通っているでしょう。

 途中の牧場から、牛やら羊やら豚やら山羊やら、兎やら栗鼠りすやらも巻き上げたの。


 みんなで一列になって西の空へ吹かれて行くところを想像してみてよ。(´艸`*)

 それで気まぐれ東風がいきなり吹くのをやめたもので、ポンと放り出されたのよ。


 どこだったと思う? 柵もない断崖絶壁がいきなり海面になだれこんでいる牧場。

 海なんて見たことなかったけど、空のように青く波が立っていたから分かったの。

 

 おまえがぼんやりタテガミを貸したせいだとみんなに責められたけど、どうしようもないじゃない? まあまあと宥めながら、あらためて海を見てびっくりしたわよ。


 金平糖をばら撒いたみたいな島がいっぱい海面に浮かんでキラキラ光っているの。

 あんなところへ置いていかれなくてよかった、みんなで慰め合って仲直りしたの。




      🌅




 で、不慣れな空の旅でお腹が空いたから、とりあえず草を食べることにしたのよ。

 そしたら、茜色の夕やけの向こうから夕立が来てね、斜めの雨粒のきれいなこと。


 見とれていたら、急に西の風が吹いて来て、みんないっせいに巻き上げられたの。

 あれ~っ!! 牛と羊と豚と山羊と兎と栗鼠と、もちろん、わたしも叫んだわよ。


 すとん!! 気づいたら、かあさんのいる山の牧場におろされていたというわけ。

 ふしぎなことに、かあさん、わたしが旅に出ていたことを、知らなかったみたい。


 そして、二歳になったいまも、こうして平穏に山の牧場で暮らしているんだけど。

 あの空の旅ってなんだったのかな? 夢じゃないことはタテガミが知っているよ。




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