エピローグ
試験が終わり、放課後。
リオンは中庭にある大きな木の下に立っていた。
遠くの空がオレンジ色に染まって、夕食を報せる鐘の音が鳴り響く。
鐘の音が静まり、近くから誰かの足音が聞こえた。
リオンがそちらの方へ振り向く。
「待たせちゃってすみません」
「いや、いいよ。それより来てくれてありがとね、セシリアさん」
リオンの前に現れたのは桃色の髪に桃色の瞳をした可憐な少女──セシリア・ウィングだ。
しかし今の彼女の頭には包帯が巻かれていて、少々痛々しい見た目をしていた。
リオンが申し訳なさそうに目を伏せる。
「怪我の具合はどう?」
「お陰様でなんということはありませんよ。先生からも明日には治ると言われました。ですからリオーネさんが気に病むことはありません!」
「……そっか」
「はい!」
リオンが微笑むと、セシリアは満面の笑みを返す。
それから彼女はリオンの手を優しく取った。
「キィラさんや、サナさんに聞きました。試験で一位だったんですよね。おめでとうございます!」
「セシリアさん達のパーティも二位だったじゃん。凄いよ」
「いえ、リオーネさん達はあの黒いライオンさんを倒しての一位ですから、リオーネさん達の方が…………あ」
そこまで言って、セシリアは口を塞いだ。
どうやら自分の失言に気づいたようだ。
リオンは試験終了後、教師達に囲まれて質問攻めにされた。
もちろんその理由は男除けの結界が男を感知した件についてだ。
そこでリオンとウノは口裏を合わせ、『黒獅子に襲われていた所に突如男の魔法使いが現れて、あっという間にモンスターを倒してどこかに消えた』という嘘の証言をした。
もちろんその真実はリオンとウノだけの秘密で、その時気絶をしていたセシリアには黒獅子を倒したのがリオンだと知る術はひとつもないのだ。
だと言うのに彼女がその事を知っているということは──。
「……キミはあの時起きていたのか?」
「あの、その……ごめんなさい」
「……てことはオレの正体も知っちゃったわけか」
リオンの言葉にセシリアは無言で頷いた。
少しの沈黙。
リオンが小さく息を吐き、「セシリア」と彼女の名前を呼んだ。
セシリアの肩がピクっと動く。
それを見て、彼女がリオンとウノの会話も聞いていた事に気がついた。
つまり、彼女には全てバレてしまったということだ。
リオン正体も、彼の心の内側も。
「セシリア、聞いて欲しい事があるんだ」
「……はい」
リオンが言うと、セシリアが緊張した声で返事を返す。
リオンは再び息を吐いた。
大きく、大きく深呼吸。
その短い時間がリオンの中の桃色の感情を増幅させる。
そしてついに気持ちは溢れた。
「キミが好きだ。オレの恋人になって欲しい」
静かで広大な中庭に小さく響いたその言葉。
それはどんな桜色よりも鮮烈で、眩しかった。
夕日が照りつける静寂。
揺れる木漏れ日。
木陰から吹いた春風が桃色の髪を靡かせる。
頬を染めたセシリアは優しく微笑んで、リオンの耳元で囁いた。
まるで世界一美しい魔法のような一言を。
(終)
──────────────────────
本作をお読み頂きありがとうございます。
こちらの作品は新人賞用に書き上げたものです。
よってお話は以上で完結となります。
ここまで読んで頂き、応援してくれた読者様に心より感謝を申し上げます。
皆様のおかげで本作は無事に完結を迎えることが出来ました。
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魔女になる♂── 好きな女子が魔法女学校に入学したので変身魔法で女になる ハルマサ @harumasa123
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