第31話 純白と帰還


「リオン、リオン! 起きなさい!!」

「…………ん、んぁ?」


 誰かに呼ばれ、リオンは重い瞼を持ち上げた。

 すると目の前には目尻に涙を浮かべたウノの顔があった。

 目覚めたリオンを見て、彼女がぐっと唇を噛む。

 それを見てリオンがニヤリと笑った。


「……なに泣いてんだよ……オレがこんな事で死ぬと……思ったのか?」

「別に、泣いてないわよ。それと私が魔力を分け与えなかったらアナタ死んでたんだからね。感謝しなさいよ」

「はは、そりゃあ助かったぁ……」


 先程から妙に体がだるいと思っていたが、どうやら魔力欠乏症を起こしていたようだ。

 思い返せば黒獅子との先頭の前にもモンスターと戦って魔法を乱発していたし、いくらポーションを飲んだとは言え、やはり焔魔法の魔力消費は尋常じゃなかった。

 その分強力なのだが、使う場面は見極めなければならないようだ。

 尤も魔法を使う時に男にならないといけないためアスモディアの敷地内じゃどの道使う機会がないのだが。


「ってやべ! オレ男のままじゃねぇか!!」

「アナタねぇ、今更気づいたの? まぁまだ先生たちも来てないし、今のうちに女になった方がいいわよ」

「おう!」


 自分が男になったまま気絶した事に気づいたリオンはウノの助言を受け、【変形魔法】で女になった。

 その際に魔力がごっそり持っていかれ、もう一度気絶しそうになったが、何とか持ちこたえた。


「あぁ、こりゃあ早く帰って休まねぇとな」

「そうね。そろそろ試験も終わりみたいだから」


 ウノは首に下げた懐中時計をリオンに見せる。

 その時計によれば試験終了までの時間は残り三十分と言ったところだ。

 それまでにダンジョンから出なければ遅刻した時間分ポイントをマイナスされるため、そろそろ出口へ向かわないと間に合わないだろう。


「ところで黒獅子はどうなった?」

「アナタのおかげで無事討伐したわよ。魔石も回収できたし、上に戻ったら先生に報告しなくちゃならないわ」

「あ、あの……オレの事は……」

「もちろん黙ってるわよ。まぁ、結界のせいでここに男がいる事は既に伝わっているでしょうけど、それがアナタだって事までは知られていないと思うわ。だから一応安心しなさい」

「……そっか」


 セシリアやウノを守るためとは言え、アスモディアの敷地内で男になったのは失敗だっただろうか。

 そう考え、リオンは直ぐにかぶりを振った。

 仮に男だとバレて退学になったとしても想い人と友達を守れたのだから後悔はない。

 彼にとっての最悪は誰も守れず自分一人生還することだったのだから。

 これは最良の結果に違いない。


「しかし、ウノには悪いことをしたな」

「え? どうして?」

「だって黒獅子と戦ったせいでホワイトウィッチを集める時間が無くなったじゃねぇか」

「あぁ、その事ね。それなら心配いらないわ」

「……?」


 ウノはふふんと自慢げに鼻を鳴らすと、自らのポーチからあるものを取り出した。

 それを見てリオンがあまりの驚きで尻もちをついた。


「お、おま……それ『純白のホワイトウィッチ』じゃねぇか!! そんなものをいつの間に!?」

「アナタが気絶した後で見つけたのよ。黒獅子なんて強力なモンスターが馬鹿みたいに魔力を垂れ流して戦ってたしホワイトウィッチの一つや二つあるだろうと思って探したら……」

「それがあったのか?」


 リオンの質問にウノが頷く。それから彼女は優しく微笑んだ。


「アナタの行動は契約違反だけど、結果的に最高級のホワイトウィッチも見つけられたし……今回は見逃してあげるわ」

「お、マジか」

「でも! 次からは私をトップ十にするのが最優先。次点でアナタの恋よ。分かった?」

「おす!!」

「……ほんとに分かってるのかしら」


 リオンの返事を受けて、ウノはため息を吐いた。

 それから顔を見合わせた二人が同時に吹き出した。

 しばらくの間静かな洞窟内には二人の笑い声が木霊した。

 そしてひとしきり笑った二人は、フォルトナとセシリアの二人を連れてダンジョンの出口へと向かった。


「……」


 セシリアを背に担いだリオンは、その温もりを守れたことを改めて誇らしく思ったのだった。

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