䛏濘

最初は別の女を連れ込んでるなと思ったんです。私が急に行こうとすると基本ダメで、迷惑だ、やめてくれとまで言われたこともあります。でも同棲したいとも言っていて、いやどっちだよ、って。例えばめちゃくちゃこだわりが強くて、もしくは潔癖症とかで、家に人を入れたくないタイプの人だとしたら分かります。私にもその気持ちは少し分かるので。ただ彼は普段から外出中に靴の裏とか平気で触るし、床に置いた荷物も食卓の上に置けるような人だったので、まずその線はありえないなって。だとしたら別の女かな、って。私に急に来られると色々と見られたくないものとかがあるんだろうなと、そう考えてました。

あの日は初めてのお泊まりデートの日だったかな。予定を組んで家に行く分には大丈夫らしかったんですけど、私、わざと予定より2時間くらい早く彼の家に行ったんです。早く行って、彼の身の潔白を確かめたかったんです。したら彼、すごい怒っちゃって。こういうの嫌だって言ったじゃん、って。男の人にあんな剣幕で怒られたことがなくて、私も思わず怒鳴りかえしちゃって。それで何分かワーワー言いあった後に、彼、急にしゅんってして謝ってくれて。そして、理解できなくてもいいんならいいよって言って家に上げてくれたんです。そこには他の女性の影なんてなくて、代わりに、廊下からリビングからとにかく泥まみれで、部屋中が下水の匂いで充満してました。そこで私は完全にフリーズしちゃって。そしたら彼が「一応拭けば落ちるからさ、あと3時間かあれば終わるから、近くのカフェにでも行って時間潰しといて。」って言って足元にあったバケツから雑巾を取り出して壁を拭きはじめて。私、そこで、ありえないほど気持ち悪くなっちゃって、彼の家を飛び出してそのまま自宅に帰っちゃったんです。部屋が汚い泥だらけなのもそうなんですけど、それに慣れてる彼と、それを隠して今まで私と付き合ってたって事実に吐きそうで、とにかく彼との関わりを断ちたくて、駅のホームで連絡先消して、LINEも何もかも全部ブロックしました。それから1ヶ月後のことでした。

















気管支も泥でいっぱいだったらしいですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

擱筆記 井蛙 @8220113

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ