第1話
その瞬間眩い光と共に現れたのは、一本の黄金の剣だった。
「それは…」
白神が呆然としつつ、驚きのあまり声を発した。
「剣ゲットだ!」
状況をよく理解していない鳴石は、武器を手に入れた喜びを身体全体で表現した。頬は緩まり、白い歯が見える。
その姿をただ立ち尽くして眺めていた白神は、あることに気づいた。鳴石が手にしてた剣は、伝記でしか見たことの無い、幻の剣だった。
「(でもこれは、洞窟でモンスターを倒した者にしか手に入れられない、剣じゃないのか?なんで洞窟に入っていないこいつが、その剣を手にしている?なぜだ?)」
白神は、困惑した。話と違う、こんな事があってたまるか。きっとこいつはずるをしたに違いない、そう確信した白神は鳴石が剣を眺めているのを横目に、突然走り出し鳴石に斬りかかった。
「なんだよ!おい!」
鳴石は驚きと同時に、怒りの感情を表した。普段大人しい鳴石が、声を荒げる事は珍しい。勇者を目指す、正々堂々が座右の銘である鳴石にとって、あってはならない事だったからだ。
「不意打ちとは卑怯じゃないか。」
「なにを言っている、最初に卑怯な事をしたのはお前じゃないか。」
「あ?誰が卑怯な真似するかよ!俺はこの日にかけてきたんだ。」
「そのお前が手にしている剣はな、この洞窟の最後のモンスター、いわゆるラスボスを倒さないと、手にできないモノなんだよ。洞窟は、俺が修行を終えた三年前に、全面封鎖された。それと同時にその剣は封印された。」
「えっ?!」
「(封印ってなんだよ?そんなの俺は知らないぞ。)」鳴石は自問自答を重ねながから、白神の言葉に耳を傾けた。
「だからその剣はな、決して手に入れる事なんか出来っこないんだよ。それなのになぜお前が、持ってる?盗んだ以外考えられないだろう?武器もない雑魚のお前に、手に入れられるはずなんか、ないからな。」
そう言って白神は、睨みつけたまま鳴石に近づいた。鳴石は、何が起きてるか理解できずに、反論できないままでいた。
鳴石には、自分の力の仕組みはもちろん、この町の勇者の洞窟の事も、勇者の事も何も知らない。知らないのも当然だ。知る術がないのだから知り用がない。
黙ったまま俯く鳴石に嫌気がさしたのか、白神は「帰る」とだけ発し、その場を立ち去った。
「ゴコゴゴゴ…」
その時だ、辺り一面に地鳴りが響いた。洞窟の正面側の壁は粉々に砕け、鳴石と白神の間に、大きな地割れができた。
二人を隔てるようにできた空間。その上、地面から千メートルほど上の空中に人が浮かんでた。
「お久しぶりです、おぼっちゃま。」
「えっと、どこから触れたらいいか…。」
突如目の前に現れたのは、無精髭でボロボロの鎧を身につけ、腰に剣を刺している、おじさんだった。
「大きくなられましたね。最後に会ったのは、確か百年前でした。」
「人違いではありませんか?僕はまだ十三歳ですよ。」
「いえ、間違いありません。その赤い髪の毛、赤い瞳、そしてその顔立ち。間違いありません。私が探していた勇者様です。」
「何言ってるんですか?こいつは、ほんの少し前まで剣すら持っていなかったんですよ?」
「そうですよ。それに探してるってどう言う意味ですか?」
そんなわけない、このお方がこんな奴を探してるはずなんかないんだ。怒りを抑え、聞き返した白神の内心は穏やかではない。
そんな白神を前に、鳴石も同意を示す。
「ずっと探してた。私と同じ能力を持つ者を。その者に、私の全てを捧げる為に。」
「伝説の勇者様が、何を言われてるんですか?」
「伝説の勇者…?」
「(伝説の勇者ってどう言う事だよ!)」混乱と同時に、胸の高鳴りを感じていた。
「そうですね。かつてそう呼ばれていたのは事実。ですが、そろそろ後継を育てようと思いまして。」
「後継?それに相応しいのが僕だと…。」
「そうです。」
「まだまだ現役で戦えるはずです!なぜ後継何か。僕はあなたに憧れて、勇者になろうと思ったんです。なのに何で…。」
「気持ちはわかりますが、時間がないので、急ぎますよ。」
時間がない。俺もそうだ。ここで逃したら、チャンスはもう来ない行くしかないよな。
互いに視線を横に移す。視線が交わった時、決意は覚悟に変わっていった。
「君達がここに来るのは、予めわかっていたので、服は用意してあります。これに着替えて。」
昔の勇者が来ていたような、綿の白いズボンに、原色のシャツ、肩掛けカバンは色褪せたキャメル色だ。こんなの今来て友達と会ってしまったら、一瞬にしてファッションセンス皆無の烙印を押される。
「服?」
「ダサい…」
「文句は言わない。これに着替えないと、冒険は始められません。」
「どう言う事ですか?」
「単なる雰囲気を出す為の物です。」
「はあ」
「コスプレかい。」
白神が呆れたようにつっこむ。鳴石はというと、これから始まる冒険に胸を躍らせていた。
「さあ行くよ。」
伝説の勇者の掛け声と共に二人が立ち上がる。
「はい!」
「うっす!」
「パチン」
伝説の勇者が指を鳴らすと、一瞬にしてゲームの中で見た商人の町に、ワープした。
「ここは始まりの町、イニティウム。別名試練の町だ。」
「試練の町?」
「この町から次の町に行ける確率は僅か、1/2だからな。」
「えっ?」
「ちなみにこの、アルファ空間から出られる確率は1/10以下だ。」
「生きて帰れる気がしない。」
「大丈夫だよ、一月。ここでの死は現実の死じゃないから。あははははは。」
「(こいつ、頭大丈夫か?)」
白神は狂い始め、急にタメ口になり、馴れ馴れしく下の呼び名で呼び始めた。そんな白神を見て、鳴石は怯え始めた。彼の頭がおかしくなるのも、その空間にいれば、理解したくなくても理解してしまう。
何せ、その空間は狂気に満ち溢れているのだから。
壁に頭を打ち続ける奴に、雄叫びをあげ続ける奴、そこら辺に人だった者が転がり、化け物になりかけた奴等が群れをなしている。そんな惨状を目の当たりにして、頭がおかしくならない奴なんていない。
そう、ここは始まりの町と同時に“終わりの町“でもある。
ここ「イニティウム」は、出発地点と同時に終発地点、いわゆるゴールの役割も果たしている。それが故に、五つの町全てに行き、出発地点へと再び戻って来たクリア者もやってくる。クリアと同時に勇者になる資格を与えられるが、当然のように「勇者になりきれなかった者」も存在する。
かつて人だった者達や、化け物になりかけた者達だ。
人々はそれを、モーンストルムと呼ぶ。
「この冒険の説明をしてませんでしたね。」
伝説の勇者は、丁寧に説明し始めた。このアルファ空間には、イニティウムを中心とし、正方形の形に四つの町がある事、行く順番が決められており、順番通りに行かないと死んでしまう事、町と町の間や、町の出入り口にモンスターがいて、それを倒さないと先に進めない事。大方説明し尽くした後に、念を押すようにこう言った。
「ここから先に進んでしまったら、後戻りはできない。一度形が変わった者は、二度と戻らない」と
しかし鳴石には、その言葉の意味がよく理解できなかった。この冒険で死ぬ事はない。それなのに、なぜ「形が変わった者は戻らない」のか。だが、伝説の勇者は、「理解できなくて大丈夫です。」と言った。薄ら笑いを浮かべながら。
それからこうも言った。
「私の名前は、黒闇生死です。職業は伝説の勇者です。」
指を鳴らすと変わる世界 赤髪 爽良 @Akagami_Sora
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