毎日小説No.14 ホラー好きとマッチング!
五月雨前線
1話完結
『端長さんはもう集合場所に着きましたか?』
僕のスマホにメッセージが届いた。間髪入れずにメッセージを返す。
『ついさっき着きました!』
『はやーい! 私ももうすぐ着きます〜』
急がずゆっくり来てください、と打ち、僕は息を吐いた。緊張する。もうすぐマッチングアプリで知り合った女性と初対面するからだ。
僕の名前は端長怪斗。大学3年性。出会いのなさに絶望した僕は、就活そっちのけでマッチングアプリで彼女作りに精を出し、仲良くなった女性との初デートにこぎつけたのだった。相手の名前は後藤幽香、同じく大学3年性だ。怖い話やホラー映画が大好き、というのが2人の共通点だった。
「こんばんは〜! 端長怪斗さんですよね? 遅れてすいません〜!」
数分後、後藤が待ち合わせ場所に到着した。挨拶もそこそこに、僕は思わず後藤の容姿に見入ってしまった。純国のワンピースに黒いスニーカー、日本人形のように整った顔立ちと真っ黒なロングヘアー。全身黒を纏う美女の美しさに見惚れていた。こんなに可愛くてスタイルもいいのに、何故マッチングアプリを使っているんだろう、という疑問が一瞬頭をよぎった。
「いえいえ、全然大丈夫ですよ。服、よく似合ってますね」
「ありがとうございます〜!」
その後僕達は予約していたレストランに向かい、楽しく夕食をとった。ちなみに、ランチではなくディナーで、というのが後藤の希望だった。普通初デートはランチが定石なのだが、好みや趣向は人によって様々だ。僕は快くディナーの提案を受け入れたのだった。
思いの他会話が弾んだ。特に、好きなホラー映画の話はかなり盛り上がった。やはり趣向が共通していると会話がしやすい。これはいけるかもしれない、と期待感が膨らんでいく。
「ご飯、美味しかったですね」
「はい! すごく美味しかったです!」
「じゃあ、夜も遅いことですし、帰りましょうか」
「あ! えっと、その、もし端長さんがよければ行きたい場所があるんですが……。お時間大丈夫ですか?」
後藤からの思わぬ提案に少しだけ戸惑ったが、僕は首を縦に振った。
「も、勿論です! どこでも行きましょう!」
「わーありがとうございます! きっと端長さんが喜んでくれる場所だと思うので、是非行きましょう!」
そう言うと後藤は僕の手をとり、ずんずんと歩き始めた。
こんな夜中に、女性と手、繋いじゃってるよ……!
僕の心臓は爆発寸前だ。そんな僕の心情など知る由もない後藤が、「そういえば、こんな話知っていますか?」と話しかけてきた。
「マッチングアプリについての怪談話なんですけど」
「マッチングアプリ? 知らないですね、聞かせてもらえますか?」
「はい。ある時、意地悪でずる賢い幽霊がいました。幽霊はマッチングアプリの存在を知り、そして閃きました」
後藤の歩く速度は思ったよりも速い。僕達2人は住宅街を抜け、山道の中を歩いていた。深夜の山はかなり不気味だ。
「人間のふりをしてマッチングアプリを使えば、騙された男が私に会いに来るのではないか。そして、会いに来た馬鹿な人間を人気のない場所まで誘導すれば、その人間を殺して魂を吸い取ってもバレないのではないか、と」
「はああ……」
「それ以降、幽霊はその方法で多くの人間の魂を奪いましたとさ。おしまい」
「な、なんか今の状況と似ていて怖いですね……」
後藤は口角を吊り上げ、僕をじっと見つめている。
沈黙。そこで僕はようやく後藤の言葉の真意、そして今自分が置かれている状況について理解した。僕は後藤を突き飛ばし、叫び声をあげながら山道を駆け下った。しかし後藤は人間離れしたスピードで追跡し、僕はあっという間に捕まってしまった。
「多くの人間の魂を奪いました、って言ったでしょ? 貴方はもう私の餌なのよ」
近くに転がっていた石を拾い上げた後藤は、その石を僕の頭に何度も振り下ろした。意識が混濁する。視界が狭窄する。最後に見えたのは、「いただきます」と言って狂気的に笑う後藤の姿だった。
***
『次のニュースです。1ヶ月前に行方不明となり、捜索願が出されていた端長怪斗さん(21)が、東京都郊外の山奥の中で遺体で発見されました。遺体の頭部には鈍器のようなもので殴られた痕が複数残されており、奇妙なことに被害者は老衰を迎えた老人のように異常に痩せ細っていました。警察は殺人事件とみて捜査を進めていますが、遺体の状態が非常に特異的であることから、捜査は難航する見通しです……』
完
毎日小説No.14 ホラー好きとマッチング! 五月雨前線 @am3160
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