二回戦:チャージエンショット⑥

 二回戦、『チャージエンショット』は、ゲーム開始時からは予想もつかない決着に辿り着いた。

 結果は、羽村さんとさっちゃんとあさひさんの三人が脱落。

 次ゲームへと進んだのは、ぼくと、天月さんの二人だけだった。


 つまり決勝は、ぼくと天月さんの一対一となる。


「…………はぁ。うちは攻撃されるし、うちの攻撃は通らんかったし、散々やな。負けや負け!」

 長い沈黙をあさひさんが破る。

「鈴也、あんたは絶対最後ガードすると思ったわ。今回はチキらんと攻撃できたな。いい動きやったで」

「…………」

 いい動き、か。

 しかしぼくはその言葉にいまいち喜びを覚えなかった。


 さっちゃんがあさひさんを撃ったのも、きっとと思ったからだろう。

 天月さんがぼくを撃ち、ぼくはそれをガードする。

 そしてあさひさんが天月さんを、さっちゃんがあさひさんを撃てば、決勝へ進むのはぼくとさっちゃんの二人だけだった。


 ぼくはその読みを裏切ってしまったのだ。


 そのせいで、決勝戦はぼくと天月さんが戦うことになる。


「すずくん」

 さっちゃんがぼくの席へと駆け寄ってきて、座っているぼくの頭を胸に抱きよせた。

「すずくん、ごめんね、ごめんね、一緒に次のゲームへ進めなくて。でも、最後引かずに攻撃したのは、凄かった。びっくりした」

「…………なんで」

 さっちゃんは、あさひさんと同じことを言った。

「なんで! なんで二人とも、怒らないんだよ。なんで二人とも、ぼくが想定外の動きをしたせいで負けたのに、何も言わないんだよ!」

 ぼくが叫ぶと、あさひさんは怪訝そうな顔をする。

「あ? 何を言うてんねん」

 そのまま彼女はぼくの顔を覗き込み、息を吐いた。

「うちはあんたの動きを読み違えた。そんで負けた、ただの敗者や。敗者に利く口なんてあらへん」

「…………」

「それにな、鈴也。お前は十分強いぞ。変なやつに運だけで負けてたらなんか思うかもしれんが、お前に負けたんなら、文句はない」

「そうだよ、すずくん」

 あさひさんの言葉を引き取ったさっちゃんは、ぼくの両目を見て、言った。


 ――――君は今、初めて、わたしの読みを上回った。

 

 すずくん。今の君なら、天月にだって勝てるよ。


 ぼくが呆然としている間に、唇を奪われる。

 軽いキス。

 そして、重い言葉。

 いまのぼくなら、天月さんに、勝てる。


「二回戦、お疲れさまでした!」

 マイクを持った天月さんが言い、全員が彼の方を見る。

「一回戦に続いて、想像より人が脱落したセットでしたね。久野さん。次が決勝戦となりますが、ここまでいかがでしょうか」

「ひとつだけ聞かせて」

「ふふ、なんでしょう」

「どうして、最終セットの一つ前、?」

「…………」

 正直に言うと、最終セットの結果が出た今、予想はできていた。

 しかしぼくはそれを信じたくなくて、疑問をぶつける。

「ああ。そのことですか。それは、この結果を見ればわかりませんか?」

「……」


んです。その結果が、四人の状態から一気に二人脱落して、私とあなただけが生き残るという状況に繋がった。最終セットで大塚さんを撃ったのも、、久野さん。このメンツなら、あなたと戦い、あなたを負かすのが、一番面白そうだ」


 その言葉は予想していたもので、それでいて、しんどい言葉だった。

 

 ぼくはいまから、彼にサシで勝利しなければならないんだ。

 それは果てしなく高いハードルに思えた。


 ――――しかし、ぼくは顔を上げる。

 今のぼくは二つの言葉に支えられていた。


 さっきのさっちゃんの言葉。

 「今の君なら、天月にだって勝てるよ。」


 そして、いつかヒナミの爺さんに言われた言葉。

 「強者に人生の合計点数で勝つのは難しいかもしれない。でも、その一瞬だけ、勝敗を分ける瞬間だけなら、いくらでも勝ちようはある。」


 ぼくが天月さんと百回ゲームをして、勝ち越すことは相当難しいだろう。

 でも、次のゲーム。

 その一回だけ勝つことは――決して不可能ではない――――!


「もう夜も遅い。頭が働いているうちに、最終戦をしてしまいたいのですが、久野さんはいかがですか?」

 時計を見ると、日付が回るところだった。

 確かに、ここで下手に休憩を挟んでしまうとよくない気がする。


 ぼくの持っている熱が、引いていってしまうような気が。


「このまま、やりましょう」

「承知しました。それでは大塚さんと三上さんには、退場をしてもらいましょう」

「……」


 あさひさんの方を見る。

「はっ! 鈴也、いい目になっとるわ。お前、成長したな。せや、この船を降りたらうちとガチでゲームしようや」

「……ははっ、あさひさん、最後までそれなんですね」

「当たり前や。うちはあんたのことが好きや。あ、いや、待て、沙鳥ちゃん睨まんといて。ちゃうねん。人として、な」

「ありがとうございます」

「そんなあんたのことを、うちはもっと知りたい。もっと仲良うなりたい。そのためには、真剣勝負をするのが一番手っ取り早いからな」

 ぼくは頭を下げて、さっちゃんの方を見る。


 さっちゃんは目を擦って、言った。

「無理、しないでね」

「うん」

「命とか、今後に響くようなものとか、賭けないでね」

「……善処する」

「…………勝って」

「任せて」

 そして二人は、部屋の外へと出ていった。


「では、久野さん。決勝戦を行いましょう」

「……はい」

 ぼくと天月さんは、大きめのテーブルに向かい合って座る。

 そのテーブルの真ん中には、三十センチ程度の衝立が立っていて、お互いの顔は見えるが手元は見えないようになっていた。

 天月さんが立ち上がって、両手を広げる。

「私たちが今から行う決勝戦は」


 それが今宵最後の、ぼくたちの命運を決めるゲーム。

 アイを復活させ、願いを叶えるための、最後のゲーム。


「『釘ゲーム』」

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