二回戦:チャージエンショット⑤
チャージエンショット、五セット目。
考えろ、考えろ。
ぼくは自分に言い聞かせる。ひとつ前も、更に前もぼくは完全に天月さんの掌の上で踊らされているんだ。
そんなぼくが、このターンにやるべきことはなんだ?
さっちゃんと羽村さんはチャージがゼロなので、チャージかガードしかない。
あさひさんと天月さんはまだショットを撃てる状態だ。
あさひさんの性格からして、もう一回天月さんを攻撃しに行く可能性はとても高い。
では天月さんは?
本命は、あさひさんからの攻撃をケアするために、彼女に向かってショットを撃つこと。このゲームのショットは相殺する。
対抗として、一回はチャージしないと攻撃に転じられないさっちゃんを撃つ。
大きくはこの二パターンだろう。
だったらぼくは――――羽村さんを撃つか。
羽村さんは敗北しても失うものがなく、今はチャージがゼロなので、高確率でチャージをしてくるはずだ。
そこを狙って、とりあえずひとり脱落させる。
しかしこの作戦を取ると、ぼくのチャージが残りゼロとなってしまう。
最終局面に差し掛かろうとしている今の時点で、それはかなり痛い。
チャージか、ショット。
ぼくは数秒迷った挙げ句、『チャージ』を選択した。
この時、天月さんは全く違う最終局面を思い描いていたことにぼくは気が付いていなかった。
「全員の選択が終了致しました。それでは大塚様から順に開示します」
さっちゃんの選択した手は『チャージ』だった。
ライフに余裕のある彼女は、最悪ここで撃たれても溜めたほうがメリットがあると判断したのだろう。
そして、次の天月さんの選択に、ぼくは驚愕した。
彼の選んだ手は『ショット』
対象は――――羽村さん!
「えっ? なんで。そこは仲間じゃ……!」
ぼくの口から疑問が漏れる。
羽村さんは天月さんの傀儡だ。それなのにこの局面で味方を減らす意味とは、なんだ?
羽村さんの選択肢は『チャージ』だった。
「確認したところ、他に羽村様へショットを撃っている方がおりませんので、天月様から羽村様へのショット成功です」
進行の女性が告げる。
「どう……して?」
天月さんは「ふふ」と笑うだけだった。
これで羽村さんは脱落だ。
しかし次の瞬間、ぼくはさらなる衝撃を味わうこととなる。
あさひさんが開示した手は、ショット。
その対象は――――!
「ごめんな、沙鳥ちゃん。でも、あんたの警戒の外からあんたを撃てるのは、今この瞬間だけやってん」
――――さっちゃん。
さっちゃんの目が大きく見開かれる。
被弾覚悟でチャージしたとは言え、それはあくまで天月さんからの被弾想定だ。
ぼくたちはいつの間にか完全に手を組んだものだと思っていたので、彼女のその選択を読むことができなかった。
「あさひさん! なんで」
「すまんなぁ鈴也。でもな、沙鳥ちゃんは負けても失うものないやろ。せやったら、決勝に残る三人はうちと鈴也とそこの羽村がええわ」
「なん……で」
「それやったら、うちが勝ちやすいからな。あんねん、叶えたい願いが」
ぼくは机を強く叩いた。
それは、ぼくなら勝てると思われたことに対する怒りか、さっちゃんを撃たれたことに対する怒りか。
「けど沙鳥ちゃんは残りライフがひとつになった瞬間、たぶんうちのことも警戒し直す。全方向の手を読み切る。やから、うちが攻撃できるんはここが最終地点やった。まあ、羽村が脱落したせいでその決勝戦は実現せんくなったんやけどな」
あさひさんが話し終えたのを見て、進行がまとめる。
「確認したところ、他に大塚様へショットを撃っている方がおりませんので、三上様から大塚様へのショット成功です」
ぼくのチャージは通り、第五セットが終了した。
「羽村様、脱落でございます」というアナウンスとともに、羽村さんを拘束していたベルトが外れて、彼女は自由になった。
そのまま引きずられるようにして別室へと連れて行かれる。
「それでは第六セットに移ります。自身の手を選択して下さい」
残り四人、全員ライフはひとつ、チャージもひとつ。
――――サドンデスが、はじまる。
さて、とぼくは考える。
認めよう。ぼくは、劣っている。
この五セットで、ぼくはそれをいやというほど実感してきた。
天月さんのような視野の広さも、さっちゃんのような読みも、あさひさんのような度胸もぼくにはない。
あるのはせいぜい、この三人に混ざってもゲームを壊さない程度の知力と、ほんの少しの経験くらいだ。経験もこの三人に比べたら劣っているだろう。
人生はそんなものの連続だ。
小学校で一番野球がうまかった子も。
中学校で一番絵がうまかった子も。
高校で一番面白かった子も。
ひとつ広いステージに上がるたびに、自分より上の人間を見つけて、そのたびに心を折ってきただろう。
世界を探せばあさひさんよりも度胸のある人なんて腐るほどいるだろうし、現在世界トップの人だって、過去未来に存在するすべての人類と比較すれば、きっと一番ではない。
上には上がいる。
何かで一番になんてなれない。
それでも。
それでも今この瞬間、この一分間だけ、全員の思考を上回れ。
ぼくは人差し指を立てて、目を閉じた。
全員ライフもチャージもひとつずつ。
ぼくはもちろん、天月さんを落としたい。
そして、天月さんはぼくを攻撃する可能性が高い。
天月さん視点でこのゲーム、一番面白くないのは羽村さんとさっちゃんの脱落だ。この二人はこのゲームに何も賭けていない。つまり、ノーリスクでの敗退となる。
きっと彼は、ぼくかあさひさんに脱落してほしいはず。
しかし今あさひさんを撃つのは悪手だ。彼女は今ぼくとさっちゃん両名のヘイトを買っている。
攻撃が被れば無効になるこのゲームでそれはメリットにすらなる。
では天月さんがぼくを撃つのはどうだろう?
さっちゃんがぼくを攻撃する可能性はゼロ。
また、あさひさんがぼくを攻撃する可能性も限りなく低い。
なぜなら彼女は既に、次のゲームを見越しているから。
あさひさんにとってぼくは格下で、ぼくが次のゲームにあがるほうが彼女としてはアドバンテージだ。
つまり、彼がぼくを落とすためには天月さん自身がぼくを撃つしか無い。
そしてその可能性は――――高い。
それに対してぼくの取るべき行動は、ガードか、天月さんへのショット。
読みはここまで。ここからは、自分を信じてどちらかの可能性にオールインするだけだ。
だからぼくは。
天月さんへ『ショット』を撃つことにした。
「全員の選択が終了致しました。それでは天月様から順に開示します」
その言葉と共にディスプレイへと表示された彼の手は。
さっちゃんへの『ショット』だった。
「なん……!」
「えっ」
「なんやと?」
天月さん以外の三人が驚愕の声をあげる。
三人とも、負けてもリスクのないさっちゃんへの攻撃はない、と踏んでいたのだろう。
「……そっか。じゃあわたしはここまでかな」
そして、公開されたさっちゃんの手は、あさひさんへの『ショット』だった。
「他に大塚様へショットを撃っている方がおりませんので、天月様から大塚様へのショット成功です。大塚様は、ライフがゼロとなりましたので、脱落」
がちゃん、と、さっちゃんを拘束していたベルトが外れる。
さっちゃんは上を見上げて、口元をぎゅっと強く結んだ。
――――さっちゃんが、負けた。
あのさっちゃんが、ここで脱落した。
これでぼくが次のゲームへとコマを進めたとしても、そこに味方はいない。
「うちへの攻撃か。それはちょっとやばいなあ」
あさひさんが力なく笑う。
開示されたあさひさんの手は、天月さんへの『ショット』だった。
それは、ぼくの選択と全く同じだった。
複数から攻撃をもらうと攻撃が無効になる。
そのルールにのっとって、ぼくの手も開示され、天月さんへの攻撃は無効となった。
「大塚様から三上様へのショット成功です。三上様は、ライフがゼロとなりましたので、脱落。また、天月様への三上様、久野様両名の攻撃は無効となり、天月様はライフが減りません」
進行の女性が告げる。
「大塚様と三上様が脱落し、生存者が三名以下となりましたので、ゲーム終了となります」
ゲームが、終わる。
二回戦 『チャージエンショット』
勝者・天月亥介、久野鈴也
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