謎ののじゃロリを問い詰めよう①

「すずくん、大丈夫?」

「どわぁ」

 ぼうっとしていたら、目の前に突然綺麗な顔が飛び込んできた。

「びっくりしたぁ。突然美少女が顔の前に現れると心臓止まりそうになるね」

「さながら、池に放り込まれた斧の気分っていうところかな?」

「斧視点だと、突然美しい女神さまが現れることになるのか。その視点に立ったことなかったよ」

 寓話の無機物に感情移入したことある人、この世に存在するの?

「で、大丈夫なの?」

「うん。ちょっと昔を思い出してぼうっとしてた」

 こたつの温度を少しだけ下げる。

 いま、ぼくとさっちゃんはこたつの同じ辺に肩を並べて座っていて、その対面位置に、謎の少女を座らせている。それは就職活動の面接のようだった。

 

 いや、まだやったことないんだけど。


 ぼくは気を取り直して、この突然現れた少女にぶつける質問を考える。

 そうだな、最初に聞くことは。


「ぼくたちは君のことを、なんて呼んだらいい?」

 人間関係において、相手の名前を呼ぶという行為はかなり重要なファクターになり得る。人は名前を呼ばれるだけで好意を感じ、好意を感じた人間に対しては好意を返したくなる、という心理的な現象があるのだ。

 もちろん例外はあるけどね。

 だから「君が好き」というよりも「が好き」って言った方が好意も伝わりやすく、相手からも好きと言ってもらえる可能性が高まる。

 いまだにさっちゃんはぼくに好きと言ってくれないけど。

 ぼくがこのあたりの心理学を一通り勉強したのは、ヒナミの爺さんの影響とかでは全然なく、単純にさっちゃんから好きって言ってもらうためである。

「そうじゃな、ワシのことはと呼ぶがいい。こう見えてもワシはおぬしらよりずっと年上じゃからの」

「……」

 その容姿で?

 ぼくはさっちゃんと顔を見合わせる。

 さっちゃんはポーカーフェイスを気取っているのか、あまり驚きが顔に出ていなかった。

 さっきのみかんゲームの時から思っていたけれど、やっぱり肝の座った女性である。好きだなあ。


 質問を続ける。

「ということは、アイは人間じゃないんだね」

「アイさんと呼んでほしいのじゃ……」

「じゃあアイちゃん」

「……アイでいいわい。その通り、ワシは人間ではないの。そもそもお主の知り合いに、突然ワープしてきたかのように部屋に現れて、不思議な力でギャンブルを取り仕切るような角の生えている人間はいるのかえ?」

 ぼくは首を横に振る。いるはずがなかった。

 そんな人間がいるのだとして、それはもはや人間としてカテゴライズしたくない。

「人間じゃないならなんなの? 悪魔? 神様?」

 そう聞くとアイは困ったような表情で首を傾げた。

「うーん、例えばお主がイルカの言葉を勉強して、イルカと会話ができるようになったとするじゃろ」

「難しい仮定だけど、うん」

「それでイルカに聞かれるんじゃ。あなたは猿ですか、と。そうしたらお主はなんて答える?」

「猿じゃない。ぼくは人間だよって」

「ふむ。そうじゃろうな。でももし、お主が学んだイルカの言葉に人間という語彙がなかったらどうじゃ?」

「……つまり、人間の言葉にはアイを表す単語がないってことなんだね」

 アイは例えが伝わったことに満足したのか口角を上げて頷いた。こういうところだけ見ると普通の少女に見える。


 ……角生えてるけど。


「まあそれでもわかりにくかったら、ワシのことはギャンブルの神様とでも思ってくれればよかろう。お主が生まれるうんと前、まだお主ら人類が言葉を話していないころから存在している、超越的な存在とでも思っておくのじゃ。それじゃあもう他に聞きたいことはないかの」

 と面接タイムを打ち切ろうとするのでぼくは慌てて手を振る。面接を受ける側が勝手に終わらせに掛かるな。

「聞きたいことは死ぬほどある。アイはどこから来たのか、アイの目的は何なのか、アイの言う、賭け事の強制清算は本当なのか」

「有名な絵画みたいだね」

「さっちゃんうるさいよ!」


 賭けの

 みかんゲームの時は、さっちゃんに負けた敗北感からアイの能力のことなど忘れ、普通にリモコンを取りに行ってしまった。そのため必ず賭け事の清算がされる、という部分の真偽を確かめられなかったのだ。

「質問攻めじゃの。まあいいゲームを見せてもらったしひとつずつ答えていってやるわい」

 やれやれ、という声が聞こえてきそうな腹の立つ表情でアイは両手を広げた。

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