1-12

「あの……じゃあ、僕のことは『ルカ』と呼んでもらえませんか?」


「ルカ?」


「はい、アデライードお嬢さまの祝福名は『ルカエラ』でしょう?」


 アデライード・ルカエラ・リズ・ローゼンダール。

 貴族はほとんどがミドルネームを持っている。貴族の子は生まれるとすぐに神殿で祝福を受ける。ミドルネームはその際に賜るものらしい。アデライードの場合はアデライードが両親がつけた名前、ルカエラが神殿から賜った名前だ。


「『ルカエラ』の短縮形で男性形でもある『ルカ』と呼んでもらえると……」


 それだと、アデライードを呼ぶのと同時に、アデライードの中の男性の僕を呼んでいることにもなるんじゃないかと……。

 僕らの世界でも、ルカは本来男性の名前だしな。日本では響きの綺麗さから女性の名前のように思われているけれど。


「ルカ、ですか……」


 クロードは小さく呟いて――それからギラリと僕をにらみつけた。


「待ちなさい。貴様は男なのですか?」


 あ。


 ヤベぇ……。思いっきり『僕』って言ってたからすでにバレてるもんだとばかり思ってたけど、もしかして英語の『I』みたいに性別を感じさせない一人称に翻訳されてたのかな? うわぁ! マジか! 失敗したぁ!


「は、はい……。すみません……じ、実は……そうなんで……」


「おい、冗談は存在だけにしておけ」


 か、勝手に僕の存在を冗談にするなよ!


 そりゃ、ゲームのキャラクターに転生したのか憑依したのか、とにかくこの状況は冗談みたいなものだけど!

 それでも僕は――って言うか僕こそが、ちゃんと実在する人間なんだからな!


「お、お嬢さまの身体に、粗野で野蛮で下種で愚劣な男が入っていると!? そんなことが許されていいのか!?」


 クロードがあり得ないとばかりに頭を抱える。

 そ、粗野で野蛮で下種で愚劣って……めちゃくちゃ言うなぁ、お前も男のクセに。


 いや、でも気持ちはわかる。本人(僕)ですら犯罪だって思うしな。


「いや、あの……ええと……」 


「やはり貴様は排除すべきモノと判断しました」


 さっきよりもすさまじい殺意を滾らせて、クロードが多節鞭を構える。


 えええっ!? そ、そう来る!?


「ま、待て! 落ち着け! 美味しいお茶淹れるから! それ飲んで、一旦落ち着こう! な?」


「問答無用っ!」


 ものすごい速さで多節鞭が唸り、物を薙ぎ払い、打ち壊す。


「わ、わぁああっ!」


 僕はリナの手を引いて、パントリーを飛び出した。




 

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