膨らんだ夢
柳葉 ひなた
第1話
シトシト降り続く雨。鼠色にくすんだ空が世界を自分の色に染めながらゆっくりと侵食している。凛はこんな日が嫌いだった。言葉には上手く言い表せないが人々のやる気を掻っ攫ってしまう。そのような天気などこの世に存在するべきではないと思っていた。ずっと晴れていれば世界はもっと明るくなるのにと…。
中学生になった凛は登校途中にスミレの蕾が膨らんでいる事に気がついた。
もうすぐ花開きそうな新しい生命に心を躍らせながら学校に向かった凛だったが帰る頃にはその気持ちは一変していた。
下校中。その日もまた雨だった。凛は今朝見たスミレが心配になり急いでスミレの生えていた場所に向かった。案の定、スミレの蕾はまだ開いておらず冷たい雨に打たれていた。凛は益々雨が嫌いになった。
どれほど下を向いていたのだろうか。心配した老婆が凛に声を掛けてきた。そして、スミレをじっと見つめている凛を見て老婆は何かを悟ったかのように言った。
「もしかして雨のせいでスミレの花が咲かないと思っているのかしら?そうだとしたらそれは間違いだわ。いい?厳しい環境に晒された植物ほど立派で逞しく育つものなの。砂漠にあるサボテンだって綺麗な花を咲かせるのだから。」
老婆が話し終えると雲間から一筋の光がスミレに降り注いだ。それを合図に今まで世界を占領していた雲は散り散りになって大きな太陽と青空が顔を出した。凛がふとスミレの方を見ると碧く綺麗な花を咲かせたスミレが凛々しく太陽に向かって伸びていた。
空には大きな虹が凛たちを見守るように架かっていた。
膨らんだ夢 柳葉 ひなた @mochi-mochi-kinako
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