黄色いリュック 🎒

上月くるを

黄色いリュック 🎒





 むすめほどの年齢の人は、駅に出迎えたヨウコさんに丁重に名刺を渡してくれた。

 リュックと呼ぶには躊躇ためらうほど小さくて愛らしい、黄色いバッグを背負っている。


 おろし立ての新品であること、とても大事にしていることがひと目で見て取れた。

 それはすなわち、組織から任された企画への並々ならぬ意気ごみを物語っている。




      🏙️




 二度目にお会いしたのはトークイベントの当日で、場所は東京都心の某高層ビル。

 慣れぬ役目に緊張していたが、彼女の細やかな気配りのおかげで無事に終了した。


 それからお会いすることはなかったが、折りに触れて長文のメールをくださった。

 事業解散で毀誉褒貶に晒されたときも、静かに見守ってくださるおひとりだった。




      🍃




 そんな彼女から思いもよらないご厚情を、いまごろになっていただこうとは……。

 解散騒動による心身症が収まると、表社会にはいっさい出ない隠遁生活に入った。


 一部の気心の知れた旧友たちと会うときも、彼ら彼女らの活動の聞き役に徹した。

 「あなたの近況は?」と訊かれても「わたしは仙女だから(笑)」で通して来た。


 けれど、長年の積み重ねがもったいないと、そうっと引き出してくださるという。

 地方とちがって不特定多数が相手だから大丈夫という暗黙のご高配も身に沁みた。




      🧘‍♀️




 そんな感慨にひたりながら、マット代わりの長座布団(笑)でヨガをしていると、「新一年生に向けて無償でリュックの配布が検討されています」とテレビが報じる。


 なぜか小学生に必需と思いこんで(こまされて)来たランドセルに代わって、行政が希望者に軽くて丈夫なリュックを無料配布するという画期的なニュース。(*''ω''*)


 新入学の孫へのプレゼントが祖父母の楽しみという側面はあるものの、いろいろな事情の子どもに当たり前の配慮ができなかった自分を含める社会の不見識を恥じた。




      🚆




 担当企画を丸ごと詰めこんで大切に特急に乗せて来ました……持ち主の学芸員さんに代わってそう言いたげだった小ぶりのリュックの、あざやかな黄色がよみがえる。


 ご厚情のかたまりのようなお申し越しに、甘えさせていただく時期が来たのかな。

 もし、ほんの少しでも未来社会に貢献できたら仙女(笑)冥利に尽きるだろうし。




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