第2話 勘違いできる程の自信はない

名前を呼ばれてなお、俺は反応できずにいた。


というか、意外過ぎる人物が来たせいで思考停止状態に陥っていた。



上野原凛子うえのはらりんこ


我が『逢湖おうこ高等学校こうとうがっこう』2年を代表する有名人である。



十人が十人、口を揃えて美少女だと認めるが、大きく愛らしいはずの瞳は、勝気に吊り上がっており、男勝りな口調と相まって、気が強い印象を与える。


性格も男勝りでサバサバしているらしく、金髪のくせっ毛を石楠花しゃくなげを模したリボンで無造作に纏めたポニーテールがトレードマークとなっている。


誰であれ分け隔てなく接する美少女として全学年の男子からの人気は高いが、サバサバしている故に『恋愛に興味なさそう』、男勝りな口調や性格故に『気が強い』という印象から告白を躊躇ためらう者で溢れ、ある意味『高嶺の花』状態であった。



そんな彼女だ。


俺への告白ではない事は明確であり、イタズラや罰ゲームという線も彼女の性格・評判から考えづらい。


では何故上野原さんは俺を呼んだ?


1年の時も今も違うクラスだし、学校内外とも接点は今まで一度もなかったのに。



「いつまで黙ってんだよ。やっぱ怒ってんだろ?」



ほんの少しだけ潤みを帯びた彼女の声で、フリーズしていた俺の思考が引き戻された。



「ご、ごめん!驚き過ぎて。まさかあのメモを書いた人が上野原さんだったなんて予想してなくて・・・」


慌てて弁明する。


正直、俺の対女性スキルはゼロなので、彼女がどんな状態か分からないし、取り繕う話術も宥める余裕もない。


俺にできる事は、正直に、そして、率直な感想を伝える事だけだった。



「だって滝城の連絡知らねーし、直接は・・・私だって緊張するしな」


「っ!」



怒っていない事、驚いただけである事を伝えると、上野原さんも安心したように息を吐き、イタズラっぽく、僅かにはにかみながら呟いた。


その仕草にドキリとしたが、それで勘違いできる程、自分の容姿などに自信を持っていないので、曖昧な相槌を打つに留まった。



「それで、上野原さんは何で俺をここに?」


ほどよく緊張が抜けた俺は、率直な疑問を投げかける。



「そりゃ、大事な話があるからだ」


逆に上野原は緊張を帯びた声で答えた。



「あ、あのな滝城ぉ・・・」


「う、うん?」


緊張と、少しだけ甘い声。


先程までの男勝りの口調からのギャップに当てられクラクラする。


・・・


い、いやいやいや自惚れるな。


そんな展開有り得ない。


勘違いするな。



「私の・・・になってくれ」


消え入りそうな声と、自分の心臓が早鐘を打つ音で、大事な部分が聞きとれなかった。



勘違いするな。


・・・いや、本当に勘違いなのか?


本当の本当は勘違いでなくて、本物なのでは?


勘違いじゃないのか?



「ごめん、さっきの大事な部分が聞こえなくて。できればもう一度教えて欲しい」


意識するともう駄目だ。


俺は再び緊張を帯びながら、確認をとる。


上野原さんは恥ずかしそうに、しかし、はっきりと頷き、可愛い口を開けた。


僅か数秒がもどかしい。


勘違いでないという事はつまりそういう事で、つまり上野原さんと俺は今後、そうなる可能性が高いという事で。


期待と緊張で脳がバグる中、いよいよ上野原さんが言い直す。



「私の・・・『使い魔』になってくれ」


「・・・はい?」



俺は再び思考停止状態に陥った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

姐さんギャルの使い魔 いぬがさき @inugasaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ