補足

後書き(1)プロットについて

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 作者として作品に対して思うところは、作品ページとは別の場で語るべきではあるのですが、本作に関しては連続した形で目にしていただきたく、あえて後書きとして設けることにしました。


 実は作者自身は、主要登場人物の一人であるナンシーの扱いについて、忸怩たる思いを持っています。十分描き込むことができなかったこと、そしてあのような結末にしてしまったこと。

 なぜそれが問題なのかというと、フィクションにおけるLGBTQ+の扱われ方として過去によくあったものとあまり変わらないからです。


 数年前のニュースサイトかブログで見かけた記事でソースを明記できず恐縮ですが、「ハリウッド映画やTVドラマの中で登場した性的マイノリティが悲劇的な結末を迎えるケースは異性愛者よりも格段に多い」というデータがありました。主役に据えてもハッピーエンドになることはなかなかない。

 しかし、そのような作品を若いLGBTQ+たちが見たらどのような影響を受けるでしょうか? 自分の存在を肯定的に受け止めることを難しくさせてしまうおそれがあります。そのためか、近年ではむしろポジティブな結末を迎える作品の紹介記事が積極的に発信されています。


 そういった背景が分かっているのに、本作は丸く収まる結末にすることができず、見ようによっては感動ポルノの道具として扱うだけになってしまい、自分の構成力不足や易きに流れる発想力を痛感しています。


 なぜこうなったのかの原因は、二つあります。


 そもそもこの作品は、ビビアンというキャラクターにハッピーエンドをもたらすために書かれました。物語序盤では、本人がまだ自覚してない(認めていない)もののガチの百合キャラであることが匂わされていました。そうなるとゴールインする相手も当然女の子であるべきなのですが…


 ビビアンのベストパートナーとなるのはどのような女の子なのか、イメージしきれなかった。それが一つ目の原因です。強いて言えばやはりティモシーのようなキャラクターが似合っていますが、でもティモシーは男の子です。彼とは違った個性でビビアンを強く惹きつける女子とは何ぞや。そしてこの世界観(諸事情によりこの物語は異世界の設定です)で最後までうまくやっていけるのか。

 もし考えつくことができていたら、ティモシーには泣いてもらって女子二人でのハッピーエンドにできたことでしょう。語り手も最初から最後までビビアンのみで固定です。


 ですが、そうはならなかった。その上ティモシーと馬が合いすぎた。それでティモシーを相手にしたハッピーエンドを目指すことになりました。これが二つ目の原因です。

 百合キャラっぽかったビビアンには、紆余曲折を経た上でティモシーを選んで欲しい。そうすると女性遍歴もできてきますが、相手役の女性には退場してもらわなければなりません。女性側から望んで離脱する――例えばナンシーは舞台女優と付き合うことにするとか――は穏便ですが地味でした。とは言え三人仲良く、なんてミラクルな展開を考え付けるほどの腕前はないですし、結局安易な手を使ってしまいました。


 言い訳になりますが、あくまで「ビビアンとティモシーの物語」としてゴールが決まっていたために、どうやったらまともなオチがつくのかと試行錯誤した結果が現状の形です。初期のプロットでは、腹黒と強欲のカップルということから、騙し合いで丁々発止、睦まじそうな仮面の下には不信が満ちている…というような夫婦になるメリバエンドめいたものでした。それをどうにか、秘密をなくしてビターエンドに引き上げるのが精一杯だったのです。


 強調しておきたいのは、ナンシーがあの結末を迎えたのは、彼女が同性愛者だからではなく、不倫を犯した罰だからでもなく、ただ作品世界における医療技術と運による偶然でしかないということです。

 また、作劇的には今どきではない展開だしスタンダードであるべきでもないと思っています。


 本作の中では、ナンシーの視点から彼女の胸中が語られることはありませんでした。それもまた、「あくまでビビアンとティモシーの物語である」がゆえです。せめて片鱗だけでもと遺稿集という形で出してみましたが、この境地に至るまではどれだけ悩みや苦労があったかは、やっぱり察するしかありません。


 なおヒロインの後半の言動は共感されないだろうなと思っていますが、それでよろしいです。(むしろ読者が善良なら共感してはいけないまであるやも)

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