第11話
「ん?」
ペナードさんに呼び出され酒場で待っていると男女の2人組が入店してくる。
「お前が新入りか」
「………どうも」
席を立ち会釈する。確か男の方は【アグマ・ブェス】という名だった筈だ。大男を思わせる大柄な体格に背中に背負った大剣。竜狩の一族の末裔だとか。
そして男とは対照的に、はっきり言って女児の様な体格の少女。小柄だがセネアさん同様、彼女もまた人間にはあり得ない特徴がある。
捩れ曲がったツノに白い鱗で覆われたトカゲのような尻尾。そして、小さく折りたたまれ服の一部と同化している翼。
「(ドラゴン、か)」
竜殺しと竜の二人組。中々に不思議な組み合わせだ。
「影に足手纏いは要らねぇ。お前が使えるやつか俺がテストしてやるよ」
そう言ってアグマは背中の大剣を握るとこちらに向けて突きつける。
「何のつもりですか」
「何のつもり?」
まるで爆発が起きたかの様な衝撃波にギルドから弾き出される。
「チッ……」
「どこの誰だか知らねーガキに背中預けられるわけねぇだろぉがよ」
少女の方は俺に対して特に興味がなさそうだが男からは明らかな敵意を感じる。
「(大怪我では済みそうにないな……)」
それに、腐っても俺は剣聖の息子だ。勝てるかどうかはわからないが、だからってこのままやられるのは
「面白く無い」
鞘に納めたままの剣に、手を添える。
「お望みとあらば、我が月の剣、とくと御覧あれ」
勝てずとも腕の一本は頂戴する。男は俺の姿を見てニヤリと笑う。
「ハッ、少しは骨がありそうだな。おもしれぇ」
そう一歩踏み込んだその時、今までアクションを起こさなかった少女がアグマの腕を掴む。
「アグマ」
「んだよミカ、こっからがおもしれぇんだ。すっこんでろ」
「違う、アグマ。あいつに近づいたらダメ」
「はぁ〜?」
ドンッ、と再び爆発の様な衝撃波が炸裂する。
「ますますおもしれぇ!」
圧倒的で純粋なパワー。正面からはまず勝ち目はないが、もとより相手の土俵で戦う気はない。
振り下ろされた剣を体をずらして避け、刀の柄で殴りつける。横からの衝撃で軌道をずらした剣はそのまま俺の真横の地面に突き刺さる。
剣を殴った勢いのまま体を捻り、横っ面に蹴りをお見舞いする。
「うおっ!?」
「チッ」
なんて反射神経、油断を狙った一撃だったが避けられた。しかし
「(胴がガラ空きだ)」
勢いのまま回転し、刀で薙ぎ払う。身を捩ってガードしようとしているが浅い。そのまま真っ二つに
「そこまでだ、2人とも」
斬撃を何処からともなく現れた刀に防がれ、それと同時に黒いコートが目に映る。
「セネア、さん……?」
全く無駄のない動きに圧倒され、唖然とする。しかもセネアさんは俺が気づかなかった"大剣を囮にしたアグマの投げナイフ"を素手で掴んでいた。
「(これが影の、セネアさんの実力か……)」
ハイデン・ソード-暗い月の復讐の刃- 九六式 @KuroitiS
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