第12話


店員さんが開店を知らせてくれたので、俺たちはゲーセンに入った。



「あっ! 先輩あれです! あれ!」



未来が指さす先には目的のフィギュアがあった。とうぜん一番最初の客なのでなくなっていることも無く、しっかりとそこに並んでいた。



「よし! 俺が取ってやる!」



クレーンゲームなんてした事無いが、まぁ、ちょっと頑張れば取れるだろう。



「あっ、けど先輩。初心者がやると中々取れなくて…………。」


「大丈夫大丈夫。なんたって今回の為に俺は諭吉を持ってきたんだぞ? これだけ持ってきて取れないはずが無いだろ?」


「うーん。」



未来は釈然としない様子だが、構わず俺は諭吉さんを両替して百円玉に変える。


まずは100円からやってみよう。


俺は100円を投入し、アームを操作する。


狙いを定めてボタンを押し、ドンピシャの所にアームが落ちていった。


これで持ち上げてあのつっぱり棒の間を抜けさせる事が出来れば目の前の景品は手に入るという事だろう? 簡単じゃないか。


ドンピシャの所に落ちたアームはがっちりと箱を掴み取り、そして…………。



「はぁ!?」



…………箱は持ち上がること無くただアームが元の場所に戻っていっただけだった。



「も、もう1回!」



俺はもう100円を投入した。


そして、しっかりと箱のど真ん中を狙ってアームを操作する。


しかし、またもアームは箱を持ち上げることは出来なかった。


俺はやけになり、投入と失敗を繰り返した。


そして俺は気付いたのだ。


このゲームは景品を取らせる気がないと。



「未来。残念なお知らせだ。このクレーンゲームという物はダメだ。取らせる気が無いとしか思えない。」


「あーもう。違いますよ! 先輩が下手なだけです! ちょっと体借りますよ!」



そう言って未来は俺の体に入った。



「しっかり見ててくださいよ! こういうものにはコツってものがあるんですよ。これをこうやって…………。」




そして、未来は真ん中から外れたところにアームを操作した。


ミスってるじゃないか。



「ミスってませんよ! 見ててください!」



少し外れたところに降ろされたアームは片っぽの足しか箱に引っかからなかった。


こんなことしてなんの意味が…………。


そう思ったが、アームの動きを見ているとその考えは180度変わった。


箱が少しズレて横向きになり始めていたのだ。


そういう事か! こういう攻略法があったのか!


俺はびっくりしてそれを見ていた。


未来は少しづつずらしていき、ついにはフィギュアの箱を落とすことに成功してしまった。



「どうですか、この絶技! すごいでしょう! ふふふ、初心者の先輩には出来ない技ですよ!」


「あぁ。本当にすごい。未来はこんな事も出来たんだな。素直に尊敬するよ。」


「うっ、そこまで素直に褒められたら少し罪悪感が…………。まだ時間はありますし、もう少し遊んでいきますか?」


「あぁ。そうする事にしようか。」



次に2人で遊べそうな場所を探してみるが、2人用のレースゲームや音ゲーは完全にポルターガイストになるからできないし、プリクラはそもそも未来は映らないだろう。


あれ? やること無くね?



「…………帰りますか?」


「いや、けどせっかく来たしな…………。」


「実はなんだか私…………体調があまり良くないんですよ。少し休みたいので帰りませんか?」


「何だって!? 今すぐ帰るぞ!」



俺は未来を抱えようと思うが、すり抜けてしまう。



「あ、自分で歩きますよ…………物に触れるのも少し疲れるんですよね…………。」



明らかに未来の様子が変だ。


まさか…………消えたりしないよな?



「まぁ、ゆっくり歩いてくれ。無理だけはしない様にな!」


「ありがとうございます。ふふっ、やっぱり先輩は優しいですね。」



そうして俺と未来はゆっくりと帰って行った。




◇◇◇◇




電車を降りると、未来は少しだけ体調が良くなったようだ。


俺は大分安心して、肩の力が一気に抜ける感覚だった。


未来は本当に悲しそうな顔で俺に謝ってきた。



「ごめんなさい先輩、私のせいで…………。」


「あのなぁ、未来。別にお前が謝る事は無いんだよ。第一…………。」


「あれ…………凛斗先…………輩?」



誰だ?


未来と話していると、後ろから女子高生らしき人から話しかけられた。


未来に小声で知り合いか? と聞いてみるが、なんとも言えない顔をして何も返事をしてくれなかった。


まぁ、今は未来を休ませるのが先だ。


スルーして立ち去ろうとする。


しかし、その女子高生は必死な形相で俺の肩を掴んで来た。



「なに? 急いでいるから先に行かせてくれ。」



俺はその手を引き剥がそうとするが、それを拒むような力で押さえつけられ、そして、何故か俺にカッターを渡してきた。



「凛斗先輩! 私を殺してください!」


「はぁ!? なんで!?」


「だって…………だって…………!」



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厨二病の後輩が遂に本物になっちゃった件 黒飛清兎 @syotakon

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