第11話
初めての手料理という事で未来は張り切っていた。
実は未来はバレンタインの時には市販のチョコレートを渡してくれていた。
その時は私はチョコレートとか作らないと言っていたのだが、今になって聞いてみるとただ手作りを渡すのが恥ずかしかったから作ってはいたが渡せなかったらしい。
本当に尊いはこの子。
そんな未来は今せっせかとキッチンで料理を作ってくれていた。
俺はリビングで待たされているが、未来が料理を初めて早くも1分ほどでもうそわそわしてきた。
全国の高校生。いや、全男子の夢である好きな女の子の手料理だ。
待てるはずが無い。今まで俺は毎日好きな女の子の手料理を食べているリア充達に妬みの視線を向ける事しか出来なかった。
しかし、今は違う。
そうこうしているうちに未来が料理を運んでくる。
非リア共よ刮目せよ! これが全人類の夢、好きな女の子の手料理だ!
そうして出てきたのは一見普通そうなちゃんちゃん焼きだった。
俺は未来の顔とそのちゃんちゃん焼きを交互に見る。
「う、うまそおおお!!!!」
「ふっふっふー! まぁ、闇の女王である私に不可能など無いのですよ!」
こ、これが伝説の料理。好きな女の子の手料理なのか!?
す、凄まじい! こんなの、美味しいに決まってるじゃないか!
そのちゃんちゃん焼きは尋常ではないオーラを纏いながら、俺に早く食べろ! と訴えかけているようだった。
「さぁ、召し上がれ!」
「っ!? い、いただきます!!」
俺は一目散に食べ始めた。
「うっ、うますぎる!」
何だこの美味しさは! やばい。これはやばい。
なんて言えばいいのか分からない。
味付けは普通のちゃんちゃん焼きと同じなんだ。
使っている食材だって別に普通の価格のものだ。
特別時間をかけて作ったものでもない。
なのに、なんなんだこの美味さは!
今まで食べたどんな料理よりも美味い。
テレビ番組とかでリア充に1番好きな食べ物はなんですかと質問した時に彼女の手料理ですかねと言っていたやつを見てそんな訳ないだろと思っていたが、俺は今そいつに猛烈に謝罪したい。
これはどんな高級料理にも勝る美味しさだ!
「ふふ、先輩、可愛いですね。」
「可愛いのはお前だよ。」
「はにゃんっ!?」
うまい。うますぎる。手が止まらない。
俺は5分も経たずにその料理を平らげてしまった。
少し勿体ない気もするが、これはしょうが無いのだ。
「未来。これからも一生俺にご飯を作ってくれ。」
俺は切実にそう頼んだ。
「そんなの当たり前じゃ無いですか! これからずっと一緒に居るんですよ?」
「未来ー!」
俺は立っている未来に抱き着いた。
「もう、本当に先輩は困った人ですね。」
そう言って未来は俺の頭を撫でてくれた。
やば、これ病みつきになりそうだ。
そうしてその日は他愛のない話をして一日を終えた。
◇◇◇◇
「先輩! 起きてください!」
俺は未来のその声とともに目覚めた。
「んー? どうしたんだ?」
時計を見るとまだ6時半。
本当は眠いが、未来とイチャつけるならいいか。
そう思いながら頑張って意識を覚醒させていく。
「これを見てください!」
そう言って見せてきたのはアニメのフィギュアがクレーンゲームで出るというお知らせだった。
「これがどうかしたのか?」
「あの、この『ブラッククイーン〜逆賊のリリア〜』のフィギュアを今日取りに行きませんか? 私の大好きなアニメ…………いえ、私の前世の史実のフィギュアなんです! それが今日から始まるらしくて…………。」
「分かった。それを取りに行けばいいんだな?」
「っ! はい!」
未来はいつにも増して嬉しそうだ。
本当にこのアニメが好きなんだな。
俺の前ではあまりそう言う雰囲気を出したりはしていなかったのだが、多分未来設定の元ネタのようなものなのだろう。
「じゃあ、行きましょう! 今すぐ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 準備してからにしよう! と言うかまだ開いてないだろ!」
「けどっ! 早く並ばないと取れなくなっちゃいますよ!」
「…………分かった。すぐ準備する!」
俺は渋々起き上がり素早く着替える。
「先輩これ! サンドウィッチです!」
「マジか! ありがとう!」
まさかこんな報酬があるとは…………。
毎回この報酬があるんだったら俺は何処へでも何時でも行くに決まってる。
まぁ、未来の頼みなら報酬がなくても俺は行くけどな。
「先輩! 早くしないと無くなっちゃう! 早くしないと…………。」
未来は泣きそうな声で俺を急かしてくる。
「…………よし! 着替え終わった! 行くぞ!」
「うぅー! 先輩! 身体借りますよ! 先輩も走ってくださいね!」
「はっ!?」
そう言って未来は俺の体の中に入った。
どういうことだ?
とりあえず俺は走り出した。
しかし、体が思う様に動かず、走るのが遅くなってしまう。
「行きますよー!」
未来がそう言うと、突然体が動き始めた。
「何だこれ、速っ!」
俺はとんでもない速さで走り出していた。
「私と先輩が同時に走る事で限界を超えて走る事が出来るんですよ!」
すっ、凄い!
俺の時の走力と未来の走力がプラスされて物凄い速さとなっているのか!
その力を使って俺たちは物凄い速さで駅に着いた。
「ふぅ、一旦休みましょうか。」
電車に乗った俺たちは一旦休むことにした。
「いててててっ!」
未来が体から出た瞬間、身体中に激痛が走った。
「大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ。多分限界を超えた走りに体が着いていかなかったんだな…………。」
「ごっ、ごめんなさい! 私のせいで…………。」
「いや! 大丈夫だ! 未来のためならこの程度のこといくらでも出来るさ!」
「先輩!」
俺は電車の中で抱き合った。
しかし、汗でびちゃびちゃだった体に抱きつかれていることに気づき直ぐに引き離す。
「別に汗くらい良いのに…………。」
未来は残念そうにしていた。
そんな事をしているうちに俺たちは電車から降り、ゲーセンへと向かった。
「…………あのー、ごめんなさい。」
やはりゲーセンの前には誰も居なかった。
「いや、全然いいよ。未来のためなら何だってやるさ。」
そして、俺たちはゲーセンが始まる3時間弱を雑談しながら過ごした。
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