第21話 旅路のはじまり
あの子にはとても迷惑をかけてしまった。
「……満足していたつもりだったけれど、一つ手に入れたら次が欲しくなる。人間の性なのかな」
僕が望んだそれは彼女が手に入れていた。
他人事のようで、自分のことのようなそれには嫉妬も何も特に覚えなかった。あんなにも渇望していた自分の居場所は彼女によって確立された。
僕がいたことで、あの人の心残りで、そして、良い仲間たちによって、作られたそれはとても楽しそうだ。
『隼人!まだまだ手元が甘いな』
『んだとっ!もう一遍言ってみやがれ!』
『今の面は良いとこだったね!薫ちゃんの勝ち!』
『おいっ!もう一本だ!』
『いい加減になさい!大樹は連れて帰るわよ!』
大きな学び舎の道場に、僕が望んでいたものはそこに揃っていた。あの人にもお礼を言えて、もう心残りはない。
くつりと喉を鳴らして笑うと後ろから引っ叩かれた。
「何をするんです?」
「てめぇがいつまでも未練タラタラで女に現を抜かしてっからだろうが」
「土方さんにだけはそれを言われたくないなぁ」
「てめぇは、ったく。おら、行くぞ」
道場の一角、高い位置にある窓から差し込む光はとても暖かくて、明るかった。
「ねぇ、土方さん」
「あぁ?」
「僕は、赦されますか?」
鬼の土方を演じていたときのように、眉間に深いシワを寄せて苦々しそうに彼は舌打ちをした。
「俺が知るかよ。安心しろ、てめぇと俺の行くとこは一緒だ。せいぜい置いて行かれないように気をつけろ」
「あぁ、それなら問題ありませんね」
「どういうことだ?バカにしてんのか?」
「あなたは、遠くからでも目立ちますからねえ」
眉間に皺を寄せながら僕を睨みつける土方さんの後に続いて、陽だまりに足を踏み出した。
青の水鏡ーなんであんたも生まれ変わってんだよー 藤原遊人 @fujiwara
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