偽物の聖女が祈らないとこの国が大変なことになりますが、真の聖女がいるなら大丈夫ですね〜馬鹿王子たちの正体は◯◯です〜

佐佑左右

本編

「偽者の聖女リラ、お前には今日限りで聖女の任を降りてもらう!」


 なんて声高に宣言するのはこの国の王子ルーイだ。

 しかもその隣には、見慣れない妙齢の美女まで引き連れている。

 私の訝しげな視線に気づいたのか、勝ち誇った顔でルーイが更に続ける。


「この女性こそが真の聖女であるシズエだ、俺様は真の聖女である彼女と結婚する。ゆえにリラ、貴様とは婚約破棄だ!」


「ははぁそうですか、分かりました。寛大な処遇ありがとうございます殿下」


「な、なにぃ、その反応はなんだっ‼ この俺様と結婚できないんだぞ、分かっているのか⁉ そこはほら、『私を捨てないでー』と俺様に土下座して頼み込んでくるところだろうが!」


 いやなんで私が泣いてすがるとでも思っているのかこの馬鹿王子は。

 ただ聖女だからという理由だけで勝手に婚約を取り決めされて困ってたんだから、わざわざそれを反故にしてくれるなら喜んで受け入れるでしょ普通。


「……さて、私が偽の聖女ならもう祈りを捧げる必要もないでしょうか。でしたらこの国にかけた祈りの効果を解いてもよろしいですね」


「ふん、勝手にしろ。まあどうせ真の聖女であるシズエが祈りをかけ直せばいいだけだが、彼女の手を煩わせることもない。それを解いたらどこへなりとも行くがいい!」


 よかった、ごねられなくて。

 じゃあ遠慮なく祈りを解かせてもらいましょうか。


「! 王子、なりませんぞ、偽物とはいえ聖女の祈りを先に解かせては――」


 王子の側で控えていた宰相が慌てて忠告をするが、もう遅い。

 既に言質は取った。

 恨むならそこの馬鹿王子と、彼に残酷な真実を伝えなかった自分の愚かさを悔やむことね。


「では殿下、今まで色々とお世話になりました。これで私の祈りは終わりです――」


 私がそう言った瞬間、王城の中のあちこちから悲鳴が上がる。

 先程まで人間の姿を保っていた連中がこぞって化物へと変化していくからだ。


「お、おいリラ、何をした――ぐウォおォお!」


 ルーイもまた例外ではない。

 私にすがるような目つきで遠吠えを上げると、そのままナマコのような魔物に姿を変えた。


「ひいぃぃなにが起きてるのぉぉぉ」


 この場で純粋な人の形を保っているのは私と、それからシズエだけ。

 私は先輩聖女として、後輩である彼女に真実を伝えることにした。


「あら真の聖女なのに知らなかったの? この国は魔物の国、それを聖女の祈りの力で人間のフリをさせていただけ。……まったく馬鹿な王子ね、そのことも知らずに自分をまるで本物の人間だと思い込んでいたんだから。偽物なのはアンタらの方だってのに」


 私は顔を青くして小刻みに震えるシズエの肩を叩き、そっと耳打ちする。

 

「――これからは私の代わりに、真の聖女としてせいぜい頑張ってお祈りを捧げてね。彼らが再び魔物ではなくとして振る舞えるように」


                   (了)


__________


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