友人の嫉妬

さめしま はると

友人の嫉妬

昼を過ぎたサイゼリヤは、少し煩い西日が差し込んで空白の席が目立って見える。

目の前で喋っている男は僕の唯一といっていい友だちだ。僕の知らない友人の話をしている。中学からの親友で高校では成績のトップを譲らず、今は都内の大学院でロケット工学を学んでいるらしい。奇抜なエピソードを交えて親友の凄さ紹介しているつもりだが、ちゃっかりそいつとの仲の良さを僕にアピールしている。


多分嘘だろう。そんな親友はいないはずだ。

僕と同じで彼も僕以外友だちがいない。第一、僕は彼が僕以外と話しているのを見たことがない。架空ではあるが凄い友だちと仲がいいことを嫉妬してほしいのだ。なんでそんなことをするのか。僕らは他に友だちがいない。だからこの友人関係が崩れる訳にはいかないし、そのためには適度な距離を保つ必要がある。僕は彼を失いたくない。彼も僕を失っては生きられない。仲良くなり過ぎると友人関係は良い関係には戻らなくなる。彼は僕に妬んでもらうことで、近すぎる友人関係を少し遠くして安全なものしようとしているのだろう。


彼は話が終わり何かを待つようにこっちを見ている。

僕も架空の友人をつくり、彼に嫉妬してもらうことにしよう。


-


会計カウンターのベルを鳴らした男はブツブツとまだ何か独り言を言っている。入店からずっとあの様子だ。さすがにおかしい。脳は危険信号を出しているが、仕事なので仕方がない。億劫になりながら私はカウンターに向かった。

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友人の嫉妬 さめしま はると @sameshima_haruto

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