某案内人から
大きな講堂に集められた人々は指示を受けて適当に席につく。
100人近くいるだろうか。
それだけの人数が集まればざわざわと騒がしくもなりそうなものだが、知り合い同士で来る人間は少ないようで、人口密度の割には異様に静かだ。
「皆さん、こんにちは!この度は弊社のお仕事に応募いただき誠にありがとうございます!」
静寂を破ったのはこれまた異様なまでに明るい女性の声だった。
大衆の面前でにこやかに話をする彼女は募集をかけた会社のスタッフだろうか。
「それではこれより皆さんに今回のお仕事内容についてご説明させていただきます!お手元に紙とペンはございますね?めくっていただくといくつか質問事項がございますのでまずはそれらに回答ください!」
視線を落とすと確かに質問票のようなものがあった。
氏名、生年月日、住所、職業といった基本的な属性から、好きなもの、嫌いなもの、子供の頃の夢、現在の悩み、大切なものといった、カウンセラーが訊いてきそうな設問まである。
ここまで詳しく個人情報を書いていいものだろうか。
悩みながら個人が特定できそうな設問を後回しにしつつ記入していると、彼女が話を再開した。
「回答いただきながらでけっこうですのでお聞きください!みなさんは募集要項を見てこちらに足を運んでいただいた方々ですのですでにご存知かと思いますが、今回の報酬金額としてまず5万円をお支払いいたします!今回ご参加いただいた皆さん全員に漏れなくです!破格ですよね?とくに条件もなく参加するだけで5万円なんて大金を手にすることができるなんて!なにか怪しい裏バイトなんじゃないかって思いますよね?しかしご安心ください!手が後ろに回るような犯罪行為に加担いただくわけではございません!その証拠に、皆さんにはこの説明会が終了した後、普段の生活に戻っていただいてそれっきりです!特別なにかしていただくことはございません!さらに、もしももっと大金を手に入れたいという方には朗報です!ある条件を満たせば随時報奨金を獲得することができます!その条件とは、記憶を取り戻すことです!現在皆さんに記入いただいている回答のうち、いずれかの記憶を奪わせていただきます!さらにさらに、今回の説明会の一部始終の記憶も忘れることとなります!一度頭をリセットさせていただき、不公平なくよーいドンで一斉にスタートしましょう!全て思い出すことができたら晴れてゲームクリア!映えある名誉と大金はあなたの手に!ただし、余計なことの思い出しすぎには注意しましょう!脳が焼き切れてショートしちゃうみたいです!当然死にます!命は大切にしましょう!」
思い出したのは、ここまでだった。
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