第4話「用言六面相」

前回わかった通り、用言とは、自立語で、活用があるものを言いました。今回は、個々には立ち入らず、用言の共通してもつ、活用について一般的に確認しようと思います。


さて、用言に当てはまる品詞は三つありましたが、全て言えるでしょうか。


おそらく、現代語の類推からほとんどの人が言えるのではないでしょうか。そう、動詞、形容詞、形容動詞です。これらが共通して持つ特徴として、活用があることが挙げられます。具体的に活用というのはどのようなメカニズムであるかを今回は確認します。


活用というのは、用言の下につく言葉により、用言の語形が変化することです。この性質は現代語にも引き継がれていて、例えば、「書く」という現代語の動詞は、

未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形の6種類の変化が存在し、

書か  書い  書く  書く  書け  書け

書こ  書き

と変化します。


活用するときには変化するものとしないものがあります。活用することで変化するもの、先ほどの例では「か」「き」「く」「け」「こ」、を活用語尾、しないもの、先の例では「書」を語幹と言います。全ての用言は、語幹+活用語尾で形成されます。


ある語の、ある活用での語幹+活用語尾を、その語のその活用の活用形といって、例えば、「書い」は「書く」の連用形の活用形です。


また、活用の仕方には種類があります。例えば、上で挙げたような「書く」は五段活用

という活用をしますが、「老いる」は上一段活用という活用をします。


これらをまとめたものとして、用言の活用表というものがあります。活用表は次のようなものです。


基本形 語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形

書く  書  か、こ い、き く   く   け   け


ここからはそれぞれの語形がどのように使われるのかをみてみましょう。

・未然形

用言が特定の助動詞の上にある。

代表的な助動詞「ず」「む」

ex) 涙のこぼるるに目も見えず、ものも言はれず。(伊勢物語 六十二)

訳 涙が思わずこぼれるので、目も見えなくて、何も言えない。

ex) 行かむと思ひて、

訳 行こうと思って、


用言が特定の助詞の上にある。

代表的な助詞「で」「ば」

ex) 鬼ある所とも知らで(伊勢物語 二三 芥川)

訳 鬼のいる場所とは知らず、

ex) 世の中にたえて桜のなかりせば(古今集 春上・伊勢物語八二 作者は在原業平朝臣ありわらのなりひらあそん

訳 世の中に全く桜がなかったのならば


・連用形

連用修飾語になる。

ex) 上人感じて(徒然草 二三六)

訳 上人はとても感激して


文の途中で一旦終了させる。

ex) ほかにて酒など、酔ひて(大和物語 一二五)

訳 他の場所で酒などをお飲みになり、酔って


用言が特定の助動詞の上にある。

代表的な助動詞「けり」「つ」

ex) 今は昔、竹取の翁といふものけり。(竹取物語)

訳 もう昔のことだが、竹取の翁という人がいた。

ex) 秋田、なよ竹のかぐや姫とつ。(竹取物語)

訳 秋田は、なよ竹のかぐや姫と名付けた。


用言が特定の助詞の上にある。

代表的な助詞「て」

ex) 住むたちより

訳 住んでいる官舎から出て


・終止形

文を終了させる。

まいて雁などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いと(枕草子 春はあけぼの)

訳 いうまでもなく、雁などが連なっているのが、とても小さく見えるのはとても趣深い。


用言が特定の助動詞の上にある。

代表的な助動詞「べし」「らむ」

ex) 家の造りやうは、夏をむねとべし(徒然草 五五)

訳 家の造りは、夏を中心とするべきだ。

ex) むべ山風を嵐といふらむ(古今集 秋下)

訳 なるほど、だから山風を嵐と言うのだろう。


用言が特定の助詞の上にある。

代表的な助詞「と」「とも」

ex) 涙ともおぼえぬに、まくらうくばかりになりにけり(源氏物語 須磨)

訳 涙が落ちたとすら気づかず、枕が浮くほど泣いてしまった。

ex) 千年ちとせを過ぐすとも

訳 例え千年を過ごしたとしても


・連体形

連体修飾語になる。

ex) もの、瓜にかきたる児の顔。

訳 可愛らしいもの。瓜に描かれた子供の顔。


体言に準ずる。

ex) かれこれ、、送りす(土佐日記 一二・二一)

訳 誰それ、知っている人も知らない人も(我々の)見送りをする。


ぞ、なむ、や、かの係り結び

ex) もと光る竹なむ係助詞一筋あり。(竹取物語)

訳 なんと根本の光る竹が一本あった。


疑問、反語の結び。

ex) かかる道はいかでか疑問詞いま(伊勢物語 九)

訳 このような道にどうしていらっしゃるのですか。


用言が特定の助動詞の上にある。

助動詞「なり」「たり」のみ

ex) 富士の山はこの国なり(更級日記)

訳 富士の山はこの国にある。 


用言が特定の助詞の上にある。

代表的な助詞「が」「を」

ex) 粟津の松原へ駆け給ふが(平家物語 木曽の最期)

訳 粟津の松原へと馬を走らせなさるが

ex) 罷でなむとし給ふを(源氏物語 桐壺)

訳 退出しようとしなさるけれど


已然形

係助詞「こそ」の係り結び

ex) この女をこそ得め(伊勢物語 二三 芥川)

訳 この女を妻に欲しい


四段活用の動詞が存続と完了の助動詞「り」の上にある

ex) 道知れる人もいなくて(伊勢物語 九)

訳 道を知っている人もいなくて


用言が助詞「ば」「ど」「ども」の上にある。

ex) 命長ければ、恥多し(徒然草 七)

訳 人生が長ければ、恥も多い。

ex) 親のあはすれども、聞かでなむありける

訳 親が(他の男と)結婚させようとするが、聞き入れなかった


・命令形

命令の意味を付与する。

ex) 「夜更けぬ。帰り給ひね。」と言ひければ (大和物語 六十五)

「もう真夜中になってしまった、お帰りなさい。」と言ったので


(Aの未然形+ば+Aの命令形の形で)AならいっそAしてしまえ、Aすると言うならAしてももう良いなどと言う、放任や許容、諦めを表す。

ex) 波の底に沈まば沈め(平家物語 忠度都落)

訳 波の底にいっそ沈んでしまえ



次回から用言の活用の詳細な部分を学習しましょう。







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