第6話 僕は、冒険を異世界で行うことにした

 ロジャーは、コテージを収納して凜の手を引いて歩いてた。凜は、ロジャーに貰った短剣を腰に下げている。


 この森の浅い所には、森狼やゴブリン、一角ウサギなど比較的脅威度の低い魔物が多い。森狼は、その中では、群れで襲って来た時には、厄介な魔物だと言える。


 しかし、凜の隣を歩くロジャーにとっては、それくらいの魔物は、脅威すらならない。どちらかと言えば、肉や毛皮を提供してくれる素材といった感じだ。


「あそこにあるのが、薬草じゃ。ナイフを使って根元から採集するのじゃぞ。」


「分かった。」


 凜は、トコトコと指さされた植物の所に行き、ナイフを腰の鞘から抜いた。


「これだよね。」


「そう、それじゃ。根を残しておくのじゃぞ。近くにもっと生えていないか、しっかり見比べながら探してみんじゃ。葉の形、葉の付き方、葉の付き方は、横から見た時と上から見た時の特徴を覚えてえくのじゃぞ。上から見て均一に丸く葉が生えているじゃろ。横から見るとらせん状に葉が生えているのが分かるであろう。それが、葉の付き方の特徴になるのだぞ。見る目を育てるのじゃ。」


「これ?」


「うむ。それは…、似ているが違うようじゃぞ。葉の形ともう一つ葉脈という葉についている模様を見て見ろ。薬草は網目状じゃが、今お前が聞いたのは、どうだ?」


「あっ、真直ぐだ。葉っぱの形も同じようなのにね。」


「そう。見る所を覚えることが大切じゃ。」


「では、さっき、採集した薬草をアイテムボックスの中に入れてみろ。」


「うん。アイテムボックス・オープン」


「つぎに、薬草をアイテムボックスに覚えさせてみろ。呪文は、精錬の意味のアルケミーじゃ。アイテムボックスの中には、薬草しか入っておらぬからな。アルケミーだけで、十分のはずじゃ。」


「アルケミー?」


「そう。アルケミーじゃよ。自信をもってアイテムボックスに伝えるのだよ。精錬・分析しろってな。」


「アルケミー。…、何も起きないよ。薬草があるだけ。」


「そうだろうな。薬草しかないからな。しかし、次の呪文でさっきのアルケミーがうまくいったかどうか分かる。しかし、イメージが大事じゃぞ。では、やってみようかな。まず、アテムボックスの中にある物を探してみよ。」


「ん?探すって、薬草しかないよ。アイテムボックスの中でしょう。」


「本当に、薬草しかないか?」


「探してみたけど、薬草しかない。薬草が頭に浮かんだもの。」


「そうか。そうか。頭に浮かんだなだな。それならうまくいっている。」


「次は、アイテムボックスの口を大きく開いてみるんだ。できるだけ大きくな。」


「うーん。大きく開けー。」


「よしよし。口にするのは良いぞ。イメージが固まる。では、サーチ・薬草と唱えて見よ。薬草を探してもらうのだ。アイテムボックスにな。」


「サーチ・薬草。あっ、ある。あっちとそっちの方。そんなにたくさんないけど。サーチで見つけられたよ。」


「そうか。うまくいったな。これで、お前は、薬草探しの名人になれるぞ。」


 凜は、見つけた薬草をナイフで刈り取って行った。あっと言う間に20本の薬草を採集することができた。


 二人は、それからも歩いた。浅い部分とはいえ、森の中。魔物の気配をロジャーは、しばしば感じていたが、自らの大きな気配を隠さず、示すことで、二人の周りには魔物が現れることは無かった。


 魔物や野生の獣は、強者の気配に敏感だ。そう、あえて狩られに出てくるような真似をするものはいないのだ。しばらく歩くと森を抜けた。今までと違って遠くまで見通せる草原にでた。


「ねえ、ロジャーおじさん、お腹空かない?僕なんかお腹空いちゃったんだけど。」


 ロジャーは、左手に巻いた時計を見た。年代物の時計だ。使い始めて200年以上たっている。何度も修理して、整備してもらった時計だ。最後の整備からすでに100年以上たっているかもしれない。それでも動いているのだからすごい技術だ。


「もう12時過ぎているのか。先ほど食べた朝飯は、消化の良い物だけだったからな。腹もすくわな。良し。久しぶりに昼飯を食べるか。ちょっと待ってろ。座ることができる場所を作るからな。」


 ロジャーは、ストレージから屋根と柱と床だけの簡単なつくりの家を出した。日陰を作ることができるだけの家だ。その隣にコンロと調理台を出し、昨日のシチューを温め始めた。


 ストレージの中では、温度を保つことができるのか、シチューはすぐにコトコトとたぎり始めた。それから、チーズとパンのようなものを出し、コンロの下についているオーブンで温め始めた。


「焼いた肉も食いたいか?」


「シチューとパンがあれば大丈夫。美味しそうな臭いがここまでしてるよ。早く食べたいな。」


 ロジャーは、熱々のシチューを皿に注ぎ、パンも別の皿にのせると凜の前に出してやった。自分の分もテーブルのに上に置き、二人で食事を始めた。


「なんか、キャンプに来ているみたいだね。僕は、キャンプなんてしたことなかったけど、テレビでは見たことあるよ。まあ、お家の中で食べるんじゃないけどね。でも、このお家、外みたいだから、やっぱりキャンプだね。」


「キャンプか。野宿はいつものことだからな。お主たちの世界のキャンプみたいなものだろうな。さあ、おしゃべりばかりしてたら、せっかく温めたシチューが冷めてしまう。さっさと食べてしまうぞ。」


「うん。お替りしても良いの?」


「食べることができるならな。お主、魔力病だったのだから胃は、そう大きくないだろう。自分の胃と相談しながら食べるのだぞ。」


「魔力病がなおったら、たくさん食べることができるようになったみたい。まだまだ食べたいんだ。」


 それから、凜は、シチューを2回お替りし、パンももう一枚食べた。つい昨日まで、こちらの世界でもほとんど食べ物を口に入れることもできないような状態だったのにすごい食欲だ。


「うん。お主、本当に魔力病は完治しているようだな。それなら、もう少し体を鍛えた方が良いだろう。それに、自分の身を守るすべも覚えないとならぬからな。」


 それから、しばらくの間、簡単な家-東屋あずまや-そばで、身体を動かす練習をした。突きや蹴り受けなどロジャーは、基本的な型を凜に教えた。まあ、まだまだ形にはなっておらず、身体を動かす練習としてしか役に立たないようだったが…。


「暑い。汗かいて来ちゃったよ。」


「お主は、身体強化を持っておらぬからな。人一倍、体を鍛えないとこの世界では、身を守ることが難しいぞ。後は、魔法だな。お主が身を守り、この世界で生きていくのに必要な技術だ。しかし、儂は、放出系の魔法は持っておらぬからな…。」


 ロジャーは、しばらくの間考えていたが、ふと何かを思いついたように顔を上げた。


「お主の、アイテムボックスは、不思議な力があるかもしれぬ。儂のストレージと違ってな。少し試してみようではないか。」


「今から、儂の放出系の技、鎌鼬かまいたちを見せてやる。良いか、そこの木の枝を見ておれ。」


 ロジャーは、草原の中に立っている一本の木に10m程の距離を取り、正対の構えを取った。スーっと息すうと、フッと止めると同時に、

『ビュッ』右手で手刀のを作り、鋭く振った。

「ハッ」『ポトリ』

 木の枝が、落ちた。鋭い刃物で切られたような滑らかな切り口だ。


「凄い。離れている場所の木の枝を…、どうやったの?手品みたい。」


「手刀で真空の刃を作ったのだよ。コントロールが難しい技だが、放出系の魔法ではない。身体強化で作っているのじゃ。鋭く手刀を振りぬくことでな。」


「えーっ、身体強化なら無理じゃん。僕出来ないんでしょう?」


「この技はできぬだろうな。しかし、お主の、アイテムボックスにこの技を入れることができれば、鎌鼬かまいたちは、使えるようになるかもしれぬぞ。」


「えっ?どういうこと。僕のアイテムボックスに鎌鼬かまいたちを入れることができるって。」


「少し怖い思いをするかもしれんが、やってみる気はあるか?」


「怖いだけ?痛くない?」


「うまくいけば、痛くはない。しかし、怖がってアイテムボックスを閉じたりすれば、痛い思いをするかもしれん。要は、怖くても逃げぬことだ。それができれば、痛い思いはしない。」


「逃げなければ、痛くないんだね。分かった。怖くても逃げないよ。やってみる。」


 ロジャーは、凜の前2m程の所に正対の構えを取っている。


「凜、良いか、お主のアイテムボックスの口を儂の方に開くのじゃ。その口は、儂には見えぬ。だから、お主がすっぽりの祖陰に隠れることができる位の口にしておくのだぞ。そして右手のひらを儂のここ胸の中心辺りに向けておくのじゃ。良いな。絶対アイテムボックスの口を閉じるのではないぞ。そして、できれば儂の手刀を見ておれ。行くぞ。」


「はっ」『ビュッ』


 アイテムボックスの中に何か入って来たのが分かった。


「アイテムボックス・オープン。あっ、鎌鼬が入ってる。」


「良し。うまくいったようだな。では、今から精錬だ。鎌鼬の材料は、空気だ。空気をすごい勢いで回転させることで真空部分を作っているのだ。だから、アイテムボックスの中に材料の空気を入れておかねばならない。」


「手を伸ばして、空気を収納してみよ。空気は、お主の周りにもたくさんあるからな。」


「収納・空気」

 空気を収納すると、辺りから風が吹き込んできた。一瞬だったけどすごい勢いの風だったからびっくりした。


「次は、精錬じゃ。呪文は、覚えておるな。アルケミー・鎌鼬と唱えて見よ。」


「うん。分かった。アルケミー・鎌鼬」


「お主がさっき収納した鎌鼬をコピーして鎌鼬が2個になっているはずじゃがどうだ?」


「アイテムボックス・オープン。うん。鎌鼬が2個になっる。」


「では、次は、一度にたくさんの鎌鼬を作る方法じゃ。材料があればじゃがな。まあ、鎌鼬の材料の空気は、先ぼ度沢山収納したから大丈夫だがな。一度にたくさん作るときは、その数を指定すればよい。アルケミー・鎌鼬・100。という風にな。」


「アルケミー・鎌鼬・200。アイテムボックス・オープン。」


「うん。ある。202個の鎌鼬ができているよ。」


「では、放出する方法じゃ。アイテムボックスを開き、鎌鼬を呼び出せばよい。アイテムボックス・オープン・鎌鼬。とな。放出方向は、手の平で指定するのだ。そこから鎌鼬が放出される。」


「じゃあ、やってみるね。」


 凜は、ロジャーが枝を落とした木の方に手の平を向けた。


「アイテムボックス・オープン・鎌鼬」


 外れだ。


「すでに、アイテムボックスは開いている。もう一度、鎌鼬と唱えれば、放出されるぞ」


「鎌鼬・鎌鼬・鎌鼬」


 三発の鎌鼬が撃ちだされ、木の枝をそいでいった。一本の絵だと、たくさんの木の葉が落ちてきた。


「凜よ。正確に狙う練習が必要だな。それと、精錬中に威力を調節することができるはずだ。沢山の魔力を込めて強い鎌鼬になるように精錬すれば、高い威力の鎌鼬になる。」


「分かった。やってみる。アルケミー・カーマ―イーターチー!」


「アイテムボックス・オーファン。あれ?カーマ―イーターチーができてる。なんだこれ?」


「使ってみれば、分かるのではないか?」


「わかった。やってみる。アイテムボックス・オープン・カーマ―イーターチー。」


『ゴォー、バキバキバキバキバキッ。』


 数本の木をなぎ倒し、草原をえぐりながら、カーマ―イーターチーは、上空に消えて行った。


「凜!お主。加減というものがあるだろうが!」


「ごっ、ごめんなさーい。」


 こうして、凜とロジャーの異世界での冒険が始まった。地球での、父との治療は、もう少し続けないといけないようだが、異世界では、病気は、完治した。


 凜は、異世界での冒険に胸を膨らませながら、町へと向かうのだった。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


この物語は、ここでいったん終了することにします。

この後は、ルビ付けなんかを中心に修正していきます。


この話が面白かったなと思われる方は ★

この物語を一話から読んでみようかなと思われる方は ★★

この続きが読みたいなって思われる方は ★★★


頂けますと作者もこの続きを頑張って書こうと思うんじゃないかな…。


この物語に続く物語は

「パートタイム異世界転生」


https://kakuyomu.jp/works/16817330651918725184

       

です。

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原因不明の病気の僕は、治療と冒険は異世界で行うことにした 伊都海月 @itosky08

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